第6話 反撃のとき
「あ〜ん、キリがない〜!」
室内という狭い空間、逃げ惑う生徒も多数ということもあり、ミトラは自身の力を充分には発揮できていなかった。
(本気出したら生徒とかお偉いさんも巻き込んじゃうかもしれないし、体育館の屋根吹き飛んじゃうし……もう〜!!)
◆ ◆ ◆
カイゼは目の前で起きたことを冷静に分析していた。
「ミトラ先輩が一瞬で……それに、なんて言った……?魔装顕現じゃない……セス……アクセス……?」
恐らくヴィヴィアが言っていた次の段階とやらだろうと推察し、カイゼは頭を切り替えた。
(それよりも今は……アイツらを、倒さないと。)
「魔装顕現」
漆黒の刀を手にし、影霊めがけて踏み込む。
すれ違いざまに刀を振り抜き、数体の影霊の首を顔色ひとつ変えずに斬り落とした。
ふと、前を見ると一人の生徒が背後を襲われそうになっていた。影霊の腕は今にも振り下ろされそうだ。
「ここからじゃ届か……いや」
(届かせる……)
「《アクセル》!」
速度を上げた踏み込みでなんとか刀の届く範囲に影霊を捉えた。
斬り上げで振り下ろされようとしていた腕を切り落とし、左手を影霊の額に添え、魔法を唱える。
「撃ち抜け、魔弾よ。《シャドウ・バレット》」
カイゼの手から撃ち出された無数の弾が影霊を襲う。
「あっ、ありがとう、新入生くん」
カイゼが助けた生徒はミトラだった。カイゼは安堵と気まずさが混ざったような表情を見せた。
「なんだ……先輩なら助けに入る必要なかったですね」
「そんなことないよ~? 私もか弱い乙女だよ」
どの口が、と言いそうになるのをカイゼはぐっと堪えた。
「意外と周りが見えなくなるタイプなんだ?」
「……必死だったもんで」
「そっかそっか。せっかく合流したことだし共闘しよっか♡」
「語尾にハートマークつけないでください」
いつの間にやら、2人は10数体の影霊に囲まれていた。しかしミトラはそれに臆することはなく、刀を構え直して獰猛な笑みを浮かべた。
「私が斬り漏らした分、よろしくね」
「っ……はい」
カイゼが返事をする前に走り出し、前方の数体の影霊を斬り、一瞬で葬った。
その後、影霊を踏み台にして高く跳躍し、魔法を唱え始めた。
「雷よ、集いて魔を討つ弓となれ」
ミトラの手に集まった雷が弓を象る。
「其は貫き穿つ、閃光。届け、彼方まで」
数本の雷の矢を持ち、弓を引き絞る。
「《螺閃》」
そうして放たれた雷の矢は影霊の心臓を寸分の狂いなく、貫いた。
「あ、ごめ〜ん新入生くん。2体残っちゃった〜」
「ええ、分かってます!……あの人絶対わざと残したなぁ……」
カイゼは独りごちながらも、刀を抜き、影霊に斬りかかった。
◆ ◆ ◆
「だぁらぁぁっ!」
グレアは魔力を乗せた拳を影霊に向かって思い切り振り抜いた。
それを食らった影霊は跡形もなく消し飛ぶ。
一つ、また一つと拳を繰り出して影霊を屠っていく。
エリカはそれとは対照的な戦い方だった。
前方の影霊の心臓に短剣を正確に突き刺し、遠く後方にいる影霊に狙いを定め、魔法を唱える。
「吹け、一陣の風。《エア・スライド》」
風が一瞬吹き抜け、影霊の弱点部のみを薙いだ。
丁寧に、そして的確に。弱点だけを突いて舞うように戦っていた。
近くにいた影霊を大方倒し終え、一息つく。
「そんな派手に魔力使ってたら魔力切れ起こすわよ?」
「問題ねえ、魔力総量だけは自信あんだ。魔法はまともに使えねえけどな」
胸を張るグレアにエリカは呆れた顔になる。
「アンタ、ホントそれでよくここ入れたわね……」
「うるせー。俺も驚いてんだ」
突如、エリカの後ろに影霊が1体姿を現す。
「!! おい、ツン子後ろ!!」
「私の名前はエリカだっての!」
先程と同じようにエリカは振り向きながら弱点である心臓目掛けて短剣を振り下ろした。
が、それは鎧に阻まれ心臓には至らなかった。
「な……何よ、コイツ……!? さっきのとは違……」
「離れろ!ツン子!」
想定外の事態にエリカは身動きが取れなかった。
影霊の手に握られていた剣が容赦なくエリカ目掛けて振り下ろされる。
「っ……!」
エリカは恐怖のあまり目を瞑った。
が、剣が届くことはなく。
代わりにキンッ、と金属同士がぶつかる音が聞こえた。
エリカが目を開けるとグレアが間に割って入り、鍔迫り合っていた。
「にゃろう……あっぶねぇ……なあ!」
左手の拳でなんとか剣を弾き返す。
「おらぁ!!」
そしてすかさず右の拳で体を殴りつけた。
不安定な体制だったため鎧を壊すまでには至らなかったが、自慢の馬鹿力で無理やり吹き飛ばし、距離を取ることができた。
「ごめんなさい……また、気が動転しちゃって……」
「ああ、なんとかしないとな、それ。それより」
「……ええ、アイツね」
吹き飛ばした影霊を見ると、今にも立ち上がりそうだった。
「アイツは鎧と武器持っちゃいるがそれ以外はさっきのと変わんねえ。いいか、協力して倒すぞ」
「分かったわ」
「……なんだ、エラい素直だな」
入学式の時との変わりようにグレアは少々気味悪がっていた。
「……2回も助けられちゃったし……なにより、戦闘に関してはアンタの方が知ってると思うから」
「なら、これからもそんくらい素直で頼むわ」
「イヤよ、今だけ。すぐに戦闘面でも追い抜いてやるんだから」
どこまでも勝気なエリカに、グレアは肩をすくめた。
「俺が前に出てアイツの心臓部の鎧にヒビを入れる。そのヒビ目掛けて一番貫通力のある魔法をかましてくれ。出来るだろ、ツン子の正確さなら。」
「ツン子じゃないっての……ねえ、アンタの拳じゃあの鎧は砕けないわけ?」
「全力で殴れれば多分心臓もろともなんだがな、そんな力溜めてる間にやられちまうからよ」
「……一応壊すことはできるのね」
その規格外ぶりに驚き半分呆れ半分の表情を見せるエリカ。
「じゃ、今度こそ倒すぞ」
「ええ」
完全に体制を立て直した影霊がこちらに向かってくる。グレアもそれに応じるように走り出した。エリカは「気をつけて」と小声で呟いたが、周囲の音に掻き消され、グレアの耳には届かなかった。