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俺の周りは聖獣ばかり ~使役スキルで成り上がる異世界建国譚~【改訂版】  作者: 青雲あゆむ
第4章 魔境放浪編

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53.陰謀を暴け

 ヨシツネの祖母ばあさん、シノブに情報収集を頼んでから2日後の夜、俺たちは彼女の家を再訪した。

 以前のように土魔法と闇魔法を駆使して彼女の家にたどり着くと、また屋内に招き入れられる。

 みんなで囲炉裏を囲んで着席すると、シノブが事情を語りはじめた。


「あんたのにらんだとおりだったよ。当時とその後の状況を調べてみたら、だいたい事情が見えてきた。どうやらヨシツネをはめたのは、ヨリトモとトキマサみたいだね」

「そんな馬鹿なっ! トキマサに限って」

「あり得ないと思うかい?……まあ、そうだろうねぇ。あんたらは仲が良かったから。だけどねえ、あんたの許嫁いいなずけだったハヅキを、トキマサは強引にめとったんだよ。以前から惚れてるってのは有名だったそうじゃないか。そしてトキマサの家の支持を取り付けたことで、ヨリトモの次期村長への就任は確実になったとも言われてる。あんたが奴隷に落ちて一番得をしたのが、彼らなのさ」

「し、しかし信じられません! トキマサが、あいつが裏切るだなんて……」


 ヨシツネが苦悩に顔を歪めながら、うめく。


 聞けば、トキマサってのはヨシツネの幼馴染みで、親友と言ってよい間柄だったそうだ。

 そしてトキマサの家は有力者なので、協力を得られれば権力が安定する。

 さらにそいつがヨシツネの元許嫁を娶っているとくれば、何かあったと疑うのが普通だろう。

 親友だったなら、ヨシツネの部屋を訪れて偽の証拠を仕込むのも容易たやすかっただろうしな。


「それからあんたと一緒に罪を着せられた連中は、普段からあんたが長になればいいと口にしてた。無防備なあんたらを罠にはめるのは、造作もなかったろうさ。しかし問題は、いまさらそれを証明する手段が無いってことなんだけどねぇ」


 シノブが難しい顔でため息をつく。

 たしかに現状では疑わしいというだけで、なんの証拠もありはしない。

 しかし俺には、それを調べる当てがあった。


「なあ、ゴクウ。お前の力で犯人に自白させることって、できないのか?」

「おいおい、ムチャ言うなよ、タツマ。触れた人間の考えを読むくらいはできても、さすがに自白は無理だぜ」

「ッ! ちょっとなんだい、そのサルは?」


 ゴクウが流暢りゅうちょうに喋るのを見て、シノブが驚いている。

 まあ、それも当然だろう。


「驚かせてすみません。ゴクウはただのサルじゃなくて、闇精霊なんです。彼の力を借りれば、手がかりを掴めると思うんですよ」

「闇精霊だって?…………凄い存在を味方につけてるんだね。さすがはヨシツネの主人だ」

「まあ、いろいろありまして。それでゴクウ。触れていれば、相手の考えは読めるんだな?」

「ああ。だけど、なんでもって訳にはいかないぜ。その時に考えてることしか読み取れないから、相手を誘導しないといけないぞ」

「ふむ、誘導すればいいんだな。それとなく陰謀を企んだ時の証拠の在り処ありかを、示唆してみるとか、どうだろう?」

「う~ん、まあそれなら何か分かるかもな」

「よし、可能性は見えてきたな……シノブさん、なんとかして、その2人を尋問する場を作れませんかね?」


 すると彼女はしばらく考えてから口を開く。


「……普通ならまず無理だけど、闇の精霊様がいるなら、なんとかなるかもしれないね。こうしてみたらどうだろう」


 彼女が持ちかけた話はこうだ。

 まず俺たちが明日、正面からこの村を訪問して、ヨシツネの無実を訴える。

 その根拠として、闇精霊による審問を持ちかけるのだ。


 この村にも隷属魔法を使う呪術師がいて、大きな発言権を持っている。

 そして隷属魔法ってのは闇魔法を応用しているから、ゴクウの存在は無視できない。

 さらにシノブが主張することで、ヨリトモとトキマサを審問の場に引きずり出そう、という作戦だ。


 しかし、それには少し問題があると思った。


「う~ん、それだとゴクウを警戒して、審問に応じない可能性が高いですよね? むしろゴクウの存在は隠して、おびき出した方がよくないですかね?」

「むぅ……それはたしかにそうだけど、他にいい手があるのかい? ただの冒険者が無実を訴えたって、誰も聞きはしないよ」

「ですよね? 何かいい手はないものか……」


 少し悩んでいたら、スザクが助け船を出してくれた。


「それなら、ササミが使えるかもしれませんよ~、主様」

「え? ササミをどう使うのさ?」

「実は彼女には聖属性魔法の素質があるのですよ~。なので彼女を聖女に仕立て、ヨシツネの無実を訴えてはどうでしょうか~」

「え、マジで? あいつ、聖属性魔法とか使えんの?」


 詳しく聞くと、実はスザクは火属性だけでなく、聖属性も備えているそうなのだ。

 さすがは神の使い。

 ただし聖属性ってのは特殊な素質を持った者にしか使えないので、今までは宝の持ちぐされだった。

 しかしどうやらササミには、それを使いこなす素質があるらしい。


「そうだったのか~。聖属性ってのはあれだろ。傷の治療とかできるんだよな?」

「そうですよ~。使える者は非常にまれですけどね~」

「なら、ササミがケガを治療してみせれば、聖女だって言えそうだな。そしてその聖女の勘が、ヨシツネは無実だと告げている、とか言えば無視できない。ついでにヨシツネの呪いも、ササミが解いたことにすれば都合がいいな」


 俺がニヤニヤしながら作戦を組み立てると、スザクにつっこまれた。


「さすがは主様~。悪だくみがお得意ですね~」

「何を言ってるのかね、ちみ~。これも全てヨシツネのためだよ、フッフッフ」


 そんなやり取りをしていたら、シノブに説明を求められる。


「ちょ、ちょっと待っておくれよ。私が話についていけないよ」

「ああ、すみません。うちの仲間に治癒魔法が使えそうなのがいるんで、そいつを聖女に仕立てようと思います。そして聖女の求めによってヨシツネの冤罪を調べる場を設け、犯人から証拠の手がかりを引きだしましょう。問題は、ゴクウがどうやって犯人に触れるかだけど……」

「ああ、俺は影の中に隠れられるから、できると思うぞ」

「よし、これで成功の目途は立ったな。シノブさん、何か聖女っぽい服とかありませんかね? 最悪、白い布でもいいですけど」

「あ、ああ、布ならあるよ」


 その後、もう少し細部を詰めてから、白い布をもらって俺たちは引き返した。

 シノブには翌日の午後に俺たちが村を訪問できるよう、手配をお願いした。



 それから仲間の元へ帰り、ササミを即席の聖女に仕立てる準備に忙殺された。

 まずは彼女に事情を話し、治癒魔法や言葉遣いなどを訓練したのだ。

 最初は戸惑っていた彼女も、自分にやれることが見つかって、喜んでいた。

 そして寝る間を惜しんで訓練した甲斐あって、なんとかそれらしい聖女様が誕生した。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 翌日の午後になると、ヨシツネの故郷を正面から訪問した。

 シノブに用があると話すと、すんなり通される。

 さすがはヨシツネの祖母ばあさん、上手くやってくれたようだ。


 彼女の家に着くと、何人かの人間が集まっていた。

 もちろん全員、獅子人族ばかりだ。


「初めまして。俺は冒険者のタツマと言います。縁あって今は、ヨシツネの主人になっています」

「う、うむ、村長のヨシトモだ。ヨシツネの父親でもある。しかしこれは一体、どういうことなのかな?」

「はい、まず少し前に俺がヨシツネを購入したんですが、彼は罠にはめられて奴隷に落ちたのであり、自分は無実だと言っていました。そしてある日、こちらの聖女様に出会い、彼女が衰弱の呪いを解いてくれました。それだけでなく聖女様は、ヨシツネが無実だとも言ってくれたのです。そこで彼の無実を証明するべく、この場を設けてもらいました」


 そう説明すると、さっそく噛みつかれた。


「馬鹿馬鹿しい。3年前にきっちりと証拠を押さえてから裁いたのだ。今さら間違いも何もあるまい!」

「そうだ。あれだけの大罪を犯しておいて、再びこの地を踏むとは、図々しいにもほどがあるぞ、ヨシツネ!」


 ヨシツネによく似た男と、もう1人の男が、それぞれ文句を付けてきた。

 しかしそれをシノブが一喝する。


「お黙り! そもそも3年前の裁きもおかしいと思っていたんだ。おまけに聖女様がヨシツネは無実だと言うのなら、これは調べ直す必要があるだろうよ。ヨシトモもそれでいいね?」

「う、うむ。もしそれが事実なら、調べ直す価値はあるだろう。しかし、本当にそちらの女性は、聖女様なのか?」


 ヨシツネの親父さんが、聖女の存在に疑問を呈した。

 まあ、治癒魔法の使える人間なんて、人族にもごく少数しかいない。

 ましてや兎人族の聖女なんて、簡単に信じられないのも当然だろう。


「それこそ百聞は一見にしかずです。聖女様の奇跡をご覧ください」


 ここでシノブが準備しておいたケガ人が呼ばれた。

 それぞれ手と足にケガをした人が1人ずついるので、さっそくササミに治療してもらう。


「ツクヨミ様の力もて、かの傷を癒やしたまえ、治癒ヒーリング


 ぶっちゃけ呪文は適当なんだが、治癒魔法はしっかりと効いた。

 それほど深くもない傷が、すぐに塞がってうっすらと跡が残るのみとなったのだ。


「おおっ、奇跡だ。ありがとうございます、聖女様」

「いいえ、これもツクヨミ様のおぼしめしです。お大事に」


 即席の聖女様だが、ササミはなんとかその役目をこなしている。

 昨日、戻ってから彼女を説得し、教育を施した成果だ。

 普通ならこれほどの治癒魔法が使えるまでには、もっと時間が掛かっただろう。

 しかし俺が地球の医療知識を、念話も併用して詰めこむことで、大幅に短縮できた。


 例えば筋肉や血管、神経などの構造を教え、それらをつなぎ直すこととか、傷口をきれいにする必要性などを説いたのだ。

 別に専門的なことではないが、この世界の常識に比べれば、はるかに進んだ医療概念である。

 これによって、どこに出しても恥ずかしくない聖女様が誕生したって寸法だ。


 ちなみに念話を使うための使役契約を嫌がられるかと思ったんだが、彼女は喜んで受け入れてくれた。

 恍惚とした表情で、”はう~、これでいつもご主人様と一緒ですぅ” とか言われた時は、ちょっとひいたけどな。


「ふ~む、これは本物の聖女様のようだ。そうであれば、ヨシツネの件について、調べ直さないわけにはいかんな」

「ま、待ってくれ、親父。こんな怪しい奴らの言うことを、真に受けるのか?」

「真に受けるも何も、これほどの奇跡、お前も無視はできんだろう」

「だからと言って何も、3年前のことを蒸し返さなくても……」

「いいえ、本当に冤罪であるのなら、何年前であろうと正すべきですよ」


 俺がそう言ってやると、ヨリトモとトキマサが憎々しげに睨んできた。


 やっぱりこいつら、何か隠してるようだ。

 それなら遠慮は無用。

 絶対にヨシツネの冤罪を晴らしてやる。

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