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俺の周りは聖獣ばかり ~使役スキルで成り上がる異世界建国譚~【改訂版】  作者: 青雲あゆむ
第2章 アリガ迷宮探索編

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11.呪われた奴隷

 初めてアリガ迷宮に潜った俺は、1層序盤をかたっぱしから探索していった。

 昼飯後に洞窟鼠を10匹ほど倒すと、とうとう中盤に差しかかる。

 しばらく進むと、ホシカゲから情報がもたらされた。


(わふ、今までと違う臭いがするです)

「いよいよ出たか。中盤からは剣耳兎けんみみうさぎが出るらしいからな」

(それって、どんなのですか?)

「名前のとおり、耳が剣みたいになった魔物だ。おまけにピョンピョン跳びはねて、とらえにくいらしいな。ホシカゲも、うかつに突っこむんじゃないぞ」

(どうやって戦うです?)

「う~ん、とりあえずホシカゲは俺を守ってくれ。俺が遠くから熱弾ヒートで攻撃するから」

(了解です)


 そのまま忍び足で進み、魔物のいる部屋をのぞき込む。

 するとそこには、大ぶりなウサギが4匹いた。

 その体は洞窟鼠より小ぶりだが、凶悪な武器を持つその魔物は脅威だ。

 ピンと立ったウサ耳は、柳葉包丁のように硬く、鋭そうだ。


 そんな敵に、先制攻撃を仕掛ける。


熱弾ヒート!」

「キュアッ」


 初撃が命中したウサギが、一撃で昏倒する。

 すると俺たちを敵と認めた残りのウサギが、赤い目をぎらつかせて迫ってきた。


「グワウッ、グルルルルル~!」

「キュキュッ、キュ~」


 それをホシカゲが体を張って威嚇すると、敵はピョンピョンと跳ねて、ヒットアンドアウェイを繰り返す。

 おかげで俺の熱弾ヒートも、なかなか命中しない。

 やがてホシカゲの横をすり抜けた1匹が、俺に飛びかかった。


熱弾ヒート! グワッ」


 すかさず熱弾ヒートを放ったものの攻撃は外れ、敵の凶器が俺の足に突き立てられた。


「グアッ。いてえじゃねえかっ!」

「ギュアッ!」


 怒りに任せて振り下ろしたメイスが、幸いにも敵を捉える。

 その一撃は見事に頭部を粉砕し、ウサギの息の根を止めた。

 すぐにホシカゲに目をやると、2匹のウサギに翻弄され、数か所に傷を負っていた。


 俺は脚の痛みをしながら、近い方のウサギに狙いを付けた。


熱弾ヒート!」

「キュアッ!」


 なんとか敵を魔法で黙らせると、残りをホシカゲが追い回す。

 やがて壁際に追い詰められた最後のウサギが、ホシカゲの牙でとどめを刺された。


(わふ、わふ……ようやく片付いたのです)

「ご苦労さん。まだ生きてるのに、とどめを刺してくれるか」

(了解です)


 熱弾ヒートで昏倒していたウサギにとどめを刺すと、ようやく戦闘が終結する。

 さらに魔石を集めてから、俺は地面に座って傷の治療に取りかかる。


「くっそ、剣耳兎とはよく言ったもんだ。器用なことに、鎧の隙間を狙いやがって」


 敵の攻撃は右の太ももを傷つけており、ズボンに血がにじんでいた。

 そのためズボンをずり降ろしてから、傷に治癒ポーションを塗る。

 すぐに痛みがひいたので、ホシカゲの傷も調べてポーションを塗ってやる。


(わふ、ありがとうです)

「なに、ホシカゲのおかげで助かったからな。それにしても、いきなり手強いのが出てきたな……」

「今の主様では、攻撃力が不足しているようですね~。今日はもう、引き上げてはいかがですか~」

「うーん……そうだな、そうするか。けっこう疲れたし」

(わふ、そうするです)


 少し休憩を取ってから、のんびりと迷宮の入り口へ向かった。

 幸いなことに、魔物が出てもホシカゲが教えてくれるので、あまり慌てずにすむ。

 たかがウサギやネズミといえど、物陰から奇襲されては敵わないからな。


 無事に外へ出ると、入り口横の買取り所に魔石を提出した。

 魔石は国が管理してるから、勝手に持ち帰ると罪に問われてしまう。

 申請さえすれば、多少は持ち帰れるらしいのだが。


 魔石の買取り価格は、洞窟鼠が銅貨2枚、剣耳兎は銅貨5枚だ。

 今回はネズミを42匹と、ウサギを4匹倒したので、合計で銀貨10枚と銅貨4枚になった。

 まだ日も高い時間でこの稼ぎなら、まあまあと言っていいだろう。

 狩場が近いのと、魔物の密度が高いからこそである。


「けっこう儲かったな。やっぱり迷宮探索は、割がいいみたいだ」

「そうですね~。ですが主様、ウサギ程度に手こずっているようでは、自慢できませんよ~」

「分かってるよ、それぐらい……でもそう簡単に強くなんて、なれないじゃないか」

「そうでもありませんよ~。使い方次第で魔法は、もっともっと強くなるのですから~」

「ふ~ん、そうなの?……それならまた森に行って、練習してみるか」

「それがいいですよ~」


 そこで俺は近くの森の中で、魔法の練習をすることにした。

 まずは人気の無い場所を見つけ、座って瞑想をする。

 迷宮探索でだいぶ魔力を消費したから、補充が必要なのだ。


 それでも最初の頃に比べたら、ずいぶんと俺の魔力も増えている。

 これも毎晩、瞑想をして魔力を増やしたおかげだが、最近はそれも頭打ちになってきた感じだ。

 しかし肉体が強化されれば魔力量も伸びるらしいので、今後も精進しょうじんは怠らない。


「さて、熱弾ヒートの威力を上げるには、どうしたもんかな?」

「そうですね~。まずは魔法がどのように発動しているかを分析して、改良するというのはどうですか~?」

「分析ねえ……それもそうか。まずヒートは、火属性を無属性の魔力に練りこんでるんだよな。そしてそれが対象物に当たると、パチンって弾ける。前世でいうと、かんしゃく玉みたいな構造だな。その威力を上げるなら……敵の表面じゃなくて、体内で弾けるようにできないかな……それには弾を円錐形にして……」


 俺は思いつきを実現しようと、試行錯誤してみた。

 しかし、言うは易く行うはかたし。

 まだ俺の魔法制御が甘いせいか、弾の形状なんて全然制御できやしない。


 円すい形? 

 無理無理、そんな形状保てないって。

 結局、弾を少し大きくするくらいしかできなかった。


「うーん、難しいなあ、やっぱ……」

「キャハハハハハッ、主様はまだ魔法を使いはじめたばかりの、ザコですからね~。ザコはザコなりに、努力するしかないのですよ~」

「相変わらずひどいよね、お前……本当に俺のこと、主だと思ってる?」

「もちろんですよ~、いたっ!」


 ムカついたので、また指でこづいてやった。

 そんなやり取りをしながら、俺は家に帰った。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 それからしばらくは1層の序盤で狩りを続け、たまに中盤にちょっかいを出す生活を繰り返す。

 すると洞窟鼠といえど多数を狩った効果は大きく、やがて俺の強化度が1になった。

 迷宮の外で何十匹ゴブリンを倒しても強化度はゼロだったのに、やはり迷宮の効果は凄い。


 これによって俺の能力は、5%ほど上がったことになる。

 まだあまり実感はないが、確実に俺は強くなっている。

 そんな思いを抱きながら、ひたすら迷宮探索を続けた。


 やがて剣耳兎にも慣れてきたので、中盤の探索も増やしている。

 しかし敵が多いとケガをする可能性が高いので、その場合は逃げるしかない。

 おかげでなかなか奥まで行けず、ストレスが溜まっていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 そんなある日、俺は例の獅子人ししびとの奴隷に再会した。

 初めての迷宮攻略の朝に、俺の前に倒れてきた男だ。

 しかしそれは再会というより、町中で見かけたというのが正しいだろう。


 なぜかあの獅子人が、奴隷商の店先でさらし者にされていたのだ。

 彼は手枷、足枷を付けられた状態で店先に立たされ、首から木の札を下げている。

 その札にはこう書いてあった。


”獅子人の奴隷 金貨1枚。ただし衰弱の呪い付き”


 奴隷が金貨1枚というのは破格の安さだが、衰弱の呪い付きではまず買われない。

 力仕事ができないので、何かよほどの才能でも無い限り、ただのごく潰しになってしまうからだ。

 おそらく、先日彼をいじめていた冒険者も、あまりの使えなさに手放したのではなかろうか。


 改めて見ると、その男は見事な肉体を持っていた。

 衰弱の呪いさえなければ、さぞ高値で売れるだろう。

 あえて呪いを付けてるのは、やはり嫌がらせなのか。

 もしそうなら、彼をいつまでも苦しめる、ひどく残酷な所業だ。


 そんな彼を見つけた時、ふいに昔の俺の姿が重なった。

 元の職場からも見捨てられ、死んだように仕事をこなしていた時の記憶が、よみがえったのだ。


「なあ、スザク。呪いを外す手段って、無いのかな?」

「おや、主様~。彼を買うつもりですか~? たしかに彼が使えれば戦力が増して、攻略が進むかもしれませんけどね~」

「うん、そうだろ? でもそれ以上に俺は、彼を生き返らせてやりたいんだ。なんだか昔の俺を見てるみたいで、ひどく辛い」

「安易な同情は、ろくなことになりませんよ~。しかしそれでこそ主様で~す。主様の力をもってすれば、彼を助けられるかもしれませんよ~」


 意外な返事に、スザクを凝視する。


「助けられるのか? どうすればいい?」

「まずは彼を買いましょうか~」

「あ、ああ……」


 スザクに促されて奴隷商の店に入ると、すぐに年配の男が寄ってきた。


「これはお客様、奴隷をお探しですか?」

「え~と、表の獅子人を、買いたいんだけど」


 すると男は目をすがめ、念を押してきた。


「衰弱の呪いについては、ご存知ですよね?」

「もちろん。金貨1枚ならお買い得だろ」

「そう言って買っていった方が、何人かいるんですがねえ。いつも出戻るんですよ、食費の無駄だって言われて。買い戻す場合は元の10分の1の値になりますが、それでもよろしいですか?」

「ああ、構わない。これで頼むよ」


 俺が金貨を1枚出すと、奴隷商は淡々と手続きを進めた。

 表から獅子人をつれてきて、その背中に刻まれた奴隷紋を上書きする。

 上書きには、俺の血を混ぜた謎の顔料を使っていた。


「これで手続きは終了です。今度は何日もちますことか」

「さあ、どうかな?」


 俺はとうとう奴隷を買った。

 それは安易な同情にすぎないのかもしれないが、彼をぜひ生き返らせてやりたい。

 そう思っていた。

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