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向き合うには、深刻すぎる  作者: 東東
【Opening】
1/22

OP

 もう、どうしようもない事だった。

 ただ、どうにかするべき事でもあった。


「・・・俺だってさ、どうにか出来るならどうにかしたいよ。もし解決方法があるなら、是非、試してみたいぐらいなんだって。でも、有効な手段がどこにもないっていうか、そもそもこれって、どうにか出来る類いの事なのかって疑問もあるしさ」

「ってか、一応、どうにかしたいって希望だけでもあるんだ?」

「そりゃ、あるって! これの所為で俺の人生、振り回されっ放しだろ?」

「・・・キヨの人生っていうより、僕の人生の方が振り回されている気がするんだけど?」

「気の所為だ。気を強く持て。全てはそこから始まるから」

「・・・この間、録画の手伝いさせられてた気がするんだけど。つーか、他にも色々あった気がするし、今後もある気がするんだけど」

「・・・俺だって、どうにか出来るならどうにかしたいよ」

「あぁ、そう・・・、それならさ、せめてそういう台詞は今、胸にしっかり抱き締めているブツを離してから言ってくれる?」

「それは無理」

「・・・オマエな?」

「俺だって、どうにか出来るならどうにかしたいよっ!」


 胸にしっかりと、大切な、大切な、愛しいブツを抱き締めながら、彼は渾身の力で叫ぶ。

 勿論、冷たい声を段々と怒りに滾らせていく親友の心情が、分からないわけじゃなかった。完全に理解しているとまで厚かましいことを言う気はないが、それでも大体のところは察している。

 彼より、彼の親友の心情の方が一般的なのだし、その一般的な人間の心情くらい、彼にだって察する事は出来るのだ。

 ・・・が、察する事が出来てもどうにもならないのが、悲しい現実だった。嘆いて、相手からの怒りを浴びて、それでどうにかなるくらいなら、最初からどうにか出来ているのだ。それがどうにも出来ないから今があるわけで、つまりは全てが堂々巡りになっていたりするわけで。


 無間地獄、とはこの事を言うのだろうか?


 地獄・・・、そう、地獄だった。

 きっと、地獄だった。

 ただ、普通の地獄と違う点があるとするならば、それは・・・、彼の好みがバッチリ合ってしまっている、という点か。

 抜け出すことが出来ないほど魅力的なその場にいることは、ある意味、とても幸せで、抜け出す術を見つけることが出来ないでいるのは、限りなく地獄だった。

 ここを抜け出ない限り、彼に展望のある未来は望めないというのに。


「・・・俺だって、彼女とか作って、学生生活をリアルにエンジョイしてみたいよ。せっかく、高校生になるんだし」

「・・・止めりゃいいじゃん、それ。そうしたら、高校生活くらいエンジョイ出来るって」

「・・・これを止めるってことは、今の俺にとっては廃人となって、人間を止めるって事と同義なんだけど」

「・・・それが止められない所為で、半分くらい人間止めかけている奴が何言ってるんだよ?」

「・・・つまり今は半分は人間だってことだよ。これを止めたら、もう半分が死んでマジ、アウトだわー」

「・・・なんで急に、オネェ言葉?」


 呆れたような親友の声が、耳に入らなかったわけじゃない。耳には入っていたし、脳には響き渡っていたし、胸には突き刺さっていた。ただ、そこまでの力がある声、言葉なのに、彼の根底を成す部分に影響を与える事までは出来なかった、というだけで。

 そしてその根底は、彼自身ですら手が出せないほど遠く深い、というだけで。

 溜息を、一つ。一つでは全く足りず、二つ、三つ、四つと零す。同じタイミングで、向かいからも溜息が漏れていたし、それが彼には彼自身の所為だとは分かってはいたけれど、受け止める術はなかった。むしろ、彼自身が零した溜息を是非、向かいに受け止めてほしいくらいなのだから。

 ただ、それがどれだけ身勝手な願いなのかぐらいは分かっていたので、口には出さない。代わりに、彼はまた一つ、溜息を重ねてからそっと目を閉じ、瞼の裏に映る幸福と、瞼の外に存在する不幸を思い、静かな、静かな沈黙を広げて・・・、胸の内だけで、小さな呟きを零す。もう幾度となく零され、ひたすら無為に消えていくだけの呟きを。


 ──せめて男らしく、美少女系とかに走れてれば、こんなに淋しい独走しなくても済んだのに!

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