14.苦戦
昼飯の後も探索を続け、中盤をほとんど踏破することができた。
その間に遭遇したウサちゃんは、ヨシツネ、ホシカゲと連携して狩りまくる。
ヨシツネが適度に敵を回してくれるので、俺にとっては良い訓練になった。
夕刻近くなったので引き上げたが、いずれは野営の道具を持ちこんで、泊まり込みで攻略なんてのもいいかもしれない。
それにしても、今日だけでネズミを15匹に、ウサギを43匹も狩った。
おかげで銀貨24枚もの稼ぎになり、記録更新だ。
これならじきに、装備を充実させられるだろう。
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翌日も早朝から迷宮に潜り、いよいよ深部の探索に取りかかる。
ここから先には、凶暴猪という魔物が出るらしい。
ヨシツネとホシカゲに注意を促してから、先へ進む。
(わふ、新しい魔物が2体、この先にいるのです)
「いよいよ凶暴猪のお出ましだな。剣耳兎なんか比べ物にならないくらい、手強いって聞くぞ」
「それは楽しみですね。それにしてもホシカゲの探知能力は、大したものです」
「ワフン(それほどでもないのです)」
「それほどでもないってさ。それじゃあ、慎重に進もうか」
足音を忍ばせて先に進むと、開けた場所が見えてきた。
そちらの方から、フゴフゴという声が聞こえてくる。
そっとのぞき込んでみると、たしかにイノシシが2体、部屋の中で動いていた。
「うわ、本当に強そう」
それは一見、普通のイノシシだった。
体格はそれほど大きくもなく、体重は70~80kgぐらいだろうか。
しかし口元には10センチ近い牙がそそり立ち、その先端は鋭く尖っている。
「まずは俺が飛びこんで、1頭を押さえます。その間にタツマ様とホシカゲで、残りを倒してもらえますか?」
「1人で大丈夫?」
「1頭くらいなら、なんとかなるでしょう」
「分かった。でも無理そうなら、すぐに言ってね」
「分かりました」
ヨシツネは軽くうなずきながら、無造作に歩きだした。
俺とホシカゲは壁際に張りついたまま、様子をうかがう。
やがてヨシツネに気づいたイノシシの1匹が、地面をガリガリひっかいた直後、突進した。
しかしヨシツネは少しも慌てず、向かってくる敵に斬りつける。
「む、硬いな」
針金のような毛皮に弾かれても、ヨシツネは動揺しない。
巧みにイノシシの攻撃を避けながら、次々と斬りつける。
そこへもう1匹のイノシシも参戦したところで、俺も介入する。
「行け、ホシカゲ。熱弾!」
「ワオン」
俺が熱弾を放つと同時に、ホシカゲが飛びだした。
彼は瞬く間に距離を詰めると、敵の喉笛に噛みつこうとする。
しかしやはり硬い毛皮に阻まれ、その牙は肉に届かない。
「熱弾! 熱弾!」
そんな彼を援護しようと、俺は熱弾を連発する。
すると敵の頭部に命中した攻撃が、わずかに敵の動きを鈍らせる。
しかしその分、敵の注意を引いてしまい、イノシシが俺に向かってきた。
(ご主人様!)
すかさずホシカゲが先回りして、邪魔しようとしたが、相手が悪すぎた。
「キャン!」
「ホシカゲっ! 熱弾! 熱弾! 熱弾」
ホシカゲが敵の鋭い牙に掛かり、ケガを負ってしまう。
すぐに助けにいきたいところだが、目前にはイノシシが迫っていた。
するとやけくそのように放った魔法の1発が目に当たり、敵の勢いが緩む。
そのわずかな隙に俺は左側へ体を投げだし、イノシシの突進をギリギリでかわした。
逆に目をやられて突進した敵が、そのまま洞窟の壁に激突する。
敵の自爆でできたわずかな隙に、俺は状況を確認した。
するとヨシツネはまだ最初のイノシシと戦っていたし、ホシカゲは足をケガして動けない。
こうなったら俺がやるしかない。
俺は震える脚を叱咤しながら立ち上がり、メイスを構えてイノシシに駆け寄った。
「ブギー、ブギー」
鼻づらをぶつけて悶えているイノシシの眉間に、渾身の力でメイスを叩きこむ。
致命傷には程遠いが、イノシシが痛みに悲鳴を上げる。
俺はさらに弱そうな目や鼻先に向けて、メイスを振り下ろした。
無我夢中でそれを繰り返していたら、ふいに誰かに腕をつかまれる。
「タツマ様! もう死んでいます」
「ハアッ、ハアッ……そうか、死んでたか。ヨシツネはケガしなかったか?」
「はい、タツマ様が1匹受け持ってくれたので、無事に倒せました。俺が魔石を回収しますから、休んでいてください」
そう言われて俺は、その場にへたり込んでしまう。
息はひどく乱れたままだし、メイスが手から離れない。
思った以上に疲れてる。
「大丈夫ですか~? ほんと、主様は弱いですね~」
「や、やかましいわ!……それよりも、ホシカゲは?」
「クウ~ン(面目ないのです~)」
ホシカゲは足をひきずりながら、こちらへ近寄ってくる。
俺はすぐに荷物の中から治癒ポーションを取りだして、フタを開けた。
「ホシカゲもよくやったぞ。ほら、傷を見せてみろ」
幸いにもそれほど大した傷でなかったので、ポーションを塗るだけでだいぶ良くなった。
そんな俺たちを横目に、ヨシツネは黙々と魔石を回収している。
魔石を集めたところで、その場に座って反省会を開いた。
「……ちょっと敵をなめすぎだったね。2匹だけであれじゃあ、この先は難しいんじゃないかな?」
「そうですね。俺も倒すのに多少は時間が掛かるので、タツマ様にも剣か何かを使ってもらった方がいいように思います」
「う~ん、剣ってけっこう難しいんでしょ? 槍の方がまだ使いやすくないかな」
「たしかにタツマ様は魔法が主体なので、間合いの取れる槍の方がいいかもしれませんね。帰りに武具屋をのぞいてみましょう」
その後はホシカゲがケガしたのもあって、おとなしく帰ることにした。
なんとか倒した凶暴猪の魔石は、1個で銀貨2枚になった。
剣耳兎の4倍というのは、ちょっと割に合わないと感じる価格だ。
帰り道で武具屋に立ち寄り、銀貨55枚で槍を買った。
迷宮での取り回しを考えて、槍の長さは俺の背と同じくらいにした。
俺の背はたぶん165cmくらいだと思う。
もう少し成長するとしても、せいぜい170cm止まりだろう。
ヨシツネは180cmくらいあるので正直、ちょっとうらやましい。
しかも細マッチョでかっこいいんだよな、これが。
しかも呪いが解けた彼は、表情に生気が戻ったのもあり、女性の目を引くようになっている。
頬を染めて振り返る女性もけっこういるんだけど、彼の方は全然気にしてないみたいだ。
単に鈍感なのか、それともそっちの欲望が薄いのか?
いずれにしろ、彼に惚れた女性は苦労しそうだね。
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家に帰ったら、テッシンがヨシツネの部屋を準備してくれていた。
しかもベッドまで備わってる。
「テッシンさん、ここまでしてくれなくても……」
「いやいや、使ってない部屋を片付けただけだよ。それにヨシツネ君も床の上じゃ、疲れが取れないだろう」
「いえ、俺は平気ですけど……」
予想外の厚遇にヨシツネが戸惑っていると、テッシンはニコニコ笑いながら言う。
「もちろんタダじゃないよ。タツマと同じように、毎月銀貨30枚を払うのでどうだい?」
なるほど、これからはヨシツネも賃借人ってことか。
それならここで、家賃アップを提案しておこう。
「それなら、これからは2人合わせて金貨1枚、毎月払いますよ」
「いや、そんなには――」
「今までが安すぎたんですよ。最近は1日で銀貨30枚くらい稼げるようになってるから、大丈夫ですって」
「ほほう、タツマも頼もしくなったなあ」
「えへへ、これもヨシツネのおかげですけどね」
「そうかそうか、それじゃあ夕食にしよう」
夕食の席では、迷宮に出てくる魔物の話と、ヨシツネがいかに強いかで盛り上がった。
俺のことを心配していたテッシン夫妻も、少しは安心してくれたようだ。




