17.使役レーダー
翌日は森の中で、投槍器の練習だ。
適当な木の的を準備して、10メートルくらいの距離から槍を投げるのだ。
まず槍の後端にアトラトルの突起を引っかけ、槍と並行に持つ。
ちなみに槍の長さは洞窟での取り回しを考慮して、120センチくらいに詰め、後端にはくぼみを付けてある。
それを右後方へ掲げてから、的へ向けて振り抜いた。
「キャハハハハ、へたっぴですね~、主様」
「うっせ。最初っから上手くいくわけ、ないだろう」
見事にあさっての方向へ飛んでいった槍を、スザクが笑う。
しかし最初から当たると思うほど、俺は楽観的じゃない。
その後も黙々と練習していると、だいぶ精度が上がってきた。
「なかなか様になってきましたね」
(わふ、うまいです)
すると盾の使い方を練習していたヨシツネと、ホシカゲに褒められる。
「まあ、ぼちぼちだね。そっちの盾の方はどう?」
「ええ、昔使ったことがあるので、なんとかなります」
「さすがヨシツネ。それじゃあ、肩慣らしに、ゴブリンでも相手にしてみようか」
「それはいいですね。やはり相手がいるといないとでは、違いますから」
「だよね。ゴブリンの捜索は、ホシカゲに頼むな」
(わふ、お任せなのです)
こうして俺たちは新しい武器を試すため、ゴブリンを探しはじめた。
幸いにも俺たちには、ホシカゲという高性能センサーがある。
少し森の奥へ行くと、ゴブリンの群れがすぐに見つかった。
(それじゃあ、念話で連携しながら、戦ってみよう。役割はいつもの感じでな)
(了解です)
(わふ、楽しみなのです)
(私も上から見てますね~)
早速、念話を使った戦闘を提案してみると、みんな乗り気である。
準備が整うと、いつものようにホシカゲが飛びだした。
「バウ!」
「ギャギャギャ!」
さらにヨシツネがスルスルと近寄ると、ゴブリンが反撃してくる。
しかし彼にとってはあくびが出るような動きで、軽く盾でいなしてみせる。
一方、俺も投槍を試そうと、おもむろにアトラトルを構えた。
適当なゴブリンに向けて腕を振ると、凄い速さで槍が飛んでいく。
「グギャッ」
槍はいとも簡単にゴブリンを貫き、あっさりと絶命させる。
軽く投げただけなのに、ゴブリンにとっては強力すぎるくらいだ。
一方、ヨシツネとホシカゲも大活躍しており、ゴブリンはあっという間に血の海に沈んでいた。
「あ~あ、ゴブリンじゃ弱すぎて、あまり参考にならないか」
「そうですね。俺たちが迷宮で鍛えたせいで、思った以上に差が広がっていたようです」
「アハハ、何度か死にそうな目にあってるからね」
肉体強化の恩恵もさることながら、迷宮で死線を乗り越えた経験が、思った以上に俺たちを強くしている。
「それならさっさと耳と魔石を取って、迷宮にでも行こうか」
「はい」
そんな話をしていたら、ふいにホシカゲが周囲をうかがいはじめた。
(わふ、別のゴブリンが近づいてるです。しかも3方向から。戦っていて、気づくのが遅れたです)
「マジか?……全員、戦闘態勢!」
俺たちは敵に背後を取られないよう、陣形を組んで敵に備えた。
するとさほど経たぬうちに、多数のゴブリンが現れる。
それぞれ5~10匹のゴブリンが、3方向から俺たちに迫る。
「おいおい、20匹以上いるじゃないか。さすがに油断できないな」
「俺ができるだけ引きつけるので、タツマ様はそちらへ行った奴を始末してください。ホシカゲは敵をかき回してくれ」
(分かったです)
あれよあれよという間に俺たちはゴブリンに囲まれ、戦闘が始まる。
ヨシツネは目立つ場所で盾と剣を振るい、敵の注意を引きつける。
ホシカゲも敵の中を駆け回って、攻撃を分散させようとしていた。
そんな中、俺は少し大きな木を背にして、熱弾をゴブリンに放つ。
それによって仲間の死角から迫るゴブリンを、牽制するのだ。
しかし、俺も人の心配をしていられる状況じゃなくなった。
(後ろです、主様~!)
「何?……うわ、なんだこれ」
スザクから念話で警告を受けた瞬間、俺の頭の中にレーダーの表示盤みたいなのが浮かんだ。
その盤上には青と赤の輝点が表示されていて、本物のレーダーみたいだ。
そして中央の青い点に、左後方から赤い点が迫っている。
すぐに左後方を確認すると、今まさにゴブリンが殴りかかろうとしていた。
「グギィッ!」
「ぬおっ、この野郎!」
ギリギリで敵のこん棒をかわすと、右手に握っていたメイスをお見舞いする。
それはちょうど、攻撃をかわされてたたらを踏んだ敵の後頭部に命中し、一撃で命を奪った。
「あ、危なかったあ」
「気をつけてくださいよ~、主様」
「ああ、さっきのはサンキューな」
「さんきゅ~?」
「ありがとうってこと」
その後は常にレーダーらしきものが使えたので、不覚を取ることはなかった。
ヨシツネやホシカゲにも適切な指示を出せたので、さほど掛からずに敵は全滅する。
「フウッ……みんな、ケガはないか?」
「ハアッ、ハアッ……大丈夫です。タツマ様の指示には助かりました」
(わふ、僕も役に立ったです)
「ああ、それは良かった……実は、戦闘中に変な能力が身に着いたんだ」
「変な能力、ですか?」
「うん、こんなのが頭に浮かんで、敵と味方の位置関係が分かるの」
俺は地面にレーダー表示盤の絵を描き、能力の内容を説明した。
すると説明してる途中で、視界に入っていない敵も認識できていたことに気づく。
「不思議なことに、見えてない敵の位置も分かったんだよな。そういえば、スザクに警告された時にひらめいたんだ」
「私の警告でですか~? それなら、主様の使役スキルが、関係してるのかもしれませんね~」
「俺の使役スキル?」
「例えば私やヨシツネ、ホシカゲの情報も受けとっている、とかですね~」
「みんなの情報を受けとる? そんなこと、できるのかな?」
「我々は主様の使役スキルでつながっているのですから、あり得ないことでもないのでは~」
「ふ~む」
スザクの言うことには一理ある。
なので俺たちはその後、能力の検証をすることにした。
またホシカゲにゴブリンを探してもらい、戦闘をするのだ。
戦闘を3回ほど繰り返すと、俺のレーダースキルの全貌が見えてきた。
やはりレーダーには俺だけでなく、仲間の情報も反映されていた。
なので俺の視界外の敵も分かるし、物陰で目に見えない敵も認識できる。
もちろん仲間の視界に入っていない敵は認識できないのだが、ここでホシカゲの探知能力が貢献していた。
彼の優れた嗅覚や聴覚による情報が、おぼろげながらもレーダーに反映されるのだ。
「敵の配置が分かるというのは、有用な能力ですね。今後もタツマ様の指揮には、期待できそうです」
「うん、そうだね。俺は遠距離攻撃をしながら指揮を執るってのが、よさそうだ」
(わふ、心強いのです)
「よわっちい主様には、ちょうどよい能力かもしれませんね~」
「よわっちいとか、言うな」
「あいたっ」
こうして俺は、パーティの戦力をさらに高める能力を手に入れた。




