どうしましょう
私の望む学校へ行かせていただける…
お父さまお母さまがなかなか学校のことをおっしゃらなかったのはそういうことでしたの。
普通に考えたら王都の女学園に通うのが良いに決まっています。生徒は貴族ばかりですし、のちのちの人脈作り、伝手作りに役立ちますから。
それに婚約が決まった方には嫁ぎ先のことを知ることにも有効です。明らかに気が合わない義姉妹がいるのは誰だって嫌なもの。
逆に義姉妹と仲良しならば夫のこと、家のしきたりのことなどを相談しやすいですからね。
でも…私は末娘で、今も好きなようにさせていただいています。私はもしかしたらお父さまもお母さまも私を魔術師か神官にしても良いと思ってらっしゃるのかしら?
それとも私に良いと思われる婚約者(候補)が見つからないとか…?ありそうですけど。
少なくともうちの領地に近い領主様たちの独身の息子さんたちって二十歳くらい歳上の方が数人。でなければ私より八歳か九歳下なんです。結婚相手には少しご遠慮したくて…
だとしたら、魔法学校の方が良いかしら?神学校に進むと神官になるしかありませんもの…
その方が良いのかしら?どうかしら?
「それはすごく些細なこと。大切なのは君の気持ち。君が何をしたいか、それだけで決めて良いよ。」
心の中に響いたその声は、神様の声。
「君が心から願えば、ふさわしい結婚相手は必ず現れる。君がずっと独身でいたければそれでも良い。それは今から焦らなくても良いだろう?そんな先のことではなくて。君は今何がしたい?」
「何か、人の役に立ちたいです。」
「魔法で?」
「出来れば便利な道具を開発するとか、薬を作るとか、農業技術…は難しいかしら?野菜や果物の品種改良とか?」
「君の中にある知識は相変わらず興味深い。魔法学校の領域を越えてしまうんだね!」
「でも、こちらの世界には科学技術がありませんから…。私がある程度成果を上げる為には魔法が不可欠ですよね、きっと。」
「なるほど。君がどんなものを作るのか楽しみになってきたよ。」
「…何の役にも立たないかもしれませんよ?」
「それでも構わない。ああ、お願いがあるんだ。僕の為に賛美歌をいくつか、作ってくれる?」
「えーと。前世で歌っていたものに歌詞だけ変えて…転用出来そうな曲がいくつかありそうです。先生を通しておじ様に渡しますね。」
「君が前に住んでいた世界の歌は本当に綺麗だから嬉しいよ。ありがとう。ではまた。」
その言葉を最後に神様の声と気配が無くなりました。
魔法学校に入学するにはどうしたら良いのか、明日お父さまに詳しく尋ねましょう。
それから、賛美歌の楽譜と歌詞を書いておかないと。
神の愛を讃えた曲と感謝の曲と…クリスマスソングの歌詞を変えればきっと大丈夫。それから、ドイツやイタリア歌曲からの転用も出来そうです。
後日、お父さまとお母さまに魔法学校に行きたい旨を話しました。すぐに許されて先生の授業に魔法史と地理が加わりました。十日間のハードな詰め込み授業で少しクラクラしたのは…内緒です。
神様への賛美歌はほめ讃える歌を三つと、別れの歌を二つ、結婚を寿ぎ神様からの祝福を祈る歌を二つ、旅の無事を祈る歌を二つ、作りました。
それは全部、先生からおじさまを通じて教会へ渡していただきました。…教会の方たちにも喜ばれますように。
「従兄弟殿。レティシアは神学校には行かないんだよな?」
「そう言っていたが?あの楽譜は今まで教えてくれたユーマと、ユーマを教師につけてくれた感謝を込めて親戚でもあるラミアス司教に贈ったものだそうだ。役に立つか?」
「役に立つどころじゃない!すごく綺麗な曲と歌詞に皆夢中になっているよ。レティシアは神学校に来ないのかと一日に何度も尋ねられるくらいだ。」
「あー。歌がもう少し欲しいのならまた考えるからよろしく、だそうだ。」
「教会に寄付すると?」
「そうなる。歌を作るのは家族と教会に贈る為に限りたいそうだ。」
「教会としては助かるが…」
「知らない人間から広まるのは嫌なんだと。実は私たちにも祭りの歌やサロンで歌う歌などをくれたよ。あの子らしい、明るくて楽しい曲だった。」
「…なるほど。」




