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俺の周りは聖獣ばかり ~使役スキルで成り上がる異世界建国譚~【改訂版】  作者: 青雲あゆむ
第5章 国創り編

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69.国の在り方

 ドワーフの移住者を集めて話をしたら、思った以上に強い信頼関係を築くことができた。

 彼らは貴重な職人だから、建国を目指す俺にとっては実に心強い。


「さすがはタツマ様、見事に同胞の心をつかみましたな。これならば早速、精霊と契約させてもよいでしょう」

「うん、そうしよう……だけど、どうしたらいいかな?」

「そうですな。まずは人数分の土精霊ノーミーを呼ぶ必要があるので、それをゲンブ殿にお願いできますかな?」


 ベンケイがゲンブに頼むと、快い返事が返ってくる。


「うむ、よいぞ。そ~れ、来い来い、土の子よ」


 その場でゲンブは、歌うように精霊を呼び集めだした。

 振り子のようにヒョコヒョコと首を振る仕草が、ちょっとコミカルで面白い。


「カ、カメが喋ったぞ……まさかあれが四神だったとは……」


 喋るカメに驚くドワーフたちを尻目に、スザクに視界を共有してもらうと、たしかにノーミーが集まってきていた。

 ニカに似た幼女たちが、俺たちの周りでたわむれている。


「ありがとう、ゲンブ。それでは今から皆さんには、俺と使役契約を結んでもらいます。ノーミーを認識するための一時的なものなので、安心してください」

「使役契約って、旦那、本当に大丈夫なんですかい?」

「ちょっと怖いな……」


 ほとんどのドワーフが尻込みする中、ウンケイが進み出た。


「ノーミーと契約させてもらえるというのに、何を今さら恐れるんですか? タツマ様、私からお願いします」

「分かった。『契約コントラクト』」


 なんの抵抗もなく契約が成立し、ウンケイもスザクの視覚を共有する。

 初めてノーミーを目の当たりにした彼が、驚きの声を上げる。


「これはっ……なるほど。こうすることによって、精霊との契約を可能にするのですね」

「ええ、そうです。まずは好きな子を見つけて、交渉してみるといい。通訳が必要なら、スザクがやってくれますよ」


 ウンケイはしばらく迷っていたものの、自分に近づいてきたノーミーに的を絞り、見事に単独で契約してみせた。

 するとそれを知った残りのドワーフたちも、我先に使役契約を望む。

 望まれるままに彼らを仲間に加えていくと、やがて全員がノーミーとの契約に成功した。


 そしたらもう、大変だ。

 ドワーフたちが覚えたての鍛冶魔法を使って、はしゃぐわ、泣くわの大騒ぎ。

 しかもその感激を俺と共有しようとするもんだから、たまらない。

 むさいおっさんたちが、涙と鼻水たらして迫ってくるなんて、勘弁してくれってんだ。


 ちなみに今回、火精霊サラマンデスとの契約は見送っている。

 そもそも相性が悪いと契約できないし、先に契約したノーミーと仲良くなって、許可をもらわないといけないからだ。

 はたしてこの中から何人が、2属性持ちになれるだろうか?


 その後は屋外に移り、家族総出で宴会をした。

 俺の家の前で大きな焚き火を作り、飲めや歌えの大騒ぎだ。

 ここでも精霊契約に成功したドワーフ親父たちが、ハイテンションで騒ぎまくった。

 さすがにはしゃぎ過ぎて、奥さんたちにどつかれてたけどな。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 バカ騒ぎの翌日、再びドワーフたちを集め、今後の計画について話し合った。


「え~、それじゃあ、今後の活動について計画を立てます。まず必要なのは、家ですね」

「うん? 家は昨日みたいに土魔法で作るんじゃないのかい?」


 大工仕事を生業なりわいにするゲンドウが、不思議そうに問う。


「土魔法で作るのは、あくまで仮住まいの家だけにしたいんですよ。あんまりその仕事に拘束されたくないので」

「ああ、それもそうだな。お前さんたちに甘えっぱなしってわけにはいかねえか……よし、家作りに関しては俺に任してくんな」

「ええ、頼みますよ、ゲンさん。みんなで手伝いますから」


 ここでウンケイが問題を指摘する。


「しかし家を建てるにしても、それなりに計画性を持たせないと、後で困りますよね。おそらく人はどんどん増えますから」

「そのとおりです。まずはこの家の周辺を将来の首都にするため、ある程度の土地を確保したいと思ってます。いずれはいろんな店を出したりして、賑やかにしたいかな。それと国を動かす行政地区も、この辺に作る予定です」

「なるほど。その周りに住宅地や農地を広げていく形ですね。これは腕の振るいがいがありそうだ」


 眼鏡の位置を直しながら、ウンケイが目を輝かせる。

 頼りにしてますよ、ウンケイさん。


「しかし、農地の開発はどうするんだい? この辺は草原だからまだマシだが、大変だぜ、ありゃ」

「そうですね。それについては、魔法で労力を軽減しようと思ってます。なんてったって、俺たちにはゲンブとアヤメがいますから」

「えっ、私ですか?」

「フォッフォッフォ、主殿は人使いが荒いのう」


 突然の指名にアヤメが驚いているが、俺はがっつり巻きこむつもりである。

 魔法を使えば、通常の開拓よりはずっと効率的にできるだろう。

 ここでシンカイが手を上げた。


「俺は早く鍛冶をやりたいんだが、鉄はどうするんだ? 外から買うのかい?」

「しばらくは買わざるを得ないけど、いずれは自分たちで作るつもりです。それはオウミでもやってますよね?」

「ああ、あちこちで、たたた吹きってのをやってるな」


 やはりこの世界にもたたら吹きがあるらしい。

 それはたたらという足踏み式のふいごで、炉に風を送る製鉄法で、某アニメ映画で有名になったやつだ。


「いずれにしても砂鉄か鉄鉱石を見つけないといけません。それと、木炭だけだと自然が壊れるので、いずれは石炭に切り替えたいですね」

「石炭ってのは、なんだい?」

「土の中に埋まってる炭ですよ。不純物が多いんで処理は必要ですけど、大量生産に向いてます」

「そんなにたくさん作るつもりなのかい?」

「ええ、暮らしを豊かにするのに鉄は、必須ですから。武器ももっと必要になるだろうし」

「武器って、こんな魔境のど真ん中に、攻めてくる奴なんていねえだろ? まあ、魔物とは戦わなきゃいけねえだろうが」

「本当に魔物だけなら、いいんですがね……」


 俺が解放した四神の遺跡だって、常識外れの代物だ。

 ゲンブやスザクの他に、魔境への侵入を可能にする手段が無いとも言いきれない。

 何より、アヤメの叔母に憑依ひょういした鬼神シュテンは、まだ行方不明のままなのだ。

 続いてウンケイが提案する。


「すぐにとは言いませんが、湖も有効活用しましょう。魚が取れるし、水運としても使えます」

「うん、俺もそれには目をつけてます。どこか、船を手に入れる当てはないですかね?」

「それならもちろんオウミ国です。ビワの海のあちこちに造船所がありますから。いずれは船大工も勧誘したいですね」

「それはいい。そういえば小舟と漁具を買いたいんだけど、伝手つてとかあります?」

「そうですねぇ……父上の伝手をたどれば、なんとかなるかもしれません。紹介状を書いてもらいましょう」

「さすが、有力者だけありますね。よろしくお願いします」


 景気のいい話に盛り上がっていたら、ウンケイが重要なことを指摘する。


「しかし、いずれにしろお金が掛かります。失礼ですが、タツマ様はいかほどの資金をお持ちですか?」

「え~と、たしか金貨20枚くらいはあったよね?」


 財産管理を任せているアヤメに聞くと、18枚ぐらいだった。

 金貨1枚が10万円とすれば180万円に相当するが、国を作るにはあまりに心許ない金額だ。


「金貨18枚ですか……何か早急に、金策を考えねばなりませんね」

「そうなんですよねぇ。ベンケイたちに何か作ってもらうにしても時間が掛かるだろうし。やっぱり、手っ取り早いのは迷宮かな」

「迷宮、ですか?」

「そう。体力のある人に武器と防具を持たせて、迷宮で魔石を取ってもらうんですよ。もちろん俺たちが指導するから、それほど危険は無いです」

「ふ~む、たしかに手っ取り早い手ではありますね。おまけに戦力の底上げにつながるのなら、やらない手はないか」

「そうそう。あとは時間を掛けて特産品を作っていきたいですね。できれば女子供でもできるようなやつを」


 特産品についてはいろいろ意見が出たが、あまり良い案は浮かばなかった。

 やがて話は治安の問題に移る。


「人が集まれば集まるほど、トラブルが発生します。治安維持はどうしますか?」

「各種族から人を出してもらって、自警団を作ります。そしてそれを村長の下に付けて、秩序を保たせる。各村には目安箱ってのを置いて、住民の意見や訴えを吸い上げたいな。こっちにはツクヨミの巫女がいるから、裁判も公正にできると思うし」

「えっ、それって私のことですか?」


 いきなり話を振られたアヤメが驚いている。


「もちろん。いずれ人は増やすけど、そっちの方はアヤメに任せるから、覚悟しておいて」

「はい、分かりました……」


 しかしそれだけでは、ウンケイは納得しなかった。


「まあ、当分はそれでやれるでしょうね。しかし、いずれコントロールできなくなりますよ」

「なんで? みんな喜んで協力してくれると思うけど」

「タツマ様は良いお人ですし、大きな力を持っているので、簡単に人を信じすぎです。たしかに獣人種や妖精種は、人族に比べたら淡白かもしれませんが、欲の強い者もいます。そのうち、ひどいのも出てきますよ」

「ひどいって、どんな?」

「そうですね……例えば怒りに任せて暴れるとか、現実が受け入れられなくて逆恨みするような連中、ですかね」

「まあ、大勢集まれば、そんな人もいるだろうね。だけど、司法体制をしっかり構築しておけば――」

「世の中、完璧なものなどありませんよ。必ずほころびが出ます……私が言いたいのは、理想論だけでなく、清濁あわせ飲む覚悟がいるということです。少々いいかげんなぐらいで、いいんですよ」


 そう言うウンケイの顔は、妙に冷めていた。

 たしかベンケイの10歳下だから、23歳のはずだけど、ずいぶんと達観したものだ。

 しかしその助言は貴重である。


 俺だって前世では、いろいろ学んだ。

 人間なんて、個人がどれだけ立派でも、群集になるとたちまち馬鹿になっちまうもんだ。

 そんな人の愚かしさを受け入れつつ、よりよい国を作ればいいんだ。


「ありがとう、ウンケイさん。肝に銘じておきます」

「いえ、説教臭いことを言いました。私も全力で支えるので、がんばりましょう」

「うん、よろしく頼みます」


 少なくとも俺には頼れる仲間がいるんだから、1人で抱えこまず、相談していこう。

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