第5話 急襲
「ハイそこ!元気なのはよろしいが次はこの私、風紀委員長のお話だからお静かにね!」
グレアらはいつの間にか声が大きくなっていたようで黄髪の生徒から注意を受けてしまい、今度こそ2人は大人しくなった。
「よろしい。……コホン。えー、改めまして風紀委員長兼生徒会副会長のミトラ=オルクトレです。生徒会長が優秀すぎて副会長やることないので風紀委員長も兼任してま〜す。」
相変わらずの気の抜ける声音で自己紹介するミトラ。それを見てティフォンは頭を抱えた。
「言いたいことはぜーんぶ会長に言われちゃったんで、私の言いたいことは一つだけです!」
びしっ、と自身の人差し指を突き出し高らかに宣言する。
「授業外では学院の許可なく魔装、魔法の使用は厳禁!もし使ったら私が直々にしばいちゃうからね〜。あ、訓練場はOKで〜す。以上、風紀委員長のお話でした〜。では次は来賓の方に……」
「イヤぁ!」
突如、女生徒の悲鳴と椅子がいくつか倒れる音が体育館に響いた。そこにいた全員が音のした方向に目を向ける。
そこには人型の影のようなモノが蠢いていた。
「アレは……影霊…………!!」
影霊。魔力が魔界の瘴気に当てられて形を成したモノ。人型や獣型など形状は多様である。
「なんで影霊が出るのよ!?」
「結界はどうした!?作動してたんじゃないのか!?」
会場は完全にパニックに陥っていた。
街全体に魔除けの結界が張られていて本来ならば影霊は学院どころか街にすら近づくことが出来ないはずだからである。
そこにティフォンの声が響く。
「皆さん、落ち着いて避難してください!大丈夫です!」
と、突然雷が轟くような音が一瞬聞こえた。その直後、一匹の影霊が奇声を上げて崩れる。代わりにそこに立っていたのは雷を纏った刀を持ったミトラだった。
「私がいるからね!」
雷のような速度で一瞬で間合いを詰める。
首元めがけて軽く刀を振り抜き、次の瞬間1体、また1体と影霊の首を跳ね飛ばす。
「さ、どんどんやっちゃうよ!」
ミトラは笑顔で再び雷を纏い、影霊に突撃する。
「5組!私たちも加勢するわよ!」
レザは、周りの状況についていけずにただ立っていた5組の生徒たちに大声で檄を飛ばす。
「あなた達には戦う力があるでしょう!大丈夫よ、私がいるんだから死なせはしないわ!」
自身の拳銃型の魔装を高く掲げ、それに背中を押され、生徒たちはそれぞれの魔装を顕現させて影霊達に殺到する。
「最低二人でチームを組んで!絶対に一人で行動しないように!魔法に自信があるならそっちメインで戦っても構わないわ!」
「あ、あの!」
と、不安げにレザに話しかける生徒が一人。
「私、これでどうしたら……」
アイネだった。自分の能力が分からず困惑していたのである。
「そうね……眼だけに集中して、見ることだけに。何か見えてこない?」
「はい…………えーっと、5組のみんなの魔装と体の中心?くらいにぐるぐる~って渦が見えます。あ、先生にも。」
「魔装に……いや、魔力に反応してるのかしら。だとするとあなたの能力は……『魔力感知』、かな。」
そのとき、アイネの右手に何かを形作るように光が収束していき、光が消えるとそこにはレザと同じ魔装が握られていた。
「え?」
「なっ!?」
レザとアイネは驚愕の声を上げた。
「まさか……」
「こ、これ……先生と同じ……?」
「アイネさん、その眼の能力は『複製』よ。恐らく目に写る範囲の魔装を複製できる。あとの詳しい話は敵を追い払ってから、ね!」
「は、はい!」
構える二人。そこに一人の女生徒が話しかけてきた。
「私もご一緒します。なんか出るタイミング失っちゃって。」
「あ、私の後ろに座ってた子!」
「うん、ノア=フォンスフィア。魔装は杖でした。」
少し恥ずかしそうに魔装を見せた後、わざわざお辞儀までした。顔を上げるとき目の下まで伸びた薄紫の髪が
揺れ、綺麗な銀色の瞳が少しだけ見えた。
「それじゃあ、先生が前衛をやるわ。二人は後ろからサポートをお願いしてもいいかしら。」
「「はい!」」
「よし!んじゃ行くわよ!」
レザを先頭にアイネとノアも影霊へ向かっていく。
エリカは完全にパニックに陥っていた。エリカはいわゆる箱入り娘で、影霊を倒したことは勿論のこと、見たことすらなかったのである。影霊を目の当たりにし、足は震えて完全に動けなくなっていた。
「おい、エリナ?いや、違うな、エリオ……エリコ!……あー、なんでもいいや、おい、ツン子!」
「……っ…………」
グレアが大声で呼びかけるも、エリカにはまるで聞こえていないようだ。グレアは盛大に溜め息を一つ吐いてからエリカの両肩をバンと叩いた。
「おい、ツン子!さっきの威勢はどこいきやがった!」
「……あ、グレア……」
「大丈夫だ。あの状態の奴らは動きは鈍いし、心臓突くか、首すっぱ抜きゃ一撃で倒せる。」
「……詳しいのね」
グレアに励まされ、エリカは少しだけ落ち着きを取り戻した。
「昔、姉にちょこちょこ付き合わされてな。薬の材料が足りねぇ、っつってよ。」
「…そう。」
「まあ、いざとなりゃ俺が全員ぶっ飛ばすからよ。安心しろ、ツン子よ。」
ツン子という単語にエリカはピクッと眉を吊り上げる。
「心強いわ。……ところで、ツン子って誰のことかしら?」
「そりゃ、お前よ。ツンツンツンツンしてるからよぉ。」
「……へ、へぇ。後で覚えときなさいよ……!」
「おー、怖。」
エリカは殴りたい衝動を頬を引き攣らせながらもグッと堪えた。
「「魔装顕現」」
グレアはメリケンサック、エリカは短刀を手にする。
「行くぜ」
「いつでもどうぞ」
2人は近くにいる影霊に迫っていった。
――影霊は床元から溢れるように湧き続け、未だ増え続けていた。