1.気がつけば異世界
前作の改訂版を連載します。
大筋は変わりませんが、気になったところはガシガシ変えていきます。
よろしくお願いします。
ゴウゴウと火が燃えさかる中、人々が逃げまわっていた。
そこかしこでは魔物が暴れまわり、それを撃退せんと戦士たちが剣を振るっている。
しかし俺の目の前には、大事な人たちが横たわっていた。
彼らは俺を守ろうとして、犠牲になった。
何もできない俺は、ただ震えながら、両親が骸となるのを見るしかできなかった。
ただただ俺は、どこまでも無力だったのだ。
もし俺に力があれば、彼らを守れただろうか?
俺は誰かを守れるほど、強くなれるのだろうか?
もっと多くの人を救うような男に、俺はなれないだろうか?
ゴウゴウゴウゴウ。
ワーワーワーワー。
悲しい記憶が、どこまでもリフレインする。
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「フゴッ……あれっ、ここどこ?」
気がつくと俺は、草原に倒れていた。
右頬を草むらに押しつけた状態で、うつ伏せに寝転がっていたのだ。
はて、なぜ俺はこんな所に?
たしか俺は……。
思いだそうとしたら、頭がズキンと痛んだ。
思わず頭に手を当ててじっとしていると、やがて痛みは治まる。
そして改めて自分のことを思い出してみると、徐々に記憶が蘇ってきた。
俺の名前は、宮本龍真、35歳、独身。
中規模の自動車部品メーカーでエンジニアをやっていたのだが、会社にはめられて身も心もボロボロになり、退職に至った。
2ヶ月ほど心身を休め、そろそろ仕事を探そうかと思っていた、はずなのだが……。
体を起こして地面に座ってみると、そこは俺の知らない場所だった。
日本ではありえないくらい広い平地が、どこまでも続いている。
そして快晴の空の下、草原を吹き抜けていく風は、ひどく心地よかった。
するとふいに、耳元で甲高い声がした。
「ようやく気がつきましたか~? 主様」
突然のことに驚いて目をやると、インコが俺の肩に停まっていた。
緑の体にオレンジ色の頭部、そして真っ赤なクチバシと、目が覚めるような色合いをした鳥だ。
「インコ?」
見たまんまを口に出すと、そいつがまた喋る。
「ただのインコではありませんよ~、主様。私の名はスザク。主様の忠実な僕で~す」
「うわっ、喋った。しかも人間みたいに」
インコが喋ること自体はいいとしても、その語り口が妙に流暢だった。
誰かがその辺に隠れていて、スピーカー越しに話していると言われた方が、よほど納得できるほどだ。
しかしその声は甲高く、語尾を上げる喋り方が、ちょっとイラッとくる感じではある。
「私はこの世界で、主様をサポートする存在なので~す。だから普通に喋れるんですよ~」
「……この世界って、どういうこと?」
「主様は地球とは異なる別の世界に、転生されたんですよ~。厳密に言うと、この世界で生きていた人格と、主様の人格がすり替わった形ですね~」
「ええっ、何それ?」
とんでもない話に、頭がついていかない。
異世界転生?
しかも人格が入れ替わった?
それはラノベやマンガの読みすぎだ、と突っこみたくなるような話だ。
しかし改めて俺の体に目をやると、見覚えのない状態であることは事実だった。
服装は、ちょっとゴワゴワする布のズボンとシャツに、革の上着を引っかけてる。
背中には古ぼけた布製のリュックを背負い、ベルトには小物入れとナイフが付いていた。
なんていうか、まさに冒険者って格好だ。
しかも肉体も俺の物じゃない。
妙に肌はスベスベツヤツヤしてるし、俺が昔、作業中にへまをして付けた手の甲の傷も無い。
さらに腹回りのぜい肉はスッキリしてるし、持病の腰痛も消えて体が軽い感じだ。
そんなことを確認した俺は、両手をニギニギしながらつぶやいた。
「本当に、転生したってのか?」
「だからそう言ってるじゃないですか~」
まだ言ってるのかという口調で、インコが喋る。
「いやいやいや。そんなこと、簡単に受け入れられるもんじゃないだろ?」
「まあ、それはそうでしょうね~。だけど事実は変わらないんだから、早めに受けいれた方が得ですよ~」
まるで他人事のように言われて少し腹が立ったが、たしかに状況は変わらないようだ。
明らかにこの体は元の俺ではないし、元の人格の記憶もなんとなく浮かんできたのだ。
この体の持ち主の名前はタツマ。
偶然か必然か、俺と同じだ。
ただしこの世界で平民は苗字を持たず、ただのタツマとして生きている。
彼の年齢は15歳で、最近成人したばかりらしい。
タツマは6歳の時に親を魔物に殺され、孤児になったところを知り合いの商人に引きとられた。
そこでふと、生々しい光景が思いうかぶ。
魔物に村が襲われ、人々が逃げまどう状況だ。
その中でタツマは魔物に両親を殺されたため、強くなることを切に望んでいた。
そこで彼は冒険者になる道を選び、ギルドに登録したばかりなのだ。
この世界では、冒険者ギルドに登録して魔物を倒すと、その生命力を取り込んで肉体が強化される。
なんだそのご都合主義って感じだが、迷宮と冒険の神スサノオから与えられる恩恵なんだとか。
でもタツマはまだ冒険者になったばかりで、ほとんど普通の人と変わらない。
そんなことを考えているうちに、ふと気になることに思い当たった。
俺はゴクリとつばを飲みこんでから、スザクに問いを放つ。
「なあ、スザク……この体の持ち主は、どうなったんだ?」