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俺の周りは聖獣ばかり ~使役スキルで成り上がる異世界建国譚~【改訂版】  作者: 青雲あゆむ
第2章 アリガ迷宮探索編

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18/182

18.1層突破

 森でゴブリンに囲まれた時、俺は使役レーダーとでも言うべき能力を手に入れた。

 これによってパーティの戦力が、格段に高められる可能性が出てきた。

 その能力を磨くため、俺たちはさっそく迷宮へ潜った。


 序盤、中盤はスルーして深部で敵を探すと、さほど経たぬうちに3匹の凶暴猪を見つけた。


(それじゃあ、守護者戦を意識した立ち回りで。念話も積極的に使っていこう)

(了解です)

(なのです)

(私は上から見てますね~)


 まずホシカゲが駆けだすと、ヨシツネもゆっくりと敵の前に姿を現す。

 ホシカゲは1匹のイノシシを釣りだすと、ヨシツネは盾と剣を上手く使いながら、残りの敵を引きつけた。

 いつもなら俺は後ろから熱弾ヒートを撃ってるところだが、今は投槍器アトラトルを右手に構え、機会をうかがっている。


 やがて1匹のイノシシが隙を見せた瞬間、ヨシツネがスッと体を横へずらした。

 あらかじめ念話でそれを伝えられていた俺は、空いた空間へ向けてアトラトルを振る。

 ボヒュッと音を立てて飛んだ槍が、深々と敵の体に突き刺さる。


 それで動きの止まったイノシシに、ヨシツネが剣でとどめを刺す。

 残った敵はヨシツネに任せ、今度はホシカゲを呼び寄せる。

 彼が相手をしていた敵を引き連れてくると、またもや俺はタイミングを計り、槍を飛ばした。


 またもや槍は敵を深く貫き、瀕死となった敵をホシカゲが仕留めた。

 その頃にはヨシツネの戦いも終わっており、戦闘はあっさりと終了した。

 魔石を取ってきたヨシツネに、声を掛ける。


「ヨシツネは相変わらず強いね。盾の使い勝手はどう?」

「ええ、やっぱり守りが安定するので、楽ですね。この程度の敵なら、剣だけでもいけますけど」

「まあ、練習だからね。俺の方もいい練習になった」

「はい、お見事でした。あれなら守護者にも通じそうです」

「そう願うけどね。ホシカゲはどうだった?」

(わふ、前より楽でした。ご主人様の槍は凄いです)

「そうだな。この調子で、俺の攻撃と息を合わせる練習をしようか」


 その後も俺たちは次々とイノシシを狩り続け、連携の練習を積んだ。

 おかげで俺たちの実力は高まったし、収入も銀貨40枚を超えた。

 ただしそのお金は、注文していたホシカゲの鎧の代金に消える。

 しかしまあ、これで守護者が倒せるなら、安いものだろう。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 次の日はホシカゲが鎧を付けての、初戦闘だ。

 最初は何回かイノシシの相手をして、ホシカゲの調子を見る。


「ホシカゲ、鎧の調子はどうだ?」

(わふ、ちょっと動きにくいけど、安心なのです)

「そうだな。昨日よりも思いきりがよくなってるみたいだ。この分なら、守護者もいけないかな?」

「そうですね。俺もだいぶ盾に慣れたので、いけると思いますよ」

「よし、それなら、いってみようか。ダメなら、また逃げればいいし」

「ええ。しかしなるべく倒してしまいましょう」


 俺たちは気楽な雰囲気で、守護者部屋へ向かう。

 そして入り口の前に立つと、皆の顔を確認してから、扉の紋様に手を触れる。

 扉が横にスライドして開いた入り口に踏みこむと、部屋が明るくなって扉が閉まった。

 すると待ちかねていたように、巨大なイノシシが立ち上がる。


「ヨシツネ、ホシカゲ、頼んだぞ」

「任せてください」

「ワオン」


 ヨシツネが盾と剣を構えて敵の正面に立てば、ホシカゲは側面に回りこむ。

 そして俺はアトラトルを構えながら、全体の指揮を執った。

 まず前進してきた巨大イノシシとヨシツネが、ぶつかった。


 以前と違って盾がある分、ヨシツネの動きには余裕がある。

 彼は盾を敵の鼻づらにぶつけると、その反動で右手の剣を振った。

 その斬撃は浅いながら、敵に傷を負わせている。


 一方、横に回りこんだホシカゲも、敵に攻撃を仕掛ける。

 比較的、弱そうな膝の裏辺りに食いつくと、敵は苛立たしそうに足を振った。

 ホシカゲは無理することなくその攻撃をかわし、再び別の足を狙う。

 チョロチョロ動き回るホシカゲの攻撃は、実害はないものの、敵を苛立いらだたせていた。


 おかげでヨシツネへの攻撃も精彩を欠き、彼は着々とイノシシへ攻撃を重ねていく。

 俺も彼の背後で様子を見ながら、たまに熱弾ヒートを撃っていた。

 ほとんどダメージにはなっていないが、目の周りを狙ってやると、敵の注意がさらに散漫になる。

 やがてヨシツネの誘導で敵が横腹を見せた瞬間、アトラトルを振りきった。


「ブゴーーッ!」


 風切り音を立てて飛んだ槍が、見事に敵の脇腹を貫いた。

 巨大なイノシシが、初めて苦悶の表情を見せる。

 するとヨシツネはその隙を見逃さず、踏みこんで敵の首に斬りつける。

 分厚い毛皮に阻まれて致命傷とはならなかったが、血がダラダラと流れ落ちる。


 その後の展開はさらに一方的となり、俺たちは敵を追いこんでいった。

 腹に槍を食らい、首筋から血を流すイノシシの動きは鈍り、どんどん攻撃が通りやすくなる。

 俺も早々に予備の槍を叩きこみ、後は熱弾ヒートを撃ちまくっていた。

 そして敵がほとんど朦朧もうろうとなったところで、ヨシツネが渾身の斬撃を叩きこんだ。


「グブッ、グウウ……」


 その攻撃で首の半ばまでを断たれたイノシシが、断末魔の声を上げて息絶える。


「やった!」

「ハッ、ハッ……はい、タツマ様。勝ちました」

(わふ、とうとう勝ったのです)

「ようやく勝てましたね~。お見事で~す」


 まだ息を荒げているヨシツネに近寄って肩を叩くと、ホシカゲが全力で駆けよってきた。

 そんな彼をわちゃわちゃとなで回すと、お返しとばかりにベロベロと顔をなめられた。

 するとスザクも俺の肩に停まり、珍しく素直に褒めてくれる。


 ひとしきり勝利を喜び合った後、魔石を取ろうと巨大イノシシに近寄ると、その遺骸が霞のように消え去った。

 そしてその後には、大きな魔石がポツンと残される。

 挑戦者の多い守護者部屋では、遺骸が消え去るのが早いという噂は、本当のようだ。

 次の挑戦者を待たせないための、迷宮の仕組みなのだろう。


 俺たちは魔石を回収すると、守護者部屋の奥の扉の周りに集まった。

 そこには石の台座と水晶があり、守護者を倒してからこれに触れると、1層突破の記録がギルドカードに記される。

 この証を手に入れた冒険者は、迷宮の入り口から2層入り口までショートカットが可能になる仕組みだ。


 俺とヨシツネが順に水晶に触れると、扉が開いて下へ降りる階段が現れた。

 階段の下には1層の入り口と同じような部屋があり、やはり真ん中に水晶が設置されていた。

 この水晶に手を当てて台座に書いてある呪文を唱えれば、1層の入り口へ戻してくれるそうだ。


 ちなみに入り口からここへ転移して、1層深部へ戻ることも可能らしい。

 凶暴猪と戦いたければ、わざわざ序盤、中盤を歩かなくても対面できるわけだ。

 ただしその場合、巨大イノシシは2度と現れないそうだが。



 入り口に転移して迷宮を出ると、すぐに魔石を換金する。

 巨大イノシシの魔石は銀貨5枚と、最高値を更新した。

 しかしあの手強さに対して妥当かというと、はなはだ疑問ではある。


 それから冒険者ギルドへ行き、実績ポイントの精算をした。

 コトハにカードを提出すると、内容を確認した彼女が嬉しそうに顔を輝かせる。


「あら、凄いじゃない。もう1層を突破したのね」

「ええ、守護者の大イノシシには、苦労しましたけどね」

「それはそうよ。普通はあれを倒すのに、5、6人で掛かるのよ。それを2人と1匹だけで倒すなんて、かなり優秀なんだから」

「やっぱりそうですよね。でもまあ、これもヨシツネのおかげなんですけど」

「ウフフ、そうみたいね。さあ、これで2人とも鋼鉄級よ。この分なら、2層を探索するうちに白銀級になれそうね。でも無理はしないように」


 ちょうど実績値が溜まって、鋼鉄級に昇格したらしい。

 これで俺たちも、1人前の冒険者だ。


「無理なんてしないですよ。俺は安全第一ですから」


 大真面目でそう言ったら、苦笑しながらコトハに返された。


「本当の安全主義者は、迷宮なんかに潜らないわよ」

「アハハッ、それもそうですね」


 そんなやり取りをかわし、俺は上機嫌でギルドを後にする。

 ちなみに俺とヨシツネの強化度をカードで確認すると、めでたく2に上がっていた。

 やっぱり迷宮内で戦闘すると、成長が速い。

 ただし肉体が強化されるのは1晩寝た後になるので、まだ実感はないが


 家に帰る道すがら、明日の話をする。


「さて、次からは2層だね。2層はもっと稼げるらしいから、徐々に装備を更新していきたいね」

「ええ。ちなみに2層はどんな魔物が出るのですか?」

「え~と、たしか幻影狐げんえいきつね風牙狼ふうがろう、そして剣牙虎けんきこだな」

「ふむ、それぞれ手強そうですね。特徴はもう調べてあるのですか?」

「うん、とりあえず3層までは調べてある。それ以降はまた情報収集が必要だけど」

「さすがですね。ところで、ここの迷宮はどこまで探索されているのですか?」

「え~と、たしか6層ぐらいじゃなかったかな」

「なるほど。まだまだ先は長いですね」

「まあね。でも期限があるわけじゃなし、気長にやってこうよ」

「はい」


 たしかに先は長いのだが、今日は素直に1層の突破を喜ぼうと思う。

 そしてまた、さらなる高みを目指すのだ。

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