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隣の不良魔法使い  作者: 空枝るん
第一章
2/8

第2話 魔法と魔装

 2人が学院内に入って少し走った後、学院のチャイムが鳴りだした。


「なぁ、今のチャイムってよぉ……」

「うん、時間的に朝のHR開始のチャイムだと思う」

「もうちょい早く走ればギリ間に合うかもしれねえ。行けそうか?」


 アイネは少し考えたあと、何か思いついたようで嬉しそうに口を開く。


「魔法使って行くっていうのはどうかな?」

「……あぁ、その手があったか!」


 グレアは手をポンと叩き、アイネの考えに乗ることにした。急ぎたいこのタイミングで使うとしたら恐らく自己強化の魔法だろう。幸い、グレアは自己強化の魔法なら使うことができる。


「この場面で使うって言ったら1つしかねえな」

「もちろん。それじゃ、せーのっで行こっか」

「おうよ」

「せーのっ」


 アイネの掛け声に合わせ、2人は同時に魔法を唱える。


「「アクセル」」


 瞬間、2人の走る速度が急激に加速し、階段もたった一度の跳躍だけで登り切ってしまった。しかし1年生の教室は3階にあるため、まだ階段を登る必要があった。


――《アクセル》。一時的に自身の脚力や反射速度を上げる基本的な自己強化魔法である。


 グレアはもう何度か跳び、1年生の教室のある階に着いた。少し遅れアイネも到着する。


「グレアくん早いよぉ…」

「悪い悪い。さ、あとは教室に行……あ」

「? どうしたの?」

「俺は5組なんだが……アイネは……何組だ?」


 グレアはいつの間にかアイネが自分と同じクラスである前提で話をしていたことに気づく。


(同じクラスであれ同じクラスであれ同じクラスであれ同じクラスであれ同じクラスであれ……!)


 グレアは心の中で全力で祈りながらアイネの言葉を待った。


「奇遇だね、私も5組!」

「おお、そうか一緒か。んじゃ、行こうぜ」


(うおおおおおおおおやったぜええええええ!!)


 アイネにバレないよう平常心を保ってるふりをしつつ、内心では滅茶苦茶に喜ぶグレアだった。


「グレアくん大丈夫? ニヤけてるよ?」

「なっ!?」


 そんなやり取りをしてるうちに、教室はもう目の前だった。グレアは勢い良く引き戸を開け、


「遅れましたー」

「ね、寝坊しました〜…」


グレアは堂々と、アイネは申し訳なさそうに教室に入る。教壇を見ると朗らかそうな女性の先生が立っている。


「ちょっとは申し訳なさそうにしなさいよ……。まあいいや、明日から遅刻しないように。さ、空いてる席について」


 ちょうど近くに空いてる席が並んで2つあったので2人はそこに座った。先生は座ったのを確認した後、一拍置いて話し始めた。


「今日から君たちの担任をさせてもらいます、レザ=ランシュラッタです。実は教師になったばかりで色々至らぬところはあるけどよろしくね。」


 お辞儀に一拍遅れて長い黒のポニーテールが揺れた。教師になったばかりと言うには落ち着いていて、堂々としていた。


「実はこのクラスは今年度から新しく設立されたクラスなのよ。魔法科とも魔装科とも違う、総合科と言ってね。魔法と魔装、どちらも満遍なく学ぶクラス。……と、魔法と魔装が何かくらい分かるよね、グレア=スタンドーレ君?」


 レザは出来て当然といった表情でグレアに問い掛けた。


「俺!? ……えーっと……そうっすねぇ、簡潔に言えば魔法はもうそのまま魔法で魔装は武器って感じですかね!」


 グレアの答えにレザはやれやれと肩を落とした。誰か他に答えてくれる人はいないかと探そうとすると教卓の前に座っていた生徒が手を上げているのを見つけた。


「はい、エリカ=スヴァンディさん。」


 透き通った綺麗な銀髪のおさげを揺らしながらエリカはスッと立ち上がり、気の強そうな赤い瞳をレザの方に向けながら口を開く。


「魔法は自分の魔力を使い、発火などの現象を起こすこと。魔装は自分の魔力を武器として表出させたものを指し、これを魔装顕現(アウェイクン)といいます。また、魔装は個人が武器として強くイメージしているもの、剣や銃などが基本的には表出します。例外もあるようですが。」


 一通り言い終えたエリカはグレアの方を小馬鹿にした表情でチラッと見、席についた。が、グレアは馬鹿にされたことに気づかずに素直に感心していた。


「その通り。うわ、あまり時間がないわ。あとのことは追々話すとして、魔装顕現(アウェイクン)できるようにしてからさっさと入学式に向かうとしますか。」

「あの……先生、俺やれたことないんですけど……」


 アイネの前に座っていた短髪で黒髪の地味めな男子生徒、カイゼがまだ眠そうな青い目で気怠そうに言った。それに続き、周囲もざわつき始めた。


「安心して、カイゼ=カゼルカ君。多分君だけじゃなくて、全員顕現できたことはないハズよ。君たちは生まれた時、魔装に使う魔力の回路を制限されるの。魔力の回路も自我も安定してない幼少期にうっかり顕現させちゃうと何が起こるか分からないからね。ではいつその制限が解除されるか、それはね……なんと……」


 ニヤニヤともったいぶるレザにグレアの前にいたショートの橙色の髪の女子生徒、ハレイが真面目な声で野次を飛ばす。


「センセ、時間ないんでしょ〜」

「あー、そうだったそうだった!えっとね、この学院の校門をくぐった時に君たちのその制限は解除されるの。だからもう魔装を出せるはずよ。やり方はとても簡単。魔装顕現(アウェイクン)、って言うだけよ。…………あれ、みんなどうしたの。もしかして信じてない?こんなところで嘘つくわけないでしょうもう……分かった、私が先に」


 と、レザが手本を見せようとしたとき


「――魔装顕現(アウェイクン)


 カイゼだった。直後、彼の手元に刀身、鍔、柄の全てが漆黒の刀が淡い光とともに現れた。


「……お、出た」


 カイゼはまさか本当に出るとは思ってなかった。欲していた力がこれほど簡単に手に入るとは考えていなかった。


「これで……俺は……」


 周囲の喧騒にその呟きはかき消され、誰かの耳に入ることはなかった。

 一方、グレアは自分の魔装に納得がいってないらしくブツブツ文句を言っていた。


「今どきメリケンサックはねえだろ……」

「そうかぁ?アタシはかっこいいと思うぜ。」


 話しかけてきたのはハレイだった。そういう彼女の手にはガントレットが装着されていた。それを見たグレアはため息をつく。


「せめてそれぐらい存在感あるならよかったんだがな…」

「でもそれがアンタにとって一番武器だって思ってるものなんだろ。格闘技でもやってたワケ?」

「んー、少しだけな。」

「おお、アタシは空手やってたんだ。ハレイ=ソーライルってんだ。良かったら今度手合わせしてくれよ、グレア。」


 そう言ってハレイは朗らかな笑顔を向け、手をさし出す。グレアは、気が向いたらなと言って握り返した。


「アイネの魔装はどんなのだったんだ?」


 グレアは見るとアイネの手には魔装はなかった。アイネは声を出すのもやっと、と言った様子で口を開く。


「…………の」


「「……?」」


 グレアとハレイは顔を見合わせ、首を傾げる。おかしな様子に気づいたのかカイゼも振り向いた。アイネはもう一度声を振り絞る。


「……魔装が…………出ないの」

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