15.守護者への挑戦
凶暴猪に苦労した翌日は、森で薬草採取のかたわら、槍の訓練をした。
ヨシツネが槍の使い方を教えてくれるので、組手にもつき合ってもらって習熟を進める。
俺には魔法もあるので、主に防御的な取り回しを練習した。
ヨシツネは元戦士だっただけあって、こういうことにはとても詳しい。
ホント、良い仲間ができたものだ。
だけどアイツ、態度が固いんだよな~。
もっと親しく接してくれていいのに。
まあ、一応俺が主人であり、呪いを解いた恩人でもあるから、そうなっちゃうのは仕方ないんだろう。
少しずつ親しくなっていこうと思う。
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こうしていくらか槍の使い方を学んだ翌日、さっそく迷宮へ潜ってみた。
すると思った以上に戦いやすい。
ネズミやウサギなら、熱弾で怯ませてブスリと刺せば一発だ。
しかもメイスより間合いが取れるから、より安全に戦えるようになった。
これなら凶暴猪もなんとかなると思ったんだが、それはちょっと甘すぎた。
あいつらタフだから、どうやっても一発じゃ倒せないんだよね。
しかも槍が刺さったまま抜けなくて、またメイスで戦うはめになった。
「ハアッハアッハアッ……くそっ、また死ぬかと、思った」
「まだ槍を使いはじめたばかりですから、過信は禁物ですよ。慣れれば、もっと楽に攻撃できるようになるでしょう」
「キャハハハハハッ、主様は戦闘の素人なんですからね~。調子に乗っちゃ駄目ですよ~」
「お前な~……もっと気を遣えよ」
スザクの言いようにはイラッとするが、言い返せないのが悔しい。
なんで俺はこんなに弱いのだろうか?
普通、ラノベなんかじゃ転生者ってのは、チート能力もらって余裕なんじゃないの?
俺の転生ライフはハードモードってか。
その後も慣れないながら、1層深部を探索する。
所々で2、3匹のイノシシに出くわしたが、幸いにもホシカゲの探知能力で事前に察知できる。
そこでヨシツネが先行して敵の一部を拘束し、俺とホシカゲが残りを倒すパターンで対処した。
さすがに何回もやってると慣れるもので、凶暴猪が相手でも苦戦しなくなってきた。
その日はなんと15匹ものイノシシを仕留め、銀貨30枚以上を手に入れた。
俺たちはそれなりの手応えを感じながら、帰路に就いた。
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あれから4日間、俺たちはイノシシを狩りながら、とうとう深部の探索を完了し、守護者部屋の前に立っていた。
「どうしますか? タツマ様」
「う~ん、1層の守護者はでかいイノシシらしいんだよなぁ。今の俺たちで、やれるかな?」
「どれぐらい大きいんですか?」
「聞いた話だと、普通の3倍か4倍はでかいらしいよ。毛皮もさらに硬いって話だし」
するとヨシツネは顎に手を当て、しばし考える。
「……俺が正面を引き受けてるうちに、タツマ様とホシカゲが攻撃するのはどうでしょう?」
「それで大丈夫? いくらヨシツネでも、1人で巨大イノシシの相手はきついんじゃないかな」
「いえ、少々でかい程度の魔物なら、故郷でも相手をしたことがあります。たぶん、これぐらいですよね?」
そう言って敵の大きさを手ぶりで示すヨシツネは、本当に余裕そうだった。
「う~ん、それならいけるかなぁ。ホシカゲはどうだ」
(わふ、がんばるのです)
「ホシカゲも乗り気、か……たしかに守護者を倒せば、入り口まで歩いて帰らずにすむ。せっかくだから、やってみるか?」
「ええ。たぶん大丈夫ですよ」
こうして俺たちは、初めての守護者戦に挑むことにした。
石の扉の前に立つと、扉の表面に丸い紋様が描かれていて、そこに手を当てると扉が右にスライドして開いた。
その先には大きな空間が広がっているようだが、暗くてよく見えない。
俺はゴクリとつばを飲んでから、部屋の中に踏みこんだ。
続いてヨシツネとホシカゲも入ってくると、部屋の中が明るくなり、背後で扉が閉まる。
すると明るくなった部屋の奥で、巨大な凶暴猪が立ち上がった。
そいつは噂に違わぬ巨体で、通常個体の4倍はありそうだ。
そして巨大イノシシの咆哮が、守護者戦の幕を上げた。
「ブゴォーーッ!!!」
「走れ、ホシカゲ。熱弾!」
「ワオン」
ホシカゲに指示を出しながら熱弾を放つと、ヨシツネが俺を守るように前に出る。
彼は剣を両手で持ち、突っこんできたイノシシを下から斬り上げた。
それによって突進は止まったものの、ヨシツネの剣は敵に深手を与えられない。
逆に20センチ以上ある牙で逆襲され、ヨシツネがギリギリで避ける始末だ。
俺は彼の後ろから熱弾を放ちながら、たまに槍を突きだしていた。
しかしその穂先は分厚い毛皮に阻まれ、やはり敵にダメージを与えられない。
逆に敵の鼻先ではねのけられて、俺が体勢を崩されてしまった。
「タツマ様!」
すかさずヨシツネが割って入ったおかげで、俺は攻撃を受けずに済んだ。
さらにホシカゲも敵の後ろ足にかじりついて、イノシシの注意をそらそうとしている。
その後、俺はヨシツネの後ろから、ひたすら熱弾を放つ攻撃に切り換えた。
どんなに硬いといっても、決して無敵ではない。
3人で力を合わせれば、必ず倒せるはずだ。
そう思って俺たちは、ひたすら巨大イノシシに攻撃を仕掛ける。
俺は熱弾で目を狙い、ヨシツネは敵の正面で剣を振るう。
ホシカゲはすばやく動き回りながら、イノシシの足にかじりつこうとしていた。
そんな均衡がしばらく続いたものの、それは突然破られる。
「キャインッ!」
「ホシカゲっ! 熱弾! 熱弾!」
ホシカゲの攻撃を読んだイノシシが、突然間合いを変えて牙を振るったのだ。
その攻撃により、ホシカゲの背中から血がほとばしった。
俺は渾身の力を込めて熱弾を連発すると、そのうちの1発が敵の目に当たる。
「プギィーーッ!」
「チャンスだ、ヨシツネ。ホシカゲを連れてきてくれ。脱出するぞ!」
「分かりました!」
巨大なイノシシがひるんだ隙を突き、俺は入り口まで走って扉の中央に手を触れた。
すると閉じていた扉が開き、元来た通路が現れる。
これは守護者部屋の安全措置で、敵があまりに強くて敵わないと思ったら、脱出できる仕組みになっているのだ。
たしかにこうでもしなければ危険が大きすぎて、冒険者も集まらないだろう。
そんな、微妙に優しい措置に助けられて、俺は部屋の外へ逃げのびる。
さらにホシカゲを抱えてヨシツネが出ると、守護者部屋の扉は閉じた。
「ハアッ、ハアッ…………大丈夫か? ヨシツネ」
「俺は大丈夫です。しかしホシカゲが」
「クウ~ン(やられたのですぅ)」
「何、お前のせいじゃないさ。俺たちが弱かったんだ。待ってろよ。今、治してやるから」
俺はすかさず治癒ポーションを取りだし、ホシカゲの傷に塗ってやった。
すると即座に血は止まり、ブヨブヨと肉が盛り上がってくる。
相変わらず見事な効果だ。
その効果を見届けると、俺は力が抜けて壁に寄りかかった。
「見込みが甘すぎたな……完全に失敗だ」
「すみません。偉そうなことを言っておきながら、大した仕事ができませんでした」
1人で責任を感じているヨシツネが、顔を暗くする。
「そんなことないって。みんなで決めたことなんだから、全員の責任さ。俺の方こそ、役に立たなくてごめん」
(一番弱かったのは、僕なのです。またケガで足を引っ張ったのです)
ホシカゲが三角の耳をしおれさせ、全身でしょげていた。
俺はそんな彼の頭をなでながら、話しかける。
「ホシカゲはよくやってくれたよ。今回は運がなかったんだ。いや、運だけじゃなくて、力も足りなかったんだな」
「そうですね。守護者を越えるには、まだ力が足りないようです」
「うん、だからさ、またやり直そうよ。足りない物を補って、また守護者に挑むんだ」
「はい、そうしましょう」
「ワフン(次こそヘマをしないのです)」
さんざんな守護者戦だったが、俺たちは即座に再戦を誓い合っていた。