第4話 合わない2人
4人は入学式の会場である体育館にギリギリで間に合った。カイゼは新入生代表の挨拶をしなきゃいけないと言いステージに上がっていき、残った3人はそれぞれの席についた。
アイネの右隣に座っていたレザが嬉しそうに話しかける。
「魔装、ちゃんとあったんだってね。いやぁ、よかったわ~」
「はい!」
「まさか目だったとはね……盲点だったわ。」
アイネの左隣にいた女生徒、イルル=ノルンも話に入ってきた。
「仲間じゃん!アタシもね、武器じゃなかったの。あ、アタシ、イルルね。」
イルルはピンクの髪を手櫛で整えながらもう片方の手で何かを持つ仕草をしてみせる。アイネは分からず首を傾げる。
「マイク!もうさ、どうやって戦ったらいいのって話だよね〜」
そう言う割には困っている様子はあまりなく、むしろ嬉しそうだった。
「でもなんだか嬉しそうだね」
「ん〜、歌うのは好きだからね。」
「そうなんだ。あ、じゃあ今度聞かせてよ。」
「そんな今度と言わず、今聞かせてアゲル。」
と、笑顔を見せた。イルルがすぅっ、と息を吸ったところでレザが横やりを入れる。
「2人とも。盛り上がってるところ悪いんだけどそろそろ式、始まるわよ。」
2人の会話に水を差すのは申しわけないと思ったが、教師である以上は注意せざるを得なかった。
「静かに。」
凛とした声が体育館内に響き渡る。壇上を見ると2人の生徒が立っていた。1人は肩までの茶髪で眼鏡をかけていて非常に生真面目そうな印象を受けた。もう1人は黄髪のおさげを揺らしながら楽しそうに立っていた。
「これより入学式を始めさせていただきます。」
茶髪の生徒が先ほどと同様に凛とした声で開会を宣言する。と、いきなり黄髪の生徒が横からマイクをひったくる。
「本当はまず学院長のお話なんだけど急病でお休み、というわけで生徒会長のお話~。生徒会長、どぞ~。」
そこまで言うとマイクを元の位置に戻し、引き下がる。生徒会長は何か言いたそうにしたが、溜め息を一つだけつき、生徒たちの方を向いた。
「新入生の皆さん、入学おめでとうございます。生徒会長のティフォン=ベルアートです。皆さんはこの学院に入学できたということは優秀な魔装使い(ウィザード)、の卵です。そしてこれから魔装という新しい力を手にします。」
5組の生徒らが一斉にレザを見た。
「いやぁ、ちょっと先走っちゃったわ。あはは」
あまり悪びれる様子もないレザ。
ティフォンはそれに気づくことなく、話し続ける。
「それはとても強大な力です。ですから、慢心してはいけません。卵のままではその力に振り回されることでしょう。友人らと切磋琢磨し、自らの殻を破れるように、そして一人前の魔装使いとなれるように。お互い頑張りましょう。」
それ以降はしばらく他愛もない話が続いた。
「ぐぅ……ぐぉっ……がっ……んごっ……」
「………………この……っ」
ティフォンが話しているよりずっと前、自分の席についたときからグレアはいびきをかいて居眠りをしていた。隣にいたエリカが苛つくのも当然といえる。
「……いい加減起きなさいってのっ!」
エリカは可能な限り小さい声とデコピンでグレアを起こす。
ぺちっ、と軽い音のあとに少し遅れてグレアが目を覚ました。
「……ん?……ふぁ」
「あのねぇ、寝るのは構わないけどいびき止めなさいよ!」
「……あぁ、すまねえ……気をつけるわ」
「ふんっ、なんであなたみたいな人が魔術学院なんかに入学できたのかしら」
「……あァ?」
「なによ?」
これには寝起きなのもあり、さすがのグレアも苛ついたようで一触即発の空気になる。
「はいはいお2人さん、その辺にしときなって。」
そこにグレアの隣に座っていた男子生徒、ケディが割って入ってきて二人を宥める。
「そっちの彼女、アンタはいくらなんでも言い過ぎだ。そしてお前さんはすぐカッとしなさんな。なっ?」
口調は優しいがその真っ直ぐな瞳に少し気圧された。
「……けっ、悪かったよ。」
「……ふん、こちらこそ。」
勢いをそがれ、2人は引き下がった。お互い納得はしていなかったようだが。
ケディは安堵し、ため息を一つ漏らした。
「悪いな、いきなり横から入って。」
「や、助かったぜ、正直。」
「そりゃよかった。」
グレアもエリカも強気な性格だ。あのままだったら確実に喧嘩になっていただろう。
「それにしても、アンタ面白いな。遅刻はするわ、端っから居眠りするわで。肝座りすぎだろ。」
「それ、褒めてるのか?貶してるのか?」
「……褒めてるよ」
「おい、なぜ目を逸らす。」
冗談だ、とケディは屈託のない笑顔を見せ、再び口を開く。
「面白いってのは本当だぜ。魔術学院なんてもっとお堅い人らばっかだと思ってたからさ。ケディ=ノウヴァーンだ。ま、仲良くしてくれや、グレア。」
「おう」
お互いに軽く会釈しあった後、エリカにも話しかけた。
「そっちのお嬢さんも、よろしくな。」
「……私はどちらかと言うと『お堅い人』だと思うけど。」
先ほどの発言を聞いていたようで、エリカの言葉には若干棘があった。しかしケディは心外だといった表情をした。
「ありゃお堅い人ばっかだとつまらないって意味であって、別に嫌いってワケじゃあないからな?」
「……そ、よろしく。」
一応は納得した様子でエリカは挨拶を返した。グレアはそんなエリカを見て、可愛くねぇヤツと言おうとしたが、間違いなくまた言い合いになってしまうと思ったのでギリギリで踏みとどまった。
「……ツンツンしちゃってよぉ」
が、思わずぼやいてしまった。しまった、とグレアは思ったがもう遅かった。
「誰がツンツンしてるってぇ?」
「今のなし!言う気はなかったんだ!」
謝りつつ、ちらっとグレアがエリカの顔を見ると、ものすごい形相をして睨んでいた。
そんな2人のやりとりを眺めながらケディはやれやれと頭を抱えた。
「……おたくら、もしかして本当はすごい仲いいんじゃないの?」
「「よくねぇぇ!(なぁい!)」」
2人の息ピッタリの叫び声が体育館内に響いた。