第1話 バカ、校門を吹き飛ばす
「……さて、どうする……」
グレア=スタンドーレは悩んでいた。寝坊して走ってきたものの、学院の校門が閉じられていたからである。今日は学院の入学式。来賓も多く来るのだからセキュリティが万全なのは当然だった。
「魔法で結界まで張られてやがる……くそ、初日に遅刻なんてしちまったら完全に不良じゃねぇか…!」
短めの金髪、190cmはあるであろう身長、そして16歳にしては鍛えられた身体。容姿だけを見るならば彼は完全に不良そのものだった。しかし彼は不良ではない。
「待てよ?魔法で開ければいいんじゃねぇか?あ、そーれ開けゴマ!」
もちろん校門はピクリともしない。彼は単にバカなだけである。
「……はぁ……はぁ……えぇ!?なんで校門閉まってるの!?」
グレアの背後から同年代くらいの女の子の声が聞こえた。息が切れ切れだ、彼女も走ってきたのだろう。
「あんたも遅刻か?見ての通りこっからは入れな……い……」
言いつつグレアは振り返り彼女を見て、目を奪われた。制服のリボンの色は赤でどうやら同じ一年生のようだ。背丈は150cm少々で、肩ほどの長さの栗色の髪と宝石のような碧色のくりっとした瞳。しっとり汗をかいていて艶かしさもあった。
(一目惚れだ……どうやら俺は一目惚れしちまったようだ)
「そっかぁ、遅刻したんだからそりゃ閉まってるよね……諦めて別の入り口を探すしかないか……」
彼女は肩を落とし、諦めたような声音でそう言った。そんな彼女を見たグレアは少しでもいいところを見せようと決め、彼女に宣言する。
「その必要はないぜ。今から俺がここを開けてやるからよ」
「えっ……ほんと?すごい頑丈そうだけど……」
彼女は期待半分疑惑半分といった感じの視線を向けた。門だけでも3メートル以上あり重量も相当のものだろう。更に魔法によって頑丈にされた上に結界も張られている。それを自信満々に開けると言っているのだから、多少は期待もしてしまうものだ。
「問題ねぇ。いくぜ!後ろに下がってな!」
そう言うと腰を少し落とし、右の拳にありったけの魔力を注ぎ込む。昔からグレアは遺伝なのか何なのか魔力総量だけはとてつもなかった。しかし肝心の魔法はというとからっきしダメで初歩的な攻撃魔法ですら発動させることが出来なかった。出来たのは自己強化系の魔法と、魔力を拳に込めて放つこと――
「開け!!!!!!!!!ゴマァ!!!!!!」
グレアは魔力を纏った右の拳を思い切り振り抜く。瞬間、爆弾でも投げたのかと勘違いしてしまうほどの轟音が鳴り響き、遥か前方に吹き飛んだ門がガシャンと音を立てて崩れ落ちた。
「よし」
「すごい……けどこれ開けるじゃなくてブチ破るって言った方が正しい気が……」
「細かいことは気にしちゃいけねぇ。行こうぜ、ええと……」
「あ、私ねアイネって言うの。アイネ=ソフィーネ。よろしくね」
「俺はグレア=スタンドーレだ。よろしくな、アイネ」
(アイネちゃん……くぁ~!名前もめちゃくちゃ可愛いじゃねぇか!)
お互いに自己紹介を済ませた二人は急ぎ足で教室へと向かうのだった。