表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/182

19.新たな壁

 無事に1層を突破した俺たちは、翌日は休養を兼ねて森へ来ていた。

 午前中は鍛錬で軽く汗を流してから、昼食を取る。


「いよいよ明日からは2層ですね。しかし敵はけっこう厄介そうです」

「そうだね。まずは序盤の幻影狐げんえいきつねだ」

「幻影を操る魔物、ですか。いきなり厄介そうだ」


 俺たちは1層の突破で揃って鋼鉄級に昇格し、強化度も2に上がっていた。

 ほんの1ヶ月前までゴブリンにすら苦戦していたことを考えれば、凄い成長だと思う。

 しかし2層に出てくる魔物は、より強力になる。


 このアリガ迷宮は獣系の魔物が出ることで知られているが、2層からは肉食獣の魔物が登場する。

 序盤は幻影狐、中盤で風牙狼ふうがろう、そして深部が剣牙虎けんきこだ。

 これがそれぞれに特殊な能力を持っていて、鋼鉄級でも攻略は容易でないと聞く。


「けっこうな群れで現れて、幻影を使いながら攻撃してくるって話なんだよな。人数の少ない俺たちとは、あまり相性は良くないと思う」

「そうですね。実際に戦ってみないと分かりませんが、用心するに越したことはありません」

「それならば、ホシカゲの探知能力を利用すればいいのではないですか~? もきゅもきゅ」


 するとスザクから提案があった。


「ホシカゲの能力を利用って、どうやるの?」

「幻影狐は光を操って幻を見せるだけなので、臭いや音をたどればいいのでは~? ホシカゲの感覚を使役レーダーで共有すれば、それほど惑わされないかもしれませんよ~。もきゅもきゅ」

(わふ、僕が役に立つです?)

「そうか、目に頼ろうとするからいけないんだ。タツマ様、俺もホシカゲほどではありませんが、耳と鼻には自信があります。その感覚で敵を探ってみましょう」

「なるほど。それなら上手くいくかもしれないな」


 スザクの提案で、光明が見えてきた。

 油断は禁物だが、何もないよりは安心だ。


 その日の午後は鍛錬もやめ、心身を癒やすことに専念した。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 翌日は初めての2層挑戦だ。

 入り口から転移して探索を始めると、すぐにホシカゲの鼻に何かが引っかかった。


(わふ、何か来るのです)


 ホシカゲの警告に続き、銀色の狐が5匹現れた。

 あれが噂の幻影狐だろう。

 中型犬より少し大きいぐらいの体格だが、口から大きめの牙がのぞいている

 奴らは俺たちを見つけると、一斉にこちらへ向かってきた。


「ウワッ、分身しやがった。熱弾ヒート!」


 ふいにキツネの姿がぼやけたと思ったら、1匹の体が3つに分裂した。

 すかさず真ん中の敵に熱弾ヒートを撃ったものの、それは外れだった。


「ガルゥッ」


 俺に飛びかかってきたキツネに、ホシカゲが横から飛びつく。

 すると危険を察した敵は、さっさと離脱してしまう。

 ヨシツネに向かっていった敵も、剣をかわして逃げおおせていた。


「くそっ、本当にやりにくいな。けどホシカゲには、本体が分かるのか?」

「ワフン(なんとなく分かるです)」

「よし、それなら感覚を共有してみよう」


 そう言って集中すると、使役レーダーにホシカゲの情報が上乗せされる。

 すると視覚情報に頼っていたレーダー表示で、敵の存在が補強されたのだ。

 俺はその実体と思われる敵に、熱弾ヒートを放った。


「ギャンッ」


 その攻撃は見事に敵を打ちすえ、ホシカゲの感覚の正しさが証明された。

 しかし、それで警戒を強めたキツネどもが、新たな動きを見せる。

 奴らはジグザグに走りながら、次々と幻影を繰りだしてきたのだ。

 するとレーダーでも虚実が入り交じり、敵を追いきれなくなる。

 おかげで俺の攻撃は、空振りするばかりだ。


 しかしヨシツネとホシカゲは違った。

 襲いくる敵の幻影にも惑わされず、彼らの剣と牙は確実に敵を捉える。

 ヨシツネは1刀の元に敵を斬り捨て、ホシカゲは喉笛に食らいついて息の根を止めていた。

 やがて形成は完全に逆転し、敵は1匹残らず倒されていた。


「2人ともお疲れさん。特にホシカゲはお手柄だったな」

「ワフン(やったのです)」

「ええ、彼のおかげで幻影に惑わされずにすみました。さすが、ホシカゲの感覚は鋭いですね」

「ああ、スザクの言ったとおりだったな」

「いいえ、これも主様の使役レーダーあってのものですよ~」


 俺自身はまだ対応できていないが、使役レーダーによる情報共有は有効そうだ。

 これならば2層でも十分に戦って行けるだろう。


 その後も順調に探索が進み、その日のうちに序盤の大部分を回ることができた。

 ちなみに2層の地図を銀貨4枚で買っていたが、中盤以降は空白も多い。

 ここから先はさらに難易度が高くなるため、探索が後回しになっているのだろう。


 俺たちはそんな空白地帯にも、積極的に回っていこうと相談していた。

 資金稼ぎと肉体強化のため、魔物どもには犠牲になってもらう。

 ちなみに幻影狐の魔石は2匹分で銀貨3枚であり、今日の儲けは銀貨60枚足らずになった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 翌日に中盤に差しかかると、初めて2匹の風牙狼と遭遇した。

 見た目は地球の灰色狼そっくりだが、その体はひと回り以上大きく、面構えも凶暴そうだ。


「手強いらしいから、注意してな」

「了解です」

「ワオン(負けないのです)」


 まず俺が熱弾ヒートを連射したが、あっさりと毛皮に弾かれる。

 よほど近くで撃つか、眼球にでも当てなきゃ倒せそうにない。


 攻撃を受けた風牙狼が、一斉に突撃してくる。

 1匹が俺に向かってきたので、再び熱弾ヒートを撃ってから、身体をひるがえした。

 しかしなんとかかわしたと思った敵の爪が、俺の脚を引っかけた。


「ウワッ!」

「主様っ!」

「タツマ様!」

「ウォン(ご主人様)!」


 俺は回転しながら地面に叩きつけられ、そのまま転げ回る。

 くそっ、油断した。

 とっさに傷を確認すると、ズボンの腿の部分が切り裂かれ、いくらか血が出ている。

 すぐに治療をしたいところだが、オオカミが姿勢を整え、俺に襲いかかろうとしていた。


「ワオンッ!(させないです)」


 そんな敵にホシカゲが果敢に立ち向かい、くんずほぐれつのドッグファイトが始まった。

 一方、残りのオオカミはヨシツネが押さえてくれていた。

 俺はその間に治癒ポーションを取りだし、ケガの上から振りかける。

 幸い大したケガではなかったため、すぐに血は止まり、痛みも薄らいだ。


「キャインッ!」


 それまで奮戦していたホシカゲが、とうとう風牙狼に投げとばされる。

 ひどいケガはしてないみたいだが、すぐに起き上がってこない。


「こっちだ。今度は俺が相手だ!」


 大声で挑発すると、風牙狼が俺に狙いを定めた。

 俺は奴がこちらへ向かってジャンプした瞬間、渾身の熱弾ヒートを放つ。

 至近で放たれた弾丸に口中を焼かれたオオカミが、キャンキャン鳴いて転げまわる。

 すかさず槍でとどめを刺すと、風牙狼は息絶えた。


「くっそ、危なかったな……そういえば、ヨシツネは?」


 するとちょうどヨシツネも、敵にとどめを刺すところだった。

 彼の剣が風牙狼の首筋をかき切ると、すぐに動かなくなる。

 それを確認した俺がその場にへたり込むと、肩にスザクが停まる。


「大丈夫ですか~? 主様。本当に心配しましたよ~」

「ああ、やばかった……そうだ、ホシカゲは?」


 ホシカゲの方を見ると、彼はまだ起き上がれないでいた。

 そんなホシカゲに駆け寄ってケガを確認すると、首筋から血が流れている。

 敵が首に噛みついたうえで、彼を投げとばしたのだろう。

 すかさず傷にポーションを塗ってやると、血はすぐに止まった。

 しかし敵に手ひどくやられたせいか、彼の姿は弱々しい。


「クウーン(また負けたのです)」

「自分より大きな敵と戦ったんだから、仕方ないさ。お前が足止めしてくれたから、俺も生き残れた。ありがとな」


 そう言って頭をなでてやると、ヨシツネも合流してくる。


「大丈夫ですか? タツマ様。手間取ってしまってすみませんでした」

「俺の傷は大したことなかったからいいよ。それにしても、風牙狼は予想以上に強かった。何か戦い方を見直さないと、まずいかな?」

「そうですね。仲間を増やすとか、装備を変えるなりしないと、苦しいかもしれません」

「だよな~。手頃な奴隷でもいないか、店をのぞいてみようか?」


 3人ともボロボロだったので、魔石を回収してすぐに帰路に就く。

 地上で魔石を換金すると、1個で銀貨5枚だった。

 風牙狼の危険度からすると、ひどく安い。


 いずれにしろ俺たちは、再び戦力を強化する必要に迫られていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ