神さまとお話
「レティシア、どうしたの?何かあった?」
「神さますみません。お呼びするような真似をして。お尋ねしたいんです。神さまと教会と教会の教えってどう関連しているのか。」
「あーそれかぁ。基本的には僕は教会の誰かに託宣を下ろしたりしたことはない。この世界の教会と宗教は自然発生的なものだから。この世界には創造神である僕しか本当はいないんだけど、教会の教えでは創造神の他に天の神、大地の神、海の神、愛の神、裁きの神がいることになっているよね。
でも僕としてはそのあたりのことはどうでも良い。気にしていないというより、神は人間にとって色々な側面を持つから、一部しか見られない、感じられない人間がどう思っても仕方ないもの。」
「人が目隠ししてゾウやクジラを触るようなもの?」
「わかりやすい例えだね。うん。僕はこの世界を愛している。自分が創った世界だから。ただ人間というのは、僕の予測や思惑を外すことが出来る存在でもあるだろう?そこが面白くもあるけど。だから、ある程度倫理観を持って欲しいとは思っているんだ。それで今の教会とその教えを黙認している。盗むな、殺すな、騙すな、神を崇めよ。神と人に感謝を忘れるな。という教えをね。」
「確かに、あまり無茶なことを教えているわけではありませんよね。極めて常識的な教えです。…でも多神教だったのに驚いたんです。私はあなたしか神さまを知らなかったし、他にいるような感じがしなかったので。」
「それで僕に今君が教えられている宗教を信じて良いかを確かめたくなったのか。」
「はい。」
「うーんとね、実を言うと、宗教を信じていようが信じていなかろうが、どっちでも構わない。それで人を傷つけたり争わないで済むなら。どうであれ、本人がより善人になることが出来て、幸福であるなら僕は嬉しい。」
「は?」
「神なんてそんなものだよ?人が認知する範囲なんてタカが知れてる。僕はこれでも神だから人より高次元にいる。だから人が気にするあれやこれや、些細なことは気にならない。いかに誠実に物事や気持ちに向き合って生きているか、その人にとって善い方向に進んでいるか。それだけが大切だから。
例えば、僕を信じて生きていたって、最後の最後に謝れば許してくれるだろうって考えて自堕落な生き方をする人を僕は喜ばない。その人が改心して頑張れば喜ぶけど。一方で例え僕を嫌っていたって、人は神を信じなくても自分の努力でここまで善人になれるんだぞって頑張っている人を僕が喜ばないと思う?
人の評価と神の評価は違うもので、その人に対する神である僕の評価はその人が死なないとわからない。だけど、今の教会を僕は黙認してる。そのわけはわかった?」
「悪いものではないから?」
「妥当だから、だね。人の中には海の神だけを信仰したり、愛の神だけを崇める人もいる。でもあくまでも教会の教えの範囲内でしていることだし、どれも僕の一面ではあることだし、気にしていないよ。」
「ありがとうございます。少し安心しました。」
「君は例外的に僕を知ったからね。教会の教本の内容に戸惑ってしまったか。」
「戸惑った…そうですね。どこか違和感があって。このままこの教えを受け入れて大丈夫なのかなと思ったんです。」
「大丈夫だよ。受け入れても、受け入れなくても。僕は君を受け入れているし、君も僕を受け入れてくれた。君はそのことをもう忘れてしまったけれど。でも今の君も僕を受け入れてくれている。自覚は?」
「あります。」
「なら本当に大丈夫だ。」
「え?」
「何故って僕が神だから。君を守るって言っただろう。それを君が受け入れたんだからね。」
「ありがとうございます。」
「そうなんだ。素直な感謝や喜びを僕に返してくれることが一番嬉しい。」
「では、出来るだけ素直に申し上げることにします。」




