視察?
ー4.12.AM11:55ー
ー某市街地・トラック内ー
それぞれの車内で士官が兵士たちに呼びかける。
「これより我々歩兵戦隊による掃討作戦に移る!戦車隊に随伴して市街地を制圧せよ!装備の点検怠るなよ!」
「「「「了解!」」」」
「また、ゲストとして、秋雨都市防衛隊即応隊の大尉殿と第7監視分隊の方々が我々の活動を視察する。組織が『攻める』と『守り』というように異なっているが、同じ秋雨市を想う者として我々の精鋭なる歩兵戦隊の練度を防衛隊の方々に見せ付けようじゃないか!各員健闘を祈る!」
「「「「了解!」」」」
歩兵戦隊の隊長の訓示に応えるように隊員たちが揃って大声で返事をした。これにより、歩兵戦隊員の士気は盛り上げられたのだった・・・。
ー防衛隊・第7監視分隊組ー
ちょうど同じ頃、討伐隊の歩兵戦隊の乗ったトラックの最後尾に2両の改造ハイエース(元トヨタ製10人乗り乗用車)が走っていた。
「隊長~、なんで私たち討伐隊の戦闘地域に行くことになっちゃったんですか~?」
「知らねぇよ?!俺だってこんなとこきたくなかったわ!」
「やっぱり~あれじゃないっすか~?前の作戦で助けた女の子に関係してんじゃないんでしょうか~?」ヒックッウィ~
「おいコラ!お前こんなとこでも酒呑んでくるなよ…!」
勝山と奥田と福田の3人は談笑していたが、なぜか福田は酒をこんなところまで持ち込んで1人酔っていた。
今回の作戦は表向きは討伐隊の視察となっているが、実際は2名の調査員の護衛というのが本来の作戦目的だそうだ。
俺たちは車内で軽くふざけていると、
「勝山曹長、君の部下への教育がなっていないな。ここはもう戦場なんだぞ。場をわきまえろ!」
今回の護衛対象の1人である坂巻淳也大尉が叱咤してきた。40代の精悍な男で角刈り、服の上からでもわかる筋肉の盛り上がりが目に見える。
「いえ、大丈夫じゃないでしょうか?坂巻大尉。私、楽しい方が気持ちいいですし」
そう言ったのが・・・あの日に保護した白髪の白人の少女だった。なんでここにいる・・・?
「そういえば、あなたの名前をうかがっていませんでした。お名前は?」
「エマです。エマ・ニクソンです。あのときは本当にありがとうございます!」
白人少女の名前はエマ・ニクソンというらしい。そう言って彼女は座りながら軽くお辞儀した。相変わらず銀色の長髪が魅力の美しい少女だ。
「いえいえ、当然のことをしたまでです。今回は何をされにN市旧市街地に向かっているんですか?」
今回の目的を探るため軽く聞いてみたが・・・
「それは・・・」
「無駄な詮索は必要ない。君たちは私たちの護衛をしていればいいだけだ」
エマは坂巻大尉に口止めをされ、俺は今回の目的を聞けなかった。
「し、しかし・・・!」
「しかしではない「歩兵戦隊降車!」おっと、着いたようだ」
結局、聞けず、俺たち分隊も降車し護衛対象を囲むようにして隊形を組んだ。
「・・・それでは向こうの方に行くぞ」
「・・・了解しました」
坂巻はスマートPCを開き、指差した方向に向かうと告げた。
その先に、とんでもないことに差し掛かるとはこのときの俺たちも討伐隊の誰もが想像していなかった・・・。
坂巻大尉は討伐隊に「視察をしたいのだが、あの一際デカいビルを目標に進撃してほしい」と注文し、1両の戦車と歩兵10名のグループに随伴して坂巻大尉の示す目的地に向かうことになった。
「討伐隊第1戦車隊2号車長の村上曹長だ。よろしく頼む!」
「同じく討伐隊第6歩兵隊隊長の鎌田曹長です。我々の精練された行動よくみていてもらいたい!」
「防衛隊第3連隊第7分隊隊長の勝山曹長だ。こちらこそよろしく頼む!」
速やかに自己紹介と準備を整えた討伐隊歩兵戦隊と俺たちは進撃を開始した。
戦車と随伴歩兵のセットは、戦車から見えない箇所を随伴歩兵がカバーするため、とても良い。
前方の奴らや建物の陰から出てくる奴らを討伐隊の隊員たちが素早く排除し、複数のまとまった奴らには戦車砲の榴弾・散弾や機関銃で吹き飛ばして、グングン進撃していった。
市街戦ではどこから敵が飛び出してくるかわからない。だがそんな不安をなくしてくれるかのように意気揚々と討伐隊は進んでいく。
「さすが討伐隊!手馴れたようにどんどん制圧していますね」
「そうっすね~!これだと自分たちの出番なく、目的地に着きますね~!」ヒック
「そうだな」
俺たち第7監視分隊の面々はこう楽観視して気を緩ませていた。坂巻大尉もやや安堵した感じだったが、、、
「・・・何か嫌な予感がします・・・」
エマは小さな肩をぶるぶると震わせてそうつぶやいた。
「?どうしましたか?我々の先鋒として戦車が進路を確保してもらってます。戦車さえあれば怖いものなんて1つもないですよ(笑)」
「怖いものなんてない」と、言いつつも俺も何かおかしいと感じていた。
いくら討伐隊でも地中まで潜んでいる奴らをこうも跡形もなく制圧できるわけがなかった。
制圧出来るならば、秋雨市の現有戦力だけでも壁外の土地を奪還できるが、奴らはいつも無尽蔵に湧いて出て壁外への進出がなかなか出来なかった。今日はその奴らがなぜかとても少ないようだった。
俺も違和感を持ちつつもエマを安心させるように優しく声をかけたが、
「違います!嫌な予感どころかさっき私見たんです!」
「?何が違うのですか?何を見たんですかっ?」
戦場のストレスからか俺はどこかハッキリしないエマに軽くイラつき、眉間にシワを寄せてやや怒気を含み、ぶっきらぼうに聞いてしまった。
エマはそんな俺にビクッと怯えつつも言葉を発した。
「向こうのビルの窓から人がこちらをジッと見ていました!奴らじゃなかったです!」
それを聞いた俺はまさかと思い、すぐに戦車の方を振り向いた。
俺が振り向いた瞬間、戦車がいきなり爆発炎上した・・・。