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俺の周りは聖獣ばかり ~使役スキルで成り上がる異世界建国譚~【改訂版】  作者: 青雲あゆむ
第3章 ミカワ修行編

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48.ゴクウ

 山賊から救った少女のアヤメから、精霊の封印を解いてくれと頼まれた。

 いきなりの依頼に、俺は彼女の意図を問う。


「なんで俺なんだ?」

「先ほども言ったように、力ある者の魔力が必要だからです。我らが代々継承してきた精霊を、誰にでも渡してよいわけではありません」


 そう言うアヤメの表情はしごく真面目で、嘘をついてるようには見えない。

 俺はこの手のことに詳しそうなスザクに、助言を求めた。


「彼女の言うこと、どう思う?」

「あり得る話だと思いますよ~。実際に彼女は強い魔力に包まれてますからね~」

「うわっ、鳥が喋った」

「ひょっとして、聖獣?」


 初めてスザクの声を聞いたヤエとナツが驚くが、スザクはそれを無視して続ける。


「ただし保険は掛けておくべきでしょうね~。例えば、主様の使役術を受け入れてもらうとか~」

「そこまですることか?」

「何が起きるか分かりませんからね~」

「ふむ……」


 俺はちょっと考えて、アヤメに条件を提示した。


「君が俺の使役術を受け入れてくれるなら、封印を解いてもいいぞ」

「使役術、ですか? 私を奴隷にすると?」

「いや、俺のはそういうのとは違う。どっちかっていうと意思疎通のスキルみたいなもんだな。でもこれくらいの保険がなきゃ、要望には応じられない」


 するとアヤメは難しい顔でしばし悩んでいたが、結局受け入れた。


「分かりました。それでお願いします」

「よし、それじゃあ、術を行使するから、受け入れてくれ。『契約コントラクト』」


 俺は彼女の頭に手を乗せ、使役術を行使すると、契約はあっさりと成立した。


「たしかに、なんとなくあなたの意志が伝わってくるようです」

「どうやら成功したみたいだな。それじゃあ、封印を解除しよう」


 俺は彼女の背中に手を当て、紋様に魔力を注ぎはじめる。

 最初は特に反応はなかったが、ある時点で紋様から強い反動が返ってきた。

 その瞬間、アヤメを中心にまばゆい光が発生し、部屋が光に満たされる。


 正視できないほどの光が治まると、そこには別人のような少女がいた。

 さっきまで真っ黒だった肌が褐色になるだけでなく、顔立ちすらも変わっている。

 それまでは平凡といってよい風貌だったのが、絶世の美女に変化しているのだ。


 長いまつ毛に縁どられたスミレ色の瞳に、スッキリと通った鼻筋、小さめだが肉感的な唇。

 それらが細面の輪郭の中に、絶妙なバランスで配置されている。

 それに背中の半ばまである銀色の美しい髪が映えて、えも言われぬ雰囲気を醸しだしていた。


「うわ~、きれえ~」

「ほ、ほんと。別人みたいだよ」


 突然現れた美少女に、ヤエとナツがため息を漏らす。

 俺もしばし言葉を失っていたが、大事なことを思いだした。


「闇の精霊はどうなったんだ?」

「僕ならここにいるさ」


 俺の問いに応えるように、アヤメの陰から黒いサルが現れた。

 厳密にいうと、サルみたいな何かだ。

 そいつは体毛が真っ黒で、顔や手足は肌色、そして瞳は金色に輝いている。

 身長は俺の膝くらいまでしかないが、しっかりと2本足で立っていた。

 それを見たアヤメが、嬉しそうな声を上げる。


「精霊様。お久しぶりです」

「やあ、アヤメ。久しぶり。とはいえ、僕は君を守る封印となって、ずっと一緒にいたんだけどね」

「はい、おかげでこうして生き永らえています」

「おいおい、2人だけで盛り上がってないで、俺にも紹介してもらおうか」


 俺は2人の間に割って入り、紹介を求めた。

 すると精霊様と呼ばれたサルが、俺に向かって言う。


「やあ、巫女の守り人くん。これからよろしく頼むよ」

「ハァ? 巫女の守り人ってなんだよ?」

「ハハハ、まあそうだろうね。アヤメが言ってるように僕は闇の精霊で、代々闇の巫女と契約してきたんだ」

「ふむ、闇の巫女ってのは?」

「月と闇の女神ツクヨミ様に仕え、信徒にその声を伝える存在さ。ダークエルフはみんなツクヨミ様をあがめてるから、凄い権威があるんだ」

「ふ~ん……それで?」

「うん、それでこの子の母親が闇の巫女だったんだけど、1ヶ月ほど前にその妹が反乱を起こしたんだよ」


 それを聞いたアヤメが、ビクリと身じろぎして、悲壮な表情を浮かべる。

 当時のことを思いだしているのだろう。


「反乱のことは聞いた。村の実権を奪われたところで、アヤメが逃がされたんだろ?」

「うん、そう。そして彼女を逃がすに当たって、僕も遠ざける必要があった。なんてったって僕は、権力の象徴だからね。だけど彼女とゆっくり契約してる暇は無かったんだよ。それで手っ取り早い方法として、僕は彼女の中に封印されたってわけ」

「なるほど。それで親類を頼って逃げる途中で、奴隷狩りにとっ捕まったのか?」


 するとそれを聞いたアヤメが、ボロボロと涙をこぼしはじめる。

 サルはそんな彼女をあやしながら、説明を続ける。


「そうなんだ。運悪く、奴隷狩りに見つかっちゃってさ。ちゃんと護衛もいたんだけど、その場で首チョンパされて、アヤメは捕虜にされた。俺は封印されてたから、何もできなくってね。それからは彼女が危害を加えられないよう、周りの思考を誘導するので精一杯だった」

「思考を誘導っていうと、闇の精霊は精神に干渉する力を持ってるのか?」

「そんなに強い力じゃないけどね」

「ふ~ん……それでさっきの巫女の守り人ってのは?」


 するとサルはよくぞ聞いてくれたとばかりにうなずき、ニヤニヤしながら言葉を続ける。


「アヤメの母親は、僕を封印する時に保険を掛けたんだ。下手な奴に封印を破られたりしたら、僕を利用されかねない。これでも僕はけっこう上位の闇精霊だからね。だから彼女を守るに足る守り人を見つけた時、それが解ける仕組みになってたんだ」

「俺がその守り人だってか? 俺はそんなに強くないんだけどな」

「別にあんた自身はさほど強くなくても、総合力があればいいのさ。たぶん使役契約の対象も含まれてるんじゃないかな」

「ふ~ん……でもいずれにしろ、俺がアヤメのお守りをする理由にはならないよな?」


 そう言ってやったら、サルが驚愕の表情を浮かべた。


「あれあれ、こんな不幸な女の子を放っておくの? 可哀想じゃん。可哀想だよね?」

「そりゃ可哀想だとは思うが、俺が助ける義理もないよな」

「えっ、えっ、ちょっと待って。僕の目を見てよ。アヤメ、可哀想だよね?」


 そう言いながら、サルがグイグイ顔を寄せてくる。


「こらこら、なれなれしいぞ。何を焦ってんだよ」

「あっれ、おっかしいな。なんで上手くいかないんだ?」


 サルがブツブツ言いながら、首をひねっている。

 それを見たスザクが口を挟んできた。


「気をつけた方がいいですよ~、主様。このサルは今、主様の心を操ろうとしているようですよ~」

「そうなのか? 俺はなんともないけど」

「おそらく主様がアヤメと契約しているので、耐性ができているのではありませんか~」

「ああ、そういうことか」

「ええっ、何それ、どういうこと?」


 慌てふためくサルに、スザクが種明かしをする。

 どうやらサルは、封印が解かれると同時に闇魔法で、俺を操るつもりだったらしい。

 闇魔法ってのは隷属魔法にも応用されてるものだから、実際にそれはあり得る。


 しかし俺はスザクの助言に従い、先にアヤメと使役契約を結んでいた。

 サルの方はそんな使役契約ぐらい、簡単に上回れると考えていたのだろうが、俺の使役術はひと味違う。

 何しろ俺は契約を結んだ者の能力を共有できるから、アヤメの持っている特性を手に入れていたのだ。

 代々、闇精霊を祀る巫女の家系であるアヤメは、闇魔法に対する強い耐性を持っているのだろう。


 危ない危ない。

 契約してなかったら、このサルにいいように操られるところだった。


 しかし俺はそんな懸念はおくびにも出さず、サルに圧力を掛ける。


「さて、精霊くん。これからどうする? 条件によっては手伝ってやってもいいけど」

「じ、条件ってなんだよ? それと、その精霊くんってのはやめてくれないか」

「気に入らないか? それなら俺が名前を付けてやろう。そうだなぁ…………ゴクウってのはどうだ?」


 目の前のサルが孫悟空をイメージさせるから、そう提案してみた。

 するとサルはゴクウ、ゴクウと呟いてから、さも仕方ないようなふりをする。


「ま、まあいいだろう。アヤメのご主人様の命名だからな。もらっておいてやるよ」


 そう言うゴクウの目には喜色が浮かび、尻尾も嬉しそうに揺れ動いていた。

 実はけっこう嬉しいんじゃないか?


「いい名前だと思うよ、ゴクウ……あれ?」


 アヤメがそう言った途端、ゴクウが光に包まれた。

 一方のアヤメは、コテンと絨毯の上に倒れ伏す。


「あ、ニカと同じパターンだ」

「そのようですね~。ゴクウと契約してるのはアヤメなので、彼女が口にした時点で正式に命名されたんでしょうね~」

「それでゴクウに、ごっそりと魔力を持ってかれたんだな」


 やがて光が治まると、ゴクウの実体化が完了していた。

 さっきまではちょっと透けていたのに、しっかり受肉している。


「よかったな、ゴクウ。なんか実体化できたぞ」

「ええっ、マジかよ?…………ほんとだ、なんか力も増したみたい」

「ああ、前よりたくさんの魔力を蓄えられるから、強くなってるはずだぞ」


 これはニカにも起きたことだが、受肉した分だけ保有魔力量が増えるせいか、魔法の威力が高まるのだ。

 するとニカがトコトコとゴクウに近寄り、手を差しだした。


「あたし、ニカ。なかま」

「……お、おう。お前も実体化してるのか。よろしくな」


 一瞬あっけに取られたゴクウだったが、すぐにニカの手を取って握手する。

 その微笑ましい光景を眺めていたら、誰かに服を引っ張られた。

 誰かと思えば、シズカである。


「私も、契約して欲しい」

「ええっ、わざわざ契約なんてしなくてもいいじゃん」

「私だけつながってないのは、寂しい」

「う~ん、彼女も仲間にしていいのかな? スザク」

「よいのではありませんか~。1人だけ仲間外れもさびしいでしょ~」

「……それもそうか。よし、契約してみよう。あっ、倒れるかもしれないから誰か支えてくれる?」


 すぐにシズカと契約を交わすと、案の定魔力を奪い取られた。

 おかげで倒れかけたところを、ヨシツネが支えてくれる。


 俺との契約により、シズカはしっかりした実体を持ち、魔力量も増えたようだ。

 何よりも彼女は、仲間とのつながりを実感できるようになったことを喜んでいる。

 彼女が一緒に戦うことはないだろうけど、これはこれでよかったんだと思う。


 それはそうと、アヤメの依頼について話し合わないとな。

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