ユーマ先生
「おはようございます、ユーマ先生。今日もお会い出来て嬉しいですわ。神さまに感謝します。」
「おはようございます、レティシア様。神に感謝とはいささか大げさですよ。」
「そうですか?私も先生も元気で、生きていて、会話が出来るって素敵じゃありません?」
「生きていることが素敵だから、感謝ですか?」
「はい!」
「…レティシア様。これからレティシア様に少し意地悪な質問をします。答えられなかったら、そう言ってください。教会の教えからは外れるかもしれません。でも、ただ思いついたことがあればおっしゃってください。」
「はい。」
今日の授業?はいつもと違うことになりそうです。わくわくしますね。
「…レティシア様、ありがとうございました。私は午後から司教様のおられる教会へ参りたく存じます。よろしいでしょうか?」
「ええと、一応父か母に断ってくださいね?私は午後からはソーニア先生の授業が終わったら庭師に草や木のことを尋ねに行くことにします。侍女の誰かについてもらいますから、大丈夫だと思います。」
「ありがとうございます。」
「おう、久しぶりだな。どうしたユーマ。教会が恋しくなったか?レティシア様の相手は大変だろう?」
「ラミアス司教。あの方…レティシア様は何ものなんですか?」
「どうかした?」
「あの方は今日『生きていることに感謝する』と言いました。私はその言葉に少し反発しまして。『今日死んでも感謝出来ますか?』と。レティシア様は即答されました。今日まで生きられて嬉しいって。」
「レティシア様らしい。」
「生まれてすぐに死ぬ命だってあります。その子に関しては?と重ねて尋ねました。」
「君の命題だね。」
「レティシア様は真面目なお顔になりました。そうして『一つの世界が失われたのは悲しいこと。でも誰かの心に何かが生まれるきっかけにはなったと思います。』と。」
「?」
「人はその心に、その人だけの世界を持つ。それは独特で、その人の思いや考えを生み出す世界でもある。いわば可能性のかたまりだと。そして人は誰かの言葉、行動によって動かされるから、可能性もまた人との出会いで広がっていく。例えば、私の言葉で何か素晴らしいことを思いつく人がいるかもしれず、私の子どもや孫が素晴らしい人になるかもしれない。何もしないまま亡くなったその子だって周りの人に何かを遺していった筈だ、と。」
「それはその通りじゃないか。」
「『悲しいだけではない、何か良いものが生まれるきっかけになると良いですわね。』レティシア様は私にそう言ったんです。」
「間違いではないね。」
「あのかたはまだ六歳になったばかりなんですよ!どうしてそんな答えを思いつくんですか?私は…私には未だに答えなんて無いのに。どうして私が生きていて、弟が死ななければいけなかったのか。」
「レティシア様は、他に何か言ったの?」
「『私はユーマ先生にお会い出来たこと、とても嬉しいです。』と…」
「彼女は君の周りのこと、君がどうしてきたかなどはまるで知らないよ。ただ君の質問に精一杯答えただけだ。…気味が悪い?」
「いいえ。ただすごく驚いた…そうです。当たり前のように今の私を受け入れ、思いもよらないことを言うあの方に驚いています。そして恐いのではなく、畏れを覚えました。今までどんなに祈っても感じたことのない、畏れ多さを。」
「何かに触れた気がする?」
「まだ何もわかりませんが。」
「レティシア様の側にいたい?」
「はい。」




