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俺の周りは聖獣ばかり ~使役スキルで成り上がる異世界建国譚~【改訂版】  作者: 青雲あゆむ
第2章 アリガ迷宮探索編

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22.ベンケイとの契約

 次の日も中盤を探索し続け、午後にはとうとう深部に差しかかる。

 俺たちは改めて剣牙虎けんきこの情報を共有すると、深部に踏みこんだ。


 しばらく行くと、ホシカゲが前方に何かの気配を察知した。

 慎重に歩を進めると、やがて2匹のトラに遭遇する。

 あれが噂の剣牙虎だ。


 体格的にはそれほど大きくなく、体長は2メートル強。

 地球でいえば、トラとしては小柄なスマトラ・トラに相当するだろう。

 しかしその上顎からは20センチほどの牙が生え、攻撃力の高さを感じさせる。

 白っぽい灰色地に縦縞の入ったその毛皮は、まさに異世界のトラといった感じだ。


 俺たちが観察していると、すぐに奴らもこちらに気づいた。

 すると剣牙虎は王者の風格を漂わせながら、のしのしとこちらへ近づいてくる

 そこでヨシツネとベンケイが前に出ると、剣牙虎は3メートルほどの距離を置いて対峙した。


「ヨシツネとベンケイはそのまま正面を守ってくれ。ホシカゲは後ろに回って遊撃だ」


 するとまずヨシツネがジリジリと間合いを詰め、剣牙虎に攻撃を掛けた。

 ヨシツネの突きだした剣を、トラはその牙で弾き返す。

 お返しとばかりに振られた敵の前足を、ヨシツネは盾で防いでいた。


 続いてベンケイも、おもむろに攻撃を仕掛ける。

 彼はヨシツネほどすばやく動けないが、どっしりとした体格と、その膂力で剣牙虎と張り合う。

 もっぱら守りを重視しながら、時折り戦斧で攻撃していた。


 遊撃役のホシカゲは、そんな2人を援護すべく駆け回る。

 剣牙虎の背後や側面に駆け寄ると、軽い攻撃を加えて即座に離脱する。

 それは敵にとってうっとうしい攻撃となり、その集中力を奪っていた。


 やがて敵が隙を見せたのは、やはりヨシツネの方だった。

 剣と盾で連続して攻め立てると、トラが横腹を見せた。

 俺がすかさず投槍器アトラトルを振ると、槍が深々と腹に突き刺さる。

 それによって動きが大きく鈍った剣牙虎に、ヨシツネが追い討ちを掛ける。


 後をヨシツネに任せ、今度はベンケイの応援をする。

 俺がアトラトルを構えてチャンスをうかがっていると、ベンケイとホシカゲが連携して、隙を作ってくれた。

 またもや横腹を見せた敵に、渾身の力でアトラトルを振る。

 その一撃は見事、敵に突き刺さり、大きなダメージを与えた。

 その後は敵を仕留めたヨシツネも加わり、短時間で剣牙虎を仕留められた。


「フウッ、なんとか無傷で倒せたな」

「はい、タツマ様の指示が図に当たりましたね」

「そんな大したことしてないよ。今回は2匹しかいなかったしね」

「そうですな。あれが何匹も出てくると思うと、ゾッとしますわい」


 事前の情報収集では、剣牙虎は最大で5匹も同時に出現するらしい。

 そのため2層を攻略するには、5~6人が適正とされる。

 ベンケイが加わったとはいえ、まだまだ手が足りない俺たちにとっては、苦戦が予想される状況だ。


「だよなぁ。俺たちの腕を磨くのは当然として、仲間も増やしたいなぁ」

「そうですな。しかし良い仲間を見つけるのは難しいですからな」


 その後は戦闘を1回だけこなして地上へ帰還した。

 今日の稼ぎも金貨を超えていた。

 ちなみに剣牙虎の魔石は銀貨7枚と、最高値を更新だ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 家に帰ると、ベンケイが武器や防具の整備をすると言ってきた。

 別にそれほどいたんでもいなかったのだが、とりあえず装備を彼に渡すと、夕食後に黙々と作業をしていた。

 それは剣の刃を研いだり、防具の傷みを補修したりと、なかなか本格的だ。

 俺たちも普段から布で拭いたり、油で磨くなどはしていたが、それよりもよほどていねいにやってくれる。


「やっぱベンケイは器用なんだね」


 ちなみに本人の希望で、彼に敬語を使うのはやめた。

 彼にとって俺は恩人であり、パーティのリーダーでもあるからというのが、彼の言い分だ。

 俺の中身は彼より年上なのもあって、俺はそれを受け入れた。


「それほどでもありませんぞ。儂は20年以上も修業をしていたのですから、これぐらいは普通ですわい。鍛冶魔法が使えれば、もっと本格的にやれるのですが……」

「ふ~ん……鍛冶魔法ってのは、どんなことができるの?」

「まず土精霊ノーミーと契約することによって、鉱石から金属を取りだしたり、金属を思うような形状に成形できるようになります。さらに火精霊サラマンデスとも契約すれば、その場に炉が無くとも、熱を加えて加工ができますぞ」

「へ~、ノーミーとサラマンデスの両方と契約するんだ」

「いやいや。普通はどちらか一方だけですな。両方と契約できた鍛冶師など、ドワーフの歴史上でもわずかと聞きます」

「ふ~ん……そういえばスザクって、火属性を持ってるんだよね。ひょっとしてベンケイと俺が契約したら、ベンケイも使えるようになる?」


 しかしスザクの答えはあいまいだった。


「その可能性はありますね~。ただしノーミーにしろ私にしろ、主様を介して魔法を使えるかどうかは、やってみないと分からないのですよ~」

「そうだよな。あくまで可能性があるってだけなんだから」


 するとヨシツネが口を挟む。


「それなら、俺で試してみてはどうでしょうか?」

「そういえばそうか。ヨシツネで確認できないの? スザク」

「残念ながら、ヨシツネは魔法適正が低いので、難しいと思いますよ~。彼の場合は武器に属性を付与して戦うべきでしょうね~。それにはミスリルやアダマンタイトの武器が必要ですけど~」


 それを聞いたヨシツネが、ガックリと肩を落とす。


「駄目ですか……でもいずれは、特殊な武器で魔法を使ってみたいですね」


 するとホシカゲもそれに興味を示す。


(わふ、僕は使えないです?)

「ホシカゲも特殊な武器があれば使えるかもしれませんよ~」

「ハハハッ、それはいいな。”炎の剣”とかできたら、かっこいいな、ホシカゲ」

(カッコいいのですぅ。作って欲しいのですぅ、ご主人様)


 そんな風に盛り上がる俺たちを、ベンケイがうらやましそうに見ていた。

 おそらく、俺の使役契約を受け入れるどうかを、迷っているのだろう。

 普通の感覚では、使役契約は奴隷契約と変わらないだろうから、迷うのは分かる。

 彼の戦力と鍛冶師の技能はぜひ欲しいが、彼をせかすのはやめておいた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 その後3日間ほど、2層深部を探索していたが、あまり成果は出ていない。

 剣牙虎も3匹までならなんとか対応できるのだが、それ以上出てくると手が足りない。

 特にベンケイは念話が使えないので連携が取りにくく、そこを突かれやすかった。

 そのうちとうとうベンケイがケガを負ってしまい、ヨシツネを殿しんがりにして脱出するはめに陥った。


 なんとか危機を脱して休んでいると、ベンケイが改まって話かけてくる。


「タツマ殿にお願いがあります。儂をあなたの、家来にしてくださらんか?」

「申し出は嬉しいけど、本当にそれでいいの? 契約を交わしたら秘密を守るためにも、簡単に解除には応じられないよ。現状では、鍛冶魔法が使えるって保証もないし」

「いいえ、この数日間で、タツマ殿の人柄に接することができました。あなたは契約者に敬意を払い、対等に接しておられます。仮に鍛冶魔法が使えないとしても、儂はあなたの仲間になりたいと思うのです」


 ベンケイがそこまで考えてくれるなら是非はないが、念のためヨシツネに意見を求めた。


「ヨシツネはどう思う?」

「よいのではありませんか? ベンケイはこの危険な迷宮で、命を預けるに足る人物だと思います」

「……そうだな。俺もそう思う。ならベンケイ、本当の仲間になろう。『契約コントラクト』」


 俺が使役術を行使すると、即座にベンケイとの間に契約が成立した。

 すると彼は、初めての経験に喜びの声を上げる。


「おお、みんなの存在が感じられますぞ。タツマ様、これからどうぞ、よろしくお願いします」

「うん、こちらこそ。そうだ、忘れずにノーミーとも契約しなきゃ」


 俺がノーミーとも契約しようとすると、スザクから忠告を受けた。


「ノーミーとの契約でどうなるのか、よく分かりませんよ~。なので地上へ戻ってからの方がいいと思いま~す」

「そうなの?……それなら一旦、地上へ戻ろうか」


 俺たちはその場を後にして、まっすぐに地上を目指した。

 半刻足らずで地上へ戻ると、人目のない場所へ移動する。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 森の中でスザクと視覚を共有すると、再びベンケイの後ろに幼女ノーミーの姿が浮かび上がる。

 スザクによればこの光景は、魔力を可視化しているんだそうだ。

 そして契約により感覚を共有できるようになったベンケイが、初めて目にするノーミーを見て、複雑そうな顔をした。

 今まで彼に不幸をもたらしていたと聞けば、その気持ちも無理はない。


 しかしいざノーミーと契約を結ぼうとすると、思った以上にてこずった。

 どうやら使役契約で自由を奪われることに、強い忌避感があるようだ。

 しかし契約すれば、俺を介してベンケイとつながると言ってやったら、見事に食いついてきた。

 最後には俺の足にまとわりついて、契約を迫るほどだ。

 さすがはストーカー精霊、欲望に忠実である。


 ぶっちゃけ、こんなのと契約して大丈夫なのかとも思ったが、スザクの勧めに従って使役術を行使する。

 契約が成立すると、スザクの視覚を共有しなくてもノーミーが見えるようになった。

 ちょっと透けてはいるが、おどおどした表情も読み取れる。


「せっかくですから、名前を付けてあげてはいかがですか~? 主様」

「えっ、ノーミーでいいだろ?」

「それは種族名ですよ~。個体名を付けてあげましょ~」

「個体名ねえ……」


 本来ならこいつ、ベンケイの精霊なんだよなあ。

 それならベンケイにちなんで付けてやるか。

 たしか武蔵坊弁慶は子供の頃、鬼若と呼ばれていたらしい。

 それならオニワカの2文字を取って、ニカでどうだろうか。


「よし、お前には”ニカ”の名を送ろう……ハウッ」


 名前を付けた途端、ニカの体が光って、俺の意識が遠のいた。

 倒れかけたところをヨシツネに支えられ、危うく転倒は免れる。


「大丈夫ですか? タツマ様」

「ウウッ……急に気が遠くなったんだけど、なんで?」

「キャハハハハハッ、ご主人様の魔力をもらって、ニカが実体化したのですよ~」


 そう言われてニカに目をやると、彼女はもう透けていなかった。

 まるで本物の幼女みたいだ。

 どうしてこうなった?

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