第2話 模擬戦
「か、完成だー!!!」
「ふー、お前は、何もしてないだろ……」
「明日の練習してくっから〜」
もう、日が沈みかけた頃ヤヅキの武器は完成したのだった。大きくも小さくもないような剣の片側に銃口がある銃剣だ。銃口を付けた副作用で、元は両刃あった刃が今は、片面しか使えない。
「セム〜、1戦するぞ!!」
「えっ、ちょっとまってぇ」
「おりゃァァァ!!」〚エム・ヒャガ‼〛
突っ込んだヤヅキの攻撃を転ぶようにしてかわしたセムは、受け身と同時に魔法を詠唱。すかさず氷の刃を撃ち落とし、斬りかかる。そして──
「セム、危なーい!」
「おい、今いいところだっただろ!」
「だって〜、セム死んだらウチ嫌やし……」
「殺さねぇーよ!!」
マリーナの横槍が入り、終了した。
もう日が沈もうとしていた。一行いっこうは、ボルガの宿に戻っていった。
「只今ただいまより、第四十二回"模擬戦形式試験"を行う! 皆も知っているであろうが、勇者が国を裏切り、邪神との戦力差が広がった。だが、勇者を味方に引き入れたことで浮かれている今が!邪神討伐……いや"三大厄災"討伐のときだ!この模擬戦、上位八名とそのパーティーを勇者討伐に行いってもらう!異論はないな! では、始める。初戦は、そうだな……隣のものと戦え! 私から見て左側から始める。それ以外のものは端にいけ!」
闘技場の真ん中に集められた少年少女は、1戦目の二人以外、遠くから様子を見ている。
───
──
─
もう昼時ひるどきだろうか、模擬戦が終了した。
「おい。セム、マリーナ。余裕だったな」
「う、うん。こんなこと言うのもあれだけど、あんまり強くなかったね」
「まぁ、ウチにかかれば余裕やね。負けるわけないやないの」
そこら中じゅうから、いろいろな声が聞こえる。ある者は喜び、ある者は悲しみにくれる。また、ある者は友を励まし、ある者は友に慰なぐさめられる。次の号令がかかるまでは。
「おい!まだ第一試験だぞ。あと二回試験はあるぞ。次はパーティーで固まってくれ! 第一試験で一人でも勝ったやつがいるパーティーは、参加資格があるぞ!さぁ、はやく!」
大きな声で指示が飛ぶ。サッと、皆、パーティーで固まった。
「よし、1パーティーずつ行くぞ!順番は、そこが一番。次にそこ、緑の服を着ているお前だ。でそこが三番──」
二戦目は魔獣アンリトとの戦いだ。魔獣アンリトは、蟻の見た目をしているが大きさが桁違いだ。流石、魔獣なだけあって大きさが違う。約1.8メートルくらいある。
「狼狽うろたえるな!大丈夫だ!魔獣アントリは、群れになってこそ恐怖であり、単品では雑魚そのものだ! こいつを倒せないやつは、三大厄災討伐は愚か、王国兵士にもなれないぞ! では、始める!!!」
第二試験で、初めの1/4ほどの人数まで減った。そして、その中にヤヅキたちの姿もある。
「ふ〜。初めはどうなるかと思ったが、動きが単純だったな」
「せやね〜。噛み付く前に予備動作があるとか、噛みつきますよ〜っていってるようなもんやしね」
と、ヤヅキ達は余裕の様子だが、周りの人の格好からアントリ討伐の過酷さが伺える。だが、まだ第三試験はこれからだ。
「疲れている者もいると思うが、今から第三試験を始める。第三試験は簡単だ、今残っている者達全員で、乱闘を行ってもらう。20分後に残っている人数が多いパーティーの上位八チームを三大厄災討伐へ向かう許可を与える! では、始めるぞ!!!」
───
──
─
「おらァァ!」 〚エム・ヒャガ‼〛「はいっ、それっ。〚イア・フィルド〛」
「くっ、先に魔導師を潰せ。氷系のやつだ!」
「了解‼」 「当たれ!」
ヤヅキのパーティーは、前衛のヤヅキが剣を持ち近接戦、それを後衛の二人が援護する形だ。魔導師は、滅多になれるものはいないので、二人も魔導師がいるヤヅキ パーティーは、目立っている。
「余所見すんなよ!こっちにも敵はいるんだぜ!」
「とりゃぁぁー」「合わせて!」「うわっ」
他のパーティーは、ヤヅキパーティーを目標にして襲いかかる。が、圧倒的技術差で圧勝。10分しないうちにヤヅキパーティー以外、もう戦闘できる状態じゃなくなった。
「な、何なんだ。あいつらは」「あいつらなら──」
「なんで、俺たち呼び出されたんだろーな」
「ヤヅキの態度が悪いからやない?」
「なんだと!」
「や、やめなよ」
第三試験で圧勝したヤヅキ達はその場で見ていた試験管により最有力候補に認定され、王からの命令があると言われ王室に向かっている。
「それにしても、王城はでけぇーな」
「そやな〜、しかもいろんなとこに金が使われてんで!ウチもこんな家住みたいわ〜」
「この先が王城だ! くれぐれも無礼がないようにな」
「はい!」
大きな金属製の扉を開けた先に、少し開けた空間がありその一番奥に、王は座っている。王座の所まで真っ赤なカーペットが敷いてあり、その横には武器を持った兵士がずらっと列を作っている。圧迫感がすごい。
「お主らが今期の新兵の中で一番強いパーティーか?」
「はい!私達が一番でした」
「そうか、お主らに話があるのだが──。つまりだ、三大厄災の、魔王と邪神は邪兵管理地区にいるが、勇者はフリーザル大雪山におるということが、先行部隊の報告からわかっておる。だが、我が国とアイド、エバロルクの連合軍は、既に邪神と魔王討伐の為、旅立った。途中数々の邪神都市や魔族都市、城を落としながら進むため時間がかかるから、今からお主らが勇者討伐に行っても、タイミングは合うはずだ。どうだ?」
「少し、時間をください」
「どうする?」
「僕は、行きたいよ。このままここに居て終わるのを待つのは嫌だ」
セムはそう、力強く断言した。マリーナも頷うなずいている。皆、同意のようだ。
「王よ、私達は勇者討伐に向かおうと思います」
「そうか、わかった。明日出発だ。家族に報告しておけ」
「……俺の、いや俺たちの親は死んだ。あの戦争で」
「──そうか……悪いこと聞いたな。だが、他にもいるだろ?」
「あぁ、おっちゃんに別れを言ってきます」
「明日、日のでと共に王城前に集合だ。装備や資金はこちらで用意する、お主らは必要最低限のものだけ持ってきたらいい」
「わかりました、また明日」
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周りから人がいなくなったのを確認してから、ホームは、王に訪ねた。
「ところで、なぜあのような若者を勇者討伐にむかわせたのです? "狂犬ヴィル"や"悪魔の指揮官アラン""幻蝶のクラウン"他にも彼らより強いものはたくさんいます。貴殿の決定に不満というわけではないのですが……」
「そういうことか、全ては師の指示だ。師が言うには、勇者が禁句の一つ"自由をも封じし束縛"の使用準備をしているらしい」
「き、禁句⁉ それも、束縛の!……すいません、過剰に驚いてしまいました。 しかし、禁句はそこらの魔術師なんかには使えませんよね。それに、大魔道師クラスの者でも、一つの街を縛るくらいが限界でしょう……」
ホームは薄々感づいてはいるのだ、勇者はとてつもない力を持っているのだと、だが信じたくなかった。──しかし、そんな希望は王の言葉に壊される。
「お前もわかってるだろ、あいつは、勇者は格が違う。この世界全土を縛ることもできる。そして、今それしようとしている。あと一年もしないうちに、勇者は"自由をも封じし束縛"を使い、その範囲はこの世界全土だ。師の密偵からの情報だが、対象は十五歳以下らしい」
「ほぅ、だからあのような若者を送ったのですか、腑に落ちましたよ」
そう言って、ホームは去っていった。
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ポイント
三大厄災さんだいやくさい 邪神と魔王、そして勇者のことを指す。四年前まではニ大厄災にだいやくさいだったが、勇者の裏切りをきっかけに、三大厄災になった。