OP
もう、どうしようもない事だった。
ただ、どうにかするべき事でもあった。
「・・・俺だってさ、どうにか出来るならどうにかしたいよ。もし解決方法があるなら、是非、試してみたいぐらいなんだって。でも、有効な手段がどこにもないっていうか、そもそもこれって、どうにか出来る類いの事なのかって疑問もあるしさ」
「ってか、一応、どうにかしたいって希望だけでもあるんだ?」
「そりゃ、あるって! これの所為で俺の人生、振り回されっ放しだろ?」
「・・・キヨの人生っていうより、僕の人生の方が振り回されている気がするんだけど?」
「気の所為だ。気を強く持て。全てはそこから始まるから」
「・・・この間、録画の手伝いさせられてた気がするんだけど。つーか、他にも色々あった気がするし、今後もある気がするんだけど」
「・・・俺だって、どうにか出来るならどうにかしたいよ」
「あぁ、そう・・・、それならさ、せめてそういう台詞は今、胸にしっかり抱き締めているブツを離してから言ってくれる?」
「それは無理」
「・・・オマエな?」
「俺だって、どうにか出来るならどうにかしたいよっ!」
胸にしっかりと、大切な、大切な、愛しいブツを抱き締めながら、彼は渾身の力で叫ぶ。
勿論、冷たい声を段々と怒りに滾らせていく親友の心情が、分からないわけじゃなかった。完全に理解しているとまで厚かましいことを言う気はないが、それでも大体のところは察している。
彼より、彼の親友の心情の方が一般的なのだし、その一般的な人間の心情くらい、彼にだって察する事は出来るのだ。
・・・が、察する事が出来てもどうにもならないのが、悲しい現実だった。嘆いて、相手からの怒りを浴びて、それでどうにかなるくらいなら、最初からどうにか出来ているのだ。それがどうにも出来ないから今があるわけで、つまりは全てが堂々巡りになっていたりするわけで。
無間地獄、とはこの事を言うのだろうか?
地獄・・・、そう、地獄だった。
きっと、地獄だった。
ただ、普通の地獄と違う点があるとするならば、それは・・・、彼の好みがバッチリ合ってしまっている、という点か。
抜け出すことが出来ないほど魅力的なその場にいることは、ある意味、とても幸せで、抜け出す術を見つけることが出来ないでいるのは、限りなく地獄だった。
ここを抜け出ない限り、彼に展望のある未来は望めないというのに。
「・・・俺だって、彼女とか作って、学生生活をリアルにエンジョイしてみたいよ。せっかく、高校生になるんだし」
「・・・止めりゃいいじゃん、それ。そうしたら、高校生活くらいエンジョイ出来るって」
「・・・これを止めるってことは、今の俺にとっては廃人となって、人間を止めるって事と同義なんだけど」
「・・・それが止められない所為で、半分くらい人間止めかけている奴が何言ってるんだよ?」
「・・・つまり今は半分は人間だってことだよ。これを止めたら、もう半分が死んでマジ、アウトだわー」
「・・・なんで急に、オネェ言葉?」
呆れたような親友の声が、耳に入らなかったわけじゃない。耳には入っていたし、脳には響き渡っていたし、胸には突き刺さっていた。ただ、そこまでの力がある声、言葉なのに、彼の根底を成す部分に影響を与える事までは出来なかった、というだけで。
そしてその根底は、彼自身ですら手が出せないほど遠く深い、というだけで。
溜息を、一つ。一つでは全く足りず、二つ、三つ、四つと零す。同じタイミングで、向かいからも溜息が漏れていたし、それが彼には彼自身の所為だとは分かってはいたけれど、受け止める術はなかった。むしろ、彼自身が零した溜息を是非、向かいに受け止めてほしいくらいなのだから。
ただ、それがどれだけ身勝手な願いなのかぐらいは分かっていたので、口には出さない。代わりに、彼はまた一つ、溜息を重ねてからそっと目を閉じ、瞼の裏に映る幸福と、瞼の外に存在する不幸を思い、静かな、静かな沈黙を広げて・・・、胸の内だけで、小さな呟きを零す。もう幾度となく零され、ひたすら無為に消えていくだけの呟きを。
──せめて男らしく、美少女系とかに走れてれば、こんなに淋しい独走しなくても済んだのに!