【27】幼馴染と恋愛の成就と
ミサキが帰ってしまってから、ヴィルトは塞ぎこんでいた。
心配になって屋敷を訪れれば、剣を持って周りのモノを手当たり次第に破壊していた。
「ヴィルト……」
「……」
呼びかけても聞こえてないかのように答えない。
ただ虚ろな瞳で、抜け殻のようにヴィルトはそこにいた。
私はヴィルトに何もかける言葉がなくて、そのまま屋敷を出た。
元はと言えば、私のせいだから。
あてつけのようにベアトリーチェの姿で私がヴィルトと仲良くして。
私の目論見どおり、ミサキは身を引いて元の世界に帰ろうとした。
それをヴィルトは止めようとしたが、ミサキは目の前で消えてしまったようだった。
ヴィルトに、ゴメンと言おうとしてやめる。
私がいくら謝ったところで、ミサキが戻ってくるわけじゃない。
それにわかっていてやったことだ。
なのに今謝るのは、許してもらいたいみたいで卑怯に思えて。
そっと私はヴィルトの部屋を出た。
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「兄様、ヴィルトはこのままミサキを諦めちゃうのかな」
そもそもどうやって、元の世界へ行くのか。
私はそれすら知らなかった。
「さぁどうだろう。僕が消えてないってことは、まだ諦めてないって事だと思いたいけど、少なくとも今のアイツにミサキを任せる気はないよ」
淡々とチサトは口にする。
「折角デートしてるんだから、ヴィルトのことよりもベアトリーチェには僕の事を考えて欲しいな。ほら、ベアトリーチェ。こっちのケーキも美味しいよ?」
そう言って、チサトがケーキの欠片を私の方へ差し出してくる。
今日はベアトリーチェの姿で、お茶屋さんの隣のカフェに来ていた。
「デ、デートって兄様! ただ息抜きにカフェに来ただけなのに」
「ベアトリーチェと二人でお出かけなら、いつだって僕はデートのつもりだったよ。ほら口開けて?」
赤くなる私に、チサトがふっと笑ってフォークをさらに突き出す。
私に告白して以降、チサトが変だ。
甘い言葉を口にして、私を見つめてくる。
私の知ってるチサトは、ヘタレでずっと好きな人にも好きといえず、空回ったりするような人だったはずで。
積極的なチサトなんて、チサトっぽくない。
まるで別人のような気もするけれど、やっていることは前々から私にしてることとそう変わらないから変な気分だ。
今まで言葉にしてなかっただけで、ずっと前からそういう風に私を見ていた。
そう錯覚してしまいそうになる。
「……兄様はいつから、口説き魔になったの。まるでルークみたいだよ」
「口説いてるつもりはないよ。それに」
私がなかなか食べてくれないので、チサトが自分でケーキを食べる。
それから私に真っ直ぐな視線を向けてきた。
「大切だと思うなら、伝えて行動に起こさなきゃ相手にだって伝わらない。そう言ったのはベアトリーチェだったはずだ」
射るような視線の強さに、胸がうるさく高鳴る。
ミサキになかなか想いを伝えられない兄様に焦れて、確かに私はそう口にした。
「そ、それは……」
けどその時チサトの想いは、ミサキに向けられていたはずで。
それが自分に向けられていると思うと、どうしていいかわからなくなる。
戸惑う私を見て、チサトはふっと表情を緩めて笑った。
「ほら、ベアトリーチェ。あげる」
チサトが自分の皿のケーキの、最後の一口を差し出してくる。
食べないとずっとこのままだというように、笑って。
前までは当たり前のように、こうやってチサトからケーキを貰っていたのに、妙に気恥ずかしい。
「んっ……」
かきあげた髪を耳にかけて、身を乗り出して。
赤くなった顔で、ぱくりとケーキを口にすれば。
――チサトが満足そうに笑った。
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しばらく経って、ヴィルトはミサキを迎えに行く事に決めたようだった。
ヴィルトと同じトキビトに恋をしている友人のアカネが、喝を入れたらしく、それで目が覚めたようだった。
ヤイチ様に協力を頼むつもりらしく、ヴィルトの後を追うように私達もルカナン領に戻った。
ヴィルトがミサキの世界に行くには、色々準備が必要らしい。
ヤイチ様は国の外から友人を集めたり、ラザフォード領で何かをしたりと、忙しく動いていた。
チサトはというと、ヴィルトに内緒で、密かにヤイチ様に協力していた。
ヤイチ様にミサキと自分の事情や、ヴィルトとの関係を話したようで、その上でチサトにできることがあるらしい。
ミサキのいる場所までの補助的な、道標の役割だとチサトは言っていた。
そして、ヴィルトはミサキの世界へ旅立って。
ちゃんとミサキを連れて帰ってきた。
そして今日。
ミサキに改めてプロポーズするから証人になって欲しいと言われて、ヴィルトの家に被り物をしたチサトと一緒に行く。
そこにはウェディングドレスがあって、従兄妹のヘレンもいた。
ヴィルトはミサキの友人でもあり、優秀な針子であるヘレンにかなり前からウェディングドレスを注文していたのだ。
屋敷の他の使用人たちも一緒に、部屋に隠れる。
ヴィルトが婚約指輪を渡して。
「ありがとう、ヴィルト。嬉しい」
ミサキが幸せそうに微笑んで。
「みんなも聞いたよな?」
ヴィルトのその言葉を合図に、みんなで飛び出して祝福の拍手を贈る。
私とチサトは少し遠い位置からそれを眺めていた。
幸せそうなヴィルトと、ミサキ。
幼い頃からの想いをかなえた幼馴染の姿を見て、心からよかったと思う。
けど、おめでとうと口にしながら、私が皆より離れた位置にいるのは罪悪感からだ。
ちゃんと二人はくっついたけれど、一度邪魔をした私がこうやって祝福することさえ、本来はあってはいけないことだと思う。
親友なのに、私はヴィルトを裏切っていたんだから。
それでもここにいるのは……二人が幸せな姿をちゃんと見届けたかったからだった。
私はヴィルトをずっと騙して、仲を切り裂こうとしていた。
例え二人が両思いでくっついて、チサトが私を好きと言ってくれているとしても。
丸く収まったからいいよねって、親友面をしてヴィルトの側に立つことなんて私にはできなかった。
ベネでいるのは、今日で最後にしよう。
そう私は決めてここに来ていた。




