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【番外編5】どんな姿をしていても

 ベアトリーチェを連れて、少し遠くの街まで足を伸ばす。

 現在この交易の街は、ハロウィンで盛り上がっていた。


 ずっと怪我で家に引きこもりっぱなしのベアトリーチェをどこに連れて行きたい。

 どこかいい場所はないかとコーネルに相談したら、ここなんていいんじゃないかと教えてもらったのだ。


 仮装をしている人たちが多いという点ではニホンのハロウィンと似てるけれど、別にモンスターの格好と決まっているわけではないようだった。

 特産品や渡来品で新しかったり、珍しいお菓子をつくって、それを競うお祭りとの事で。

 僕が知っているハロウィンとは少し違っていた。


 周りに溢れる珍しいものに、ベアトリーチェは目を奪われている。

 屋台はごちゃごちゃしているけれど活気があって、夕方の街に色んな形のランプに火が灯っている。

 不思議な世界に迷い込んだような気分になりながら、ベアトリーチェと歩く。


 はしゃぐベアトリーチェは、男の子の『ベネ』じゃなくて女の子の『ベアトリーチェ』の格好だ。

 眩いばかりの金色の髪に、人形師が精巧に作った理想の少女のように整った顔立ち。

 女の子の格好をしたベアトリーチェは、想像以上に可愛らしかった。


 いつも隠しているのが勿体無いと思っていた。

 生気に満ち溢れた瞳は、綺麗な空の色。

 黒髪に黒い瞳のベネも悪くはないのだけれど、やっぱり僕はベアトリーチェのこの瞳の色が好きだった。


「女の子の格好って、どうしてこんなひらひらして動きにくいのかな。機能的じゃなくて意味がないよ」

 ワンピースを着たベアトリーチェは、慣れない服がお気に召さないようだ。こんなに似合っているのに。


「意味はあるよ。ほらこんなにベアトリーチェが可愛い」

「あ、ありがと」

 リボンを直しながらそう言えば、ベアトリーチェが視線を逸らしてしまう。

 ちょっと耳が赤い。

「本当、ベアトリーチェは可愛いなぁ」

 照れてるんだとわかったら、思わずくすりと笑いが漏れた。

 

「ちょっと兄様、子供扱いしないでよ!」

「してないよ。女の子扱いしてるだけ。ほら、行こう?」

 ムキになるところがさらに愛らしい。

 手を差し出せば、まったく兄様はしかたないなぁというような態度で、ベアトリーチェがぎゅっと僕の手を握る。


「中央の広場の方で、大道芸人が芸をしてるって言ってたからそっちへ行こうか」

「兄様、それなら逆方向。そっちはさっき来た方向だよ!」

 僕の手を引いて、こっちだよと歩き出すベアトリーチェの足取りは、いつだってしっかりしていて。

 ふと出会った日の事を思い出した。


「なんで笑ってるの?」

「いやベアトリーチェに手を引かれるのって、結構好きだなって思って。最初の日もまかせてって、僕の手を引いてくれたこと思い出したんだ」

 本当は大人の僕の方が、ベアトリーチェの手を引くべきなのに。

 前を歩くベアトリーチェの後ろ姿に、妙に安心感を覚えて。大丈夫だって言われてる気がした。


 繋がれた手が温かかったな、なんてことを思い出す。

 あの日もこんな、綺麗な満月の日で。

 もう出会って一年になるんだなって思ったら、不思議な気分になった。

 

 現実世界での毎日は、色に例えるなら灰色で、同じ事の繰り返しで。

 なのにここでの日々を思い返せば、感情を伴って鮮やかに脳裏に過ぎる。

 その記憶の中心にはベアトリーチェがいて、今も僕の隣で手を握ってくれている。

 ただそれだけの事がとても特別で――幸せなことに思えた。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

 

 ベアトリーチェが別行動をしたいというので、喫茶店で待機する。

 女の子だけで周りたいところもあるんだろう。

 アクセサリーとか、そういうのにベアトリーチェは興味があったりするんだろうか。

 ふとそんな事を考えて、さっき通り沿いで綺麗なリボンを見つけたことを思い出した。


 光の加減で蝶が浮かび上がる、空色のリボン。

 ベアトリーチェの本来の瞳の色に似てるなと思って、一瞬目が行ったのだ。

 あれをプレゼントしようと歩き回って、どうにか見つけて購入する。

 男装するためにベアトリーチェは髪を短くしているのだけれど、このリボンをあげたら伸ばしてくれないかなという目論みもあった。


 ベアトリーチェのようなショートカットの女の子は、この世界で見たことがなかった。

 女の人はどんなに短くても、肩の辺りまで髪を伸ばしているのが普通らしい。

 そのため折角、可愛いベアトリーチェが、女の子の格好をしているにも関わらず、店員さんが不思議そうな顔をするのだ。

 

 すでにベアトリーチェとの待ち合わせの時間が近い。

 急いで戻ろうとしたら、買出しに行っていたのか、喫茶店の店員の服を着た女の子が歩いていくのを見つけた。

 その子の後を追いかけていくようにして喫茶店に向かえば、すでにベアトリーチェが待っていた。


「兄様ともう会えないんじゃないかとおもった」

 僕の姿を見るなり、抱きついてくるベアトリーチェは大げさだ。

 どうやら僕の姿が喫茶店になかったので、不安になったらしい。

 寂しがり屋のベアトリーチェが愛らしくて、思わず頬が緩んでしまう。


 ベアトリーチェはどうやら僕を驚かせようと、プレゼントを買いに行っていたらしい。

 出会って一年の誕生日だといわれた。

 祝ってもらえるなんて思ってもなかったから、ふいうちが嬉しくて。

 わくわくしながらプレゼントを開けたら、そこにはピンクの豚……らしき被り物があった。


 ベアトリーチェ曰く、これは猫らしい。

 鼻はつぶれてるし、結構パンチの効いた顔だちをしている。

 ドピンクで独特のセンスをした被りモノは、正直被るのに勇気がいるなぁと思ったけれど、ベアトリーチェからの贈り物という事が嬉しかった。


 空色のリボンをお返しという形でプレゼントすれば、ベアトリーチェは喜んでくれた。

 気に入ってもらえたようで、リボンを光に透かして目を輝かしている。

 そうやっていると、やっぱりベアトリーチェは女の子だ。


「ねぇベアトリーチェ、たまにはこうやって女の子の格好で出かけよう?」

「えっ、でも」

 ふいに思いついてそういえば、ベアトリーチェは戸惑ったような顔になった。


「僕がベアトリーチェとデートしたいんだ。駄目かな?」

「まぁ、兄様とだったら……いいよ?」

 お願いすれば、小さな声でベアトリーチェはそんな事を言う。

 照れてるというのがまるわかりのその態度に、くすぐったい気持ちになった。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 もうすぐ僕がここに来て二年が経つ。

 ヴィルトの誕生日で、ミサキは何をあげたらいいのか悩んでいるようだった。


 あいつなら、ミサキが何をあげても喜ぶ。

 まぁでもそれを僕の口から言うのも嫌だったので、ベアトリーチェも一緒にヴィルトへの誕生日プレゼントを買いに行くことにした。


「何をあげたら、喜んでくれるかなぁ」

 ヴィルトのために真剣に悩むミサキを見ていれば、ミサキがヴィルトに惹かれはじめているのは一目瞭然で。

 やっぱりそれはちょっと面白くなかった。


 でもまぁ、ミサキが色々考え込んでしまっているのはわかったので、マフラーがいいんじゃないかと提案する。

 ミサキは貴族であるヴィルトが、自分の作ったマフラーで喜ぶのかと不安に思っているようだった。


 けど間違いなく、ヴィルトが喜ぶと僕は断言できた。

 絶対自慢されるなと今から億劫に思いながらも、ヴィルトに合う毛糸を選び出すミサキを見つめる。


「兄様、ヴィルトの事嫌いなのに、喜ばせるような事してよかったの?」

「ミサキが悩んでたから力になりたかっただけだよ。別にあいつを喜ばせたくてやったわけじゃない」

 ミサキに聞こえないくらいの声でベアトリーチェが尋ねてきたので答える。

「でも結局同じ事だよね」

 まぁその通りなのだけれど、一生懸命なミサキを見ると、つい応援したくなる兄心が勝ってしまったのだ。

 ベネはちょっと呆れているようだった。


「ベネ、ちょっと意地悪だな」

「そんなことないと思うよ。ちょっと恋敵を応援してどうするのかなぁって呆れただけ」

 確かにベアトリーチェの言う通りだ。

 どうして自分からミサキを奪う嫌いな相手に、僕は塩を送っているのか。


「ミサキってさ、チサトとずっと過ごしてたのに、全然一緒にいても気づかないよね。異世界までチサトが来てるって想像できなくても、少しくらい疑ってもよさそうなのに」

 追い討ちをかけるような言葉を、ベアトリーチェが呟く

 嫌味というわけではなく、純粋な疑問と言った口ぶりだった。


「やっぱり今日のベネは、意地悪だ……」

「ごめん、ごめん。私ならどんな姿をしてたって、チサトだってわかるのになって思ったから、不思議でつい口にしちゃった」

 落ち込んだ気分になっていたら、ベアトリーチェがそんな事を言う。


 さらりと軽く笑いながらもたらされたその言葉。

 なんてことのないように、当たり前だというように。

 ――どんな姿をしてたって、ベアトリーチェは僕をわかってくれる。

 ちゃんと僕を見ていてくれているんだと、思えて。

 そんな些細な一言で、たまらなく幸せな気分になった。

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「育てた騎士に求婚されています」シリーズ第1弾。今作の主人公二人が脇役。こちらから読むのがオススメです。
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