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3.冒険者ギルド

 町に戻ると、その足で冒険者ギルドへ寄る。

 冒険者ギルドとは、冒険者を束ねる互助会のような組織だ。

 ずいぶんと昔に、迷宮と冒険の神スサノオの神託によって作られたって話で、国をまたいで存在する独立機関である。


 スサノオの加護に守られてるせいか、国の干渉は受けつけず、内部もそれなりに厳しく統制されている。

 このギルドに登録すると、不思議な技術で作られた冒険者カードが支給され、身分証にも使えるほか、肉体の強化レベルも確認できる。

 ちなみに今の俺の強化レベルは、恥ずかしながらゼロ。


 これは魔物を倒すことで徐々に上がっていくが、1レベルにつき5%ほど強化されるという。

 最初は目立たないが、上級者ともなれば肉体レベルは10にも達し、体力や筋力が5割増しとなるのだ。

 これぐらいになると戦力として無視はできないので、ギルド自体は国家間の争いに加わることを強く戒め、独立を貫いているって話だ。



 俺はギルドの納品窓口に薬草を出すと、その内容を書きつけた紙を受けとる。

 そしてその紙を受付け窓口に提出すれば、仕事の完了だ。


「あら、タツマ君。また薬草を採ってきてくれたのね」


 そう声を掛けてきたのは、受付嬢のコトハだ。

 少し茶色の掛かった黒髪に、はしばみ色の瞳が優し気なお嬢さんである。

 俺みたいな新人にも優しく、よく気のつく女性で、嫁さんにしたい受付嬢ナンバー1と言われている。


「ええ、俺みたいな新人には、これくらいしかできないですから」

「そんなことないわ。タツマ君はたくさん納入してくれるし、品質もいいって言われてるのよ。薬草採取だって、大事な仕事なんだから」

「アハハッ、ありがとうございます。でも、俺だっていずれは、迷宮に潜りますけどね」

「はいはい、がんばって……ところで、その肩の鳥はどうしたの? 凄くきれいな色ね」


 コトハは俺の言葉をあっさりと聞きながすと、スザクに話題を振った。

 まあ、派手な色彩の鳥を肩に乗せていれば、目立つのは当然だ。


「ああ、これ、森の中で拾ったんですよ。なんかなついちゃって」

「コンニチハー、ワタシ、スザク」


 適当に説明したら、スザクの奴が勝手に自己紹介しやがった。

 それを聞いたコトハが黄色い声を上げる。


「キャー、鳥さんが喋った~。スザクちゃんて名前なんだ。それってひょっとして、聖獣?」


 この世界では、人間と意思の疎通ができる動物や魔物を、”聖獣”と呼ぶ。

 それは精霊の化身とも呼ばれており、この世界では信仰の対象ともなり得る存在だ。

 当然、そんなのはめったにいないから、いたら注目の的である。

 しかしスザクが聖獣なのは間違いないが、あまり目立つのは好ましくない。

 おのれ、スザク、余計なことを。


「あ~、そんなんじゃないですよ。簡単な言葉しか喋れなくて、あいさつとかそんなのだけです。しょせん鳥ですよ、鳥」

「そんなことないわよ。片言だけでも凄いわ。でもおかしな人に目を付けられるかもしれないから、気をつけてね」

「え、ええ、せいぜい気をつけます」


 さすがに、”あんたが騒いだおかげですでに目立ってるよ”、とは言わないでおいた。

 言ってもしょうがないし、結局は俺が対処しないといけないからだ。

 俺は薬草の代金を受け取ると、そそくさと家へ帰る。


 ちなみに今回は、通常依頼の3回分を納入して600ゴルの収入だ。

 この世界で流通してる通貨は、金貨=大銀貨10枚=銀貨100枚=銅貨1000枚=鉄貨1万枚となってて、鉄貨1枚を1ゴルと呼ぶ。

 ちなみに金貨100枚に相当する白金貨ってのもあるらしいが、タツマは見たことがない。


 1ゴルの価値は物にもよるが、日本の10円ぐらいに相当するだろうか。

 つまり俺は今日1日働いて、6千円ほどの収入を得たことになる。

 たかが薬草採取としては悪くない数字だが、余裕のある数字でもない。


 宿の個室に泊まるだけで銀貨3,4枚は掛かるから、2日ももたない。

 もっとも、俺は幸いなことに、世話になってた商人の家に、引き続き住まわせてもらってる。

 家族だからタダでいいとは言われてるが、さすがにそれじゃあ情けないので、成人してからは月に銀貨30枚払うようになった。

 飯まで食わせてもらってこれだから、いずれもっと稼いで、お礼をするつもりではあるのだが。


「ただいま~」

「おう、タツマ。今日も無事だったか?」


 俺を出迎えてくれたのは、ここの家主のテッシンだ。

 中肉中背で鼻の下にヒゲをたくわえた、優しそうな男性だ。

 親父の知り合いだったってだけで、俺の面倒を見てくれた大恩人である。


「ちょうど夕食にするところだったのよ。荷物を置いていらっしゃい」


 そう言ってきたのは、彼の奥さんのシズク。

 ほっそりとした優しそうな感じのおばさんで、いつもお世話になっている。

 すぐに荷物を部屋に置いて食卓に座ると、スザクに注目が集まった。


「おや、珍しい鳥を連れてるな。たしか、インコとかいう鳥だ」


 テッシンはあちこち旅してるだけあって、さすがに物知りだ。

 ていうか、この世界にもインコっているんだな。


「コンニチハー、ワタシ、スザク」


 こいつ、また自己紹介しやがった。

 目立つからやめろってーの。


「まあ、喋ったわ。珍しいわね、こんな鳥を手に入れるなんて」

「え、ええ、薬草を取りに森へ行ったら、偶然見つけたんですよ。ちょっとエサをあげたら、懐いちゃって」

「へ~、そんなこともあるのね」

「タツマは昔から動物を手懐けるのがうまかったからな」


 そんな話をしながら、夕食を取る。

 幸いなことに、このオワリって国は日本によく似た所で、米が主食だ。

 いろいろと異世界補正は入ってるが、和風な食事がとれるのはありがたい。

 人種も基本的に黒髪黒目のモンゴロイド系なので、外観的にも違和感がなくていい。


 食事中に戸惑うこともあったが、元のタツマの記憶のおかげで、テッシンたちとの会話も乗りきれた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 夕食後、自分の部屋に引きあげると、安堵の息がもれた。


「ふうっ、ようやく1人になれた。慣れない環境だから、緊張するな」

「お疲れさまで~す、主様。明日はどうされるのですか~?」

「うーん、どうしようかな? まずは元のタツマの望みである迷宮に潜りたいんだけど、今の俺じゃ、無理だよな?」

「そうですね~、今の主様では秒殺ですよ~、キャハハハハハッ」


 秒殺ってなんだよ?

 イラッときたので、軽くデコピンしてやった。

 そしたら、”ギャー、死ぬー” とか言って騒いでやがる。


「まあ、俺が弱いのは事実だけどな。ギルドで剣術でも習おうかなぁ」

「それならば、魔法を習得されてはどうですか~? 主様」


 なぬ?

 でも魔法って、庶民には使えないんじゃ……。

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