表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/38

【1】兄様の恋のため、幼馴染の恋路を邪魔します

【注意】単品でもよめますし、こちらから読んでも問題ありません。ですが、同シリーズの「育てた騎士に求婚されています」をヴィルト視点3まで読んでからの方が、驚きがあって楽しめると思います。「オオカミ騎士の捕虜になりました」も合わせて読んでいるとさらにいいもしれません。

 会場の真ん中で、若草色のドレスを身にまとった女性がダンスを踊っていた。

 彼女は真っ黒な髪を綺麗に結っていて、ダンスに慣れてないのか、戸惑った様子だ。

 世話焼きでお姉さん気質の彼女を、私はとても気に入っていた。


 彼女――ミサキは、私の大好きな兄様の想い人。

 けれど、今彼女が踊っている相手は兄様ではなかった。


 ミサキのダンスのお相手は、金髪に意志の強そうな青い瞳をした騎士。

 私の幼馴染で、ヴィルトという青年だ。


 今日はヴィルトが王の騎士になったことを祝うパーティー。

 王の騎士のみが着る事を許された制服は、白くて真新しく、ヴィルトをいっそう凛々しく見せていた。

 足元を確認しながら踊るミサキを、ヴィルトは愛おしそうに見つめ、優しくリードしている。


 ヴィルトはこの屋敷の子息で、ミサキはこの屋敷に滞在している異世界からの客人でありメイドだ。

 2人が想いあっていることくらい、私も兄様も知っている。

 隠れるようにして、兄様は想い人であるミサキを見つめていた。

 その表情を見ていると、私はいつだって苦しくなる。


「ミサキにダンスを申し込まなくていいの?」

「僕は……諦めることにするよ」

 兄様ならそう言うと思ったから、驚きはしない。


 ミサキが大好きなくせに、兄様ときたらいつまでも彼女と顔を合わせられずにいるからだ。

 常に被り物で顔を隠して、兄様は彼女の前に現れる。

 ミサキにとって兄様は『被り物をした照れ屋で親切な、ヴィルトの幼馴染のお兄さん』という位置づけのままだ。


 それどころか兄様ときたら、恋敵を見極めるとヴィルトに近づき、当の恋敵と友情を築いてしまっていた。

 恋敵ヴィルトが戦争に行ってしまうと泣く彼女に、『僕が一緒に行って、ヴィルトを無事に連れ帰ってくる』なんて約束してしまう始末。


 兄様はずっと前からミサキが好きで、なのに肝心な言葉が言えずにいる。

 私から言わせれば兄様は、どうにも要領が悪い。

 いつだって真面目で一生懸命なのに、空回りする。

 肝心なところで怖気づいて、変な選択をしてしまうから、いつも貧乏クジを引いている。

 

 そんな兄様がもどかしいのと同時に、そこがたまらなく可愛いと思ってしまう私は、かなり変わっているんだろう。

 

 これを最近できた友人に言ったところ、「あなたってヘタレ好きなのね」と言われてしまった。

 ヘタレと言うのは、決めなきゃならないところでダメだったりする人のことらしい。

 この世界とは違う異世界、『日本』の若者が使う言葉なんだとか。

 ――兄様にぴったりだと思った。


 そんなヘタレで愛おしい兄様に、私は幸せを掴んでほしかった。

 私の行動によって、仲のいい幼馴染――ヴィルトを不幸に巻き込んでしまうとしても。


 ヴィルトにとっての1番が、今一緒に踊っているミサキであるように、私にとっての1番は兄様だ。


「私諦めないよ。絶対ヴィルトと結婚してみせる。私はヴィルトと、兄様はミサキと。互いの恋を応援する、そういう約束だったでしょ?」


 全ては――大好きな兄様のために。

 私が兄様の恋敵であるヴィルトと結婚してしまえば、彼女……ミサキの隣が空く。

 そこに、兄様の付け入る隙もあるはずだ。

 ヴィルトを思えば心は痛むけれど、ずっと前からそうすることを私は決めていて、そのために行動してきた。


 腰まである金の髪に、青空色の瞳。

 私の顔立ちは母譲りで、おしとやかに振舞ってさえいれば美人の部類に入ると、自分でちゃんと理解していた。

 清楚な雰囲気のドレスは、自分の見た目を最大限に生かしたものだ。


 私、ベアトリーチェ・ファン・ルカナンは、長年社交界デビューもすることなく、病弱な深層の令嬢という設定になっていた。

 女らしい雰囲気も仕草も、ヴィルトを堕とすという目的のために磨いてきたのだ。

 今の私は、まさに守ってあげたくなるような、可愛らしい女の子だ。


 幼馴染である私は、ヴィルトがそういう女に惹かれないことを知っていた。

 けれど、私とヴィルトがお似合いだと、周りが思い込めばそれでいいのだ。


「本当に……ヴィルトの事が好きなのか?」

 難しい顔をしていた兄様の眉間に、さらにシワが増える。

 想い人だけでなく、妹の私まで恋敵……ヴィルトに惚れているのが面白くないんだろう。


「もちろん」

 嘘を口にすれば、兄様の真っ黒な瞳が揺れた。

 まるで傷ついたように。


「そうか……わかった」

 何かに堪えるような顔。

 そんな顔をされると、まるで兄様がミサキじゃなくて、自分を好きなんじゃないかと勘違いしそうになる。

 そんなこと、あるわけがないのに。


 ――私が好きなのは兄様だよ。

 そう言いたいのを、ぐっと堪える。


 ある日、突然空から舞い降りてきた、黒髪に黒目の男の人。

 行方不明扱いになっている、私の兄の身代わりにされてしまった――不憫な偽物の兄様。

 優しくて真っ直ぐで、それでいて臆病でとても不器用。

 常に何かと戦ってるような仏頂面も、真面目すぎて空回ってばかりのとこも好きで好きでたまらない。

 だからこそ、1番幸せになってもらいたかった。


 ――たとえ大切な幼馴染を傷つけて、この恋心を押し隠すことになったとしても。

ヴィルトとミサキはシリーズ第1弾の「育てた騎士に求婚されています」に出てくるキャラです。

★2016/10/3 読みやすいよう、校正しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「育てた騎士に求婚されています」シリーズ第1弾。今作の主人公二人が脇役。こちらから読むのがオススメです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ