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天衣無縫なお嬢様  作者: 眠熊猫
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魔法学校の入試(ヤルツァ教頭視点)

ここエラリナにある魔法学校は、わが国唯一の魔法専門の学校である。

魔法は規模の大小を問わないなら、この世界の全ての人が使えるもの。

けれど有用な魔法(治癒やポーション作り、広範囲の結界や強力な攻撃魔法など)を使える者はごくわずか。また持っている魔力が多過ぎて、それを制御出来ずに身体を損ねてしまう者さえいる。

だから魔力の多い者、希少な魔法に適正のある者はなるべく早く学校に迎えて指導する必要があるのだ。

その為にこの学校に入学するのには年齢制限や入学時期を設けていない。随時入学制度を取っている。

校長があまりこの学校にいないのは、国内で報告された魔力が多そうな者、希少魔法の発動などの報告を受けてその検証に出かけることが多いせいだ。

大抵は噂や大げさになった伝聞に過ぎない。が、それでも二年に一度くらいは対象者が見つかる。

そしてそういう経緯で見つかった対象者は大抵有益な魔法または魔力の持ち主なので駄目もとでも探しに行く価値があるのだ。


今日も数日前から校長が出かけている為に事務処理に励んでいる私に事務局から

「入学申し込み書を持った方がいらっしゃいました。」

と知らせが来た。

レティシア・ルミシル・アキテーヌン。

アキテーヌン伯爵の末娘か。音楽の才能があると評判だったが、魔力もあると見える。まあ推薦が父親だから親バカで目が眩んでいる可能性も捨てきれないが。

そう思いながら会ってみれば可愛らしい、ごく普通の女の子だ。

魔力が余って制御出来ないようには思えないし、これは親バカの方が当たりだったか…

まあ一応試験はしてみるとして。


本人の希望で薬草畑(薬草園と呼んでいるが)に案内する。周囲には薬効のある葉や花や実をつける樹木も数種類植えてある場所だ。踏み荒すことはしないで欲しいと注意をしたら楽しそうな笑顔で頷かれた。

…本当に大丈夫だろうか?目がキラキラしているんだが。


彼女は薬草園の近くに立つと歌い始めた。えっ?である。何故歌を歌うんだ?

「花よ香りに乗せて風にあなたの魔力を混ぜて

私に少し分けてちょうだい 大切に使うから お願い

病気や痛みで苦しむ皆の薬が作れるように」

彼女が歌っているうちにいつのまにか白いチョウが幾匹も現れて薬草や樹木の上や間を飛び回り始めた。

薬草や樹木の葉や花に触れたチョウは様々な色をまとい、彼女が用意した幾つかの瓶に身を入れて溶ける。

それでチョウは彼女の魔法が作ったものと知れた。

だが、こんな魔法は見たことがない。呪文ではなく歌で発動するなど。無詠唱に近いのではないか?

いやしかし無詠唱ではないよな、歌が呪文の代わりをしているのだから…うーむ。


私が考え込んでいると彼女が声をかけた。

「教頭先生、これが私の一番得意な魔法です。

ユル草とアイネ草とラミの実からエキスをいただきました。私の魔力も溶けているのでこれらのエキスを水に溶かせばポーションになります。そうして一本一本の草や一つ一つの実からはごく僅かしかいただいていませんから、明日には皆回復しています。」

そう言って三本の瓶を私に差し出す。

思わず反射的に鑑定魔法を発動して瓶を鑑定すると


ユル草のエキス

レティシアの魔力が溶けている為に効果が高いポーションの原料の一つになる。

単独では解熱、炎症を治す薬になる。

アイネ草のエキス

レティシアの魔力が(中略)

単独では体力回復、傷口再生、食欲増進の薬になる

ラミの実のエキス

レティシアの(中略)

単独では魔力回復、精神安定の薬になる


いずれも清潔な水で五十倍以上に薄めて飲用しないとかえって身体を損ねるので注意。一回の服用量は大人でコップ半分。


…これほどのことを成して、何でもないように微笑んでいるレティシア。

一番得意な魔法ということは。他の魔法はどういうものなのだろうか。

私が何も言わずに考えていたせいか、不安そうな顔をし始めた彼女に合格を伝え、さきほどの部屋に戻る。

部屋で待っていた従者たちに合格を告げると事務員を呼び、彼女が使う寮の部屋を決めた。

衛士は自領に戻るそうで、侍女と二人ならと、寝室が二つと小さなキッチン付きの居間が一つついている、貴族用の部屋の中でも割に簡素な続き部屋に決まる。

学校の備品である教科書を渡すと、

「これから要り用の物を購入しますし、雑用を片付けたいので、授業を受けるのは四日後からになります。どうぞよろしくお願い申し上げます。」

そう言って彼女たちが出て行った部屋に私が残り、事務員にドール先生を呼んでもらう。


「お呼びと伺いました。教頭の部屋ではなくこちらとは珍しい。何かありましたか?」

「うん。あったんだ。新入生だけど。」

「ほう。」

「ドール先生の研究は薬と治癒魔法だよね。」

「はい。生まれた時に与えられたスキルの鑑定に頼りがちですが薬草の研究もしています。」

「ではこれを鑑定してくれる?」

「はい、もちろん…!これはどういうことですか?

このレティシアという方が新入生ですね?エキスの精製過程で魔力を加えるなんて可能なんですか?あの、もうこのレベルでエキス精製が出来る程の人ならば僕が弟子入りしたいんですけど!」

「レティシア嬢は十歳になったばかりだ。弟子入りは無理だね。エキスは魔法で作ってた。だから魔力が加わったのはある意味当たり前。そして彼女は『私が一番得意な魔法がこれ』と言ってた。つまり」

「他の魔法って何でしょう?」

「それを含めて彼女の担任になって欲しい。駄目?」

「色々不安もありますが…全力を尽くします!」

「彼女は四日後から授業に出ると言っていました。どうぞよろしく願いします。」

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