4.魔法を習う
「魔法ってさ、貴族やお金持ちしか、使えないんじゃなかったっけ?」
「普通はそうですね~。だけど主様には、私が手ほどきしますよ~」
「マジで?」
「マジで~す」
元のタツマの記憶からすると、魔法は習得のハードルがやたらに高いというものだった。
なぜなら人族が使用する魔法、つまり魔術は魔術師ギルドによって、ガッチガチに管理されてるからだ。
だから貴族とか、よほどのお金持ちにしか習えないというのが常識だ。
魔法には他に、妖精種の使う精霊術ってのもある。
妖精種ってのは、エルフとかドワーフみたいな、若干人族とは異なる種族のことだ。
彼らは遥かな昔、妖精から人系種族に分化したという話だ。
「俺が習うとしたら、魔術だよな?」
「違いますよ~。どちらかというと精霊術に近いですね~」
「でも精霊術って、妖精種にしか使えないんじゃないの?」
「いいえ~、精霊と契約できるなら、人族でも使えるのですよ~。ただ普通の人には、精霊と契約できないだけで~す」
「へ~、そうなんだ。そう言うからには、俺は契約できるんだよね?」
「もちろんで~す。実を言えば、私自身が火属性の精霊みたいなものなので、すでに主様は火魔法が使えるのですよ~」
なんと、スザクが火の精霊だったとは。
言われてみれば、鮮やかなオレンジ色の頭部とか、真っ赤なクチバシに火のイメージを感じないでもない。
「マジかよ。なんかワクワクしてきたな。今この場で使えたりする?」
「こんな所で火魔法使ったら、危ないじゃないですか~。こっそり、町の外でやるのですよ~」
「あ~、それもそうだな。楽しみは明日にしとくか……よし、それならもう寝よう」
俺は逸る心を抑えて、寝ることにした。
さっさとベッドに潜り込んで灯りを消し、布団を被る。
ちなみに灯りは魔石を燃料にした魔導具だった。
魔石ってのは魔物から採れる、魔力を内包した石ね。
「おやすみ、スザク」
「おやすみなさい、主様~」
それから間もなく、俺は夢の世界に旅立った。
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翌日は夜が明けると同時に目が覚めた。
昨日は早く寝たから、睡眠はバッチリだ。
食堂に下りていくと、テッシンたちも起きていた。
ちゃちゃっと朝食を取ると、シズクが作ってくれたオニギリを持って出勤だ。
ここまでしてもらって銀貨30枚とは、やはり安すぎる。
早く稼いで、恩返しをしたいものだ。
俺はそのまま町の外へ出ると、薬草の群生地に向かった。
薬草を取りながら、魔法の練習をするつもりだ。
俺は半刻ほど掛けて、目的地へたどり着く。
ちなみに刻ってのはこの世界の時間単位で、1刻は地球の2時間に相当する。
1日の長さも地球と同じだから、1日は12刻だ。
ちなみに1ヶ月はやはり30日前後で、1年は12ヶ月。
うるう年の設定とかは微妙に違うけど、ほぼ地球と同じ感覚で生活できる。
俺は手頃な岩を見つけて腰を下ろし、スザクを手に乗せて向かい合う。
「さて、スザク先生。俺に魔法を教えてください」
「キャハハハハハッ、使役獣に敬語を使うなんて、主様は謙虚ですね~」
「実際にものを習うんだから、当然でしょ。それで、まずはどうすればいいかな?」
「まずは魔力を感じるところからですね~。目を閉じて、自分の体の中に意識を集中させてくださ~い」
言われたとおり目を閉じ、自分の体の中に意識を向けた。
こういう時は、体の中にある違和感みたいなものを感じればいいはずだ。
と思っていたのだが、しばらく続けてみても、さっぱり分からなかった。
「う~ん、分からん……どうすればいいんだろう?」
「キャハハハハハッ、やはり無理でしたか~。それでは私が魔力を流しこむので、それを感じてみてくださいね~」
「無理だと思うんなら、最初からそうしてくれよ」
「まあまあ、これもお約束ということで~」
ぶつくさ言いながら、スザクが停まった左肩に意識を集中させてみた。
するとじんわりとした、熱のようなものが伝わってくる。
それはまるで水のように俺の体に入りこみ、そのまま溶けていくような感じだった。
しばしその感覚に集中していると、ふいにスザクが魔力を止めたのが分かった。
それと同時に俺は、体内に何か異質なものを感じとる。
それは弱く儚いものだが、一旦意識すればもう見失うことはない。
「う~ん、なんとなく魔力らしいのは分かったかな。だけどそれは、ひどく薄くて頼りない感じだ」
「最初はそんなものですよ~。むしろこんなに短時間で感じられたのが驚きで~す。多少は才能あるかもしれませんよ~」
「えっ、何? 俺の才能が、開花しちゃう?」
「あまり調子に乗らないでくださいね~」
相変わらず、スザクは手厳しい。