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そうしてお姫様は、

人形が見た夢の果て

作者: 東亭和子

 出過ぎた願いだったのでしょうか?

 こんなことを願った罰が当たったのでしょうか?

 今になってはもう分かりません。

 ただ、私が願ったことは一つでした。

 それ以外考えたことがなかったのです。


 私はとある人形師によって作られました。

 ただの自動人形でした。

 ガラスケースに収まり、買われるのを待つ日々でした。

 いつから私に意識が生まれたのか分かりません。

 気づいたら私は人形として座っていました。

 「おや、これは珍しい自動人形だね」

 「ええ、自信作です。手にとって見ますか?とても美しく動きますよ」

 「いや、いいよ。すぐに買うから」

 「ありがとうございます」

 そうして私は男に買われたのでした。


 「お前の願いを叶えてあげようか?」

 男は私を膝に乗せて笑いました。

 「お前の願いを知っているよ。但し、時間制限がある。

 1時間だけ、お前を人間にしてあげよう」

 私は男の言葉に驚き、喜びました。

 叶う事のないと思っていたことが現実になるのです。

 「お前の強い願いに免じて、ちょっとだけ魔法をかけてあげるよ」

 男が私の頭を撫でると私の体は緩やかに動く人間に変わっていました。


 私は店の前に来ました。

 ドアの向こうに人形師がいるのが見えます。

 静かにドアを開けると、にっこりと笑った人形師が近寄ってきました。

 「こんにちは、お嬢さん。どんな人形をお求めですか?」

 「あら、お客様?」

 人形師の後ろから美しい女の人が現れました。

 「無理をしてはいけないよ」

 人形師が慌てて女の人の傍にいきました。

 女の人の腹部は大きく膨れていました。

 「大丈夫よ。これくらい。心配性なんだから」

 二人は幸せそうに笑っていました。

 

 私はたまらなくなり、店を飛び出しました。

 叶わぬ恋に身が千切れそうでした。

 「そんなに泣いてはいけないよ。壊れてしまう」

 いつの間にか男が傍に来ていました。

 私の愚かな願いは叶うことはありませんでした。

 「お前は可愛い人形だね。人に恋をするなんて。

 でもこれで満足しただろう?」

 男が頭を撫でると私はまた人形に戻っていました。

 「大丈夫、お前の事は大切にするよ。だから忘れておしまい」

 男の声が甘くささやきました。

 涙で錆び付いた私の体は、もう二度と動くことはありませんでした。 


そうして私は絶望を知った。

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