私って庭仕事に向いていると思うの
「お嬢様!またお手をそんなにお汚しになって!ああお召し物の裾にも!こんなに泥や土埃が!…じっとしていてください。今清潔魔法をかけますから。」
「…エイダごめんなさい。でもね、あのね…」
「庭の草木がいくら助けを求めてきたとしてもお嬢様が答える必要はありません!何の為に庭師がいるとお思いですか?」
「リックもサルトもよくやってくれているわ。でも。撫でてとか褒めてとか言うんですもん。それは私に撫でて欲しかったり褒めて欲しかったりすることだから私がしてあげないと。それに明後日は母さまのお誕生日だから、母さまのお好きな椿に満開になるように頼んだの…そうしたら椿ってば上等の肥料が欲しいって言うから、干したお魚をサラダボウルに一杯分埋めてあげたら…ドレスがこうなってしまったの…」
「…あのですね、お嬢様。普通の人は草木の声を聞けないんです。私もリックもサルトも。ご主人様も奥様もです。」
「えっ?」
「ですから、ことさら草木はお嬢様にわがままを言うのです。」
「それでは、リックたちはどうやって庭の手入れをしているの?」
「普通にです。長年培った経験と技術がありますから。」
「切る時に断ったりはしないの?」
「しませんでしょうね。多分ですが。」
「ええ?だってそうしないとお花は長もちしないし、お野菜や果物は不味くなるのに?」
「…そうなんですか?」
「そうよ。切ったりもいだりする前にひと言断れば草木にも気持ちの準備が出来るもの。動物や虫たちはいきなり食べるから、草木が怒って分泌する毒にあたることがあるのよ。
人には口がついているのだから声をかけた方が良いに決まってるわ。草木は食べられることが嫌というより、子孫を残せないのを嫌がるから、ちゃんと種の分は残してあるよとかとても美味しかったから来年もよろしくとか綺麗な花をありがとうとか言って欲しいのよ。」
「お嬢様、それは本当のことなのですね?」
「うん。」
「…ということだそうです。ご主人様奥様。」
「まともにとって良い話なのだろうか。」
「いわゆるスキルなのでしょうね。」
「アルテ、レティはまだ…」
「ええ、五歳ですわ。ウィル。けれど…これはあなたの従兄弟でもあるラミアス司教に一度見ていただいた方が良いと思います。確か彼は鑑定のスキル持ちでしたでしょう?レティシアの今までの言動を私たちは一人遊びだとばかり思っていました。けれど、もしかしたらごっこ遊びではなく、誰も知らないスキルなのかも。だとしたら、信頼出来る方に導いてもらわないと。」
「ラミアス司教が導いてくれるかどうか…とりあえず鑑定してもらおう。ついでにレティのその他の適性についても調べてもらうか。」
「レティシア様。初めてお目にかかります。私はラミアス。このアキテーヌンの教会で司教の任に就いております。どうぞよしなに。」
「ラミアス司教さま。初めまして。私はレティシア・ ルミシル・アキテーヌンと申します。ウィリアム・サザー・アキテーヌンとアルティメリア・サリナ・アキテーヌンの末子です。お見知りおきくださいませ。」
「早速ですが、この板に両の掌を置いていただけますか?…はい。結構です。」
「ラミアス司教さま。よろしければ今度、神さまに捧げるお歌を教えてくださいませんか?私、恥ずかしながら上手に歌えませんの…」
「喜んで。では次にお目にかかる時には楽譜と竪琴を持参いたしますね。」
「ありがとうございます!」
「私は領主様にお話することがありますので、今日はこれで失礼いたしますね。」
「ご機嫌よう。ラミアス司教さま。」