難関と不審物
勝山曹長視点と鎌田曹長視点です。
-4.16.AM8:00-
廃ビル2階大会議室内-
勝山拓哉曹長-
バゥンっ!
パンっ!
ササッササッ
…2人の兵士が俺たちがさっきまでいた部屋のドアを爆破して中に入っていったな。
急いで脱出した勝山と福田の2人は大人1人がやっと通れる狭い通気口内を匍匐前進で移動して敵の真上の換気口からその光景をこっそり覗いていた。…もし、脱出できずにあの部屋に留まっていたら確実に殺されていた、と勝山は恐怖で背筋が凍る思いだった。
『連中のあの動き方…そこらの盗賊どころじゃないな…無駄な動きが見られない』
兵士たちはドアの爆破と同時に閃光手榴弾を放り込み発光直後に素早く侵入していた。
『それに連中の装備はすべて統一されている…どこかの組織に属しているってことか?』
今見えているだけで9人の兵士がおり、兵士たちは暗視装置つきのヘルメット・防弾ベスト・バックパックなど黒色で統一された装備をしていた。俺が特に着目したのが彼らの武装だ。
彼らが装備しているのはM4カービンという銃だ。米軍を始め世界各国の軍に採用されている小銃。5.56×45mmNATO弾使用で連射ができていたことからフルオートのA1モデル。異変が起こってからは部品の供給が途絶えているのと整備に手間がかかるため精度は良いが整備に評判の悪いM4はあまり出回っていないと聞く。
俺は下の連中の動きと高性能な装備をこの現在でも使っている所を見てとどこかの特殊部隊だろうと推測した。しかし、この周辺に秋雨市の敵勢力のアジトはないと作戦前説明されていた。
真下に敵がいる状況の不安感から福田が焦り気味で、
「(小声で)隊長…早くこんなとこから逃げましょう…」
「待て…今はまだ逃げられない…」
そう言って俺はあるところに指を指す。
部屋の外へ通じる通路の床が金網になっていた。金網だと通った時に確実に音が出てしまう。たとえ見つかって逃げようにも狭く匍匐でしか移動できないため逃げられない。指さされた方向を見た福田はうなだれていた。そこへ…
「clear! lieutenant! the enemy does not seem!(クリア!中尉!敵は居ないようです!)」
兵士の1人が声を上げる。なんとか俺たちの存在に気付かなかったらしい。報告された連中は部屋を出ていく素振りを見せた。このまま難なく出て行ってくれるかと期待していたが…
「?...No,have been removed the lid of the vent!(いや、通気口が開いています!)」
「true.it also new...enemy seems to be there,you guys are looking for the enemy!(本当だ。しかも、新しい…敵が居るかもしれない捜し出せ!)」
…急いで出たため俺たちは蓋を閉め忘れていた。やってしまった…。彼らに存在が判ってしまったようだ。
すると中尉は近くの兵士に何かささやいたあと、ささやかれた4人の兵士が部屋の外に行くようだ。おそらくこのビル内を捜索しに行くのだろう。
…このままでは上の階の奥田たちが危ない。このことを知らせたいが動けば気づかれ銃撃を受ける。攻撃しようにも普通の一般の兵士の俺たちに瞬時に9人もの人数を仕留めるほど射撃の腕はない。そして、隠れようにもこの位置では動けず床の鉄板は薄いため腹からモロに弾を受けるだろう。選べる選択肢がどれも悪い結末になってしまう。
もう時間がない。俺たちが苦悩している間にも兵士たちは外へ行こうとする。
…ピッ、バァン!
ちょうどそのとき、どこかで爆発音が鳴り響いた。下の連中はそれに反応し、
「...someone has reacted to the trap that was planted on the first floor,then go investigate.(1階に仕掛けたトラップに何か引っかかったようだ、調べてこい」
「「「「yes,sir!(了解!)」」」」
命令を受け素早く4人の兵士が部屋を出ていった。一階に向かったらしい。どうやら時間を稼げそうだ。今のうちに俺たちはどうするか2人で話し合ったのだった…。
-4.16.AM5:30-
某市街地・北地区住宅街路上-
鎌田篤史曹長-
「くっ!」ザシュッ
「ギャァゥオゥ?!」ドザッ
爆発のあったビルに向かっているものの想像以上に奴らの数が多くて容易に進めない…。残りの弾が少ないから一斉にこっちを襲ってきたら対応できないな。俺はひたすら音を消し見つからないように迂回、時には奴らの背後から近づいて首筋をナイフで刺し仕留めて少しずつ前進していた。
奴らとの戦闘を避けて走っていたとき、ちょうど住宅街を抜け、大きな4車線の道路に際しかかった。道路には打ち捨てられた放置車の残骸と周りには大きな店舗の廃墟が並んで建っていた。ちらほらと奴らの姿も見える。
『見たところ目立ったものはなさそうだな…。さっさと抜けよう…』
この広い通りで見つかると隠れる所がないためさっさと抜けようとしていたが、、、
「?あの車やけに新しいな…」
向こうの道路わきに1台のトラックがガードレールに突っ込んだ状態で止められていた。近づいてよく見てみると塗装がそこらに放置されている車にしては剥がれておらず最近まで使われていたようだ。
後部のドアが開けっ放しになっていた。中には小さい鉄製コンテナがあったが、どうやったのかそのコンテナの側面は内側から派手にぶち破られていた。「何か」をこのトラックは運んでいたようだ。
前の運転席を調べようとしたが窓ガラス全てにひびが入っていて外から運転席内部の様子を見ることが出来なかった。俺は銃を構えつつドアに手をかけ、開けた。
ブゥゥゥゥゥン!
「…?うげっ!」
運転席のドアを開けるとそこには強烈な臭いを放つ死体が1つあり、ドアを開けた瞬間ハエが中から飛び出してきた。
「うぇぇぇぇ…見るんじゃなかった…」
吐き気が擁しつつも死体に群がっていたハエがほとんど散り散りになったのを見計らって持ってきていた簡易マスクを着けて運転席に横たわる死体を観察した。
死体の特徴から性別は男。死んでから1週間は経っているか。服装は…防弾ベストを着ている…?
その死体が身に着けている防弾ベストは俺たちのものとは違った。…ということは敵か?
…それにしてもこいつの死に方が妙だ。死体の身体中に小さく孔が無数に開いている。まるで斑点のように。おそらくそれらから出血し、死んだのだろう。しかし、奴らに襲われたなら感染して今頃どっか生ける死体として徘徊しているはず。人に殺されたならまだ原型を留めていたはずだ。
ふと助手席に目をやると1つの封筒が置かれていた。それに手を伸ばし封筒の中身を開封して読んでみると、、、
…これは…もしや…。
「………」
俺は書類を読んだ瞬間、途轍もなく悪寒がし、すぐさまトラックから離れ、調べるのは後回しにし、目的のビルへ向かうことにした。
そのときの俺はまだ知らなかった。
恐ろしいものに尾行されていることに…。