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07バフォメット娘

 いくら一緒に暮らしていて、お互いの体で知らないところはない仲になっても、服ぐらいは着て欲しいものだ。

 特にその理由が、暑いとかそういうのではなく、すぐにヤれるから、というのは本気でやめて戴きたい。


「あの、離れて下さい」


 背に感じる柔らかく、じぃんと体に染みるような温もりを努めて気にしないようにしつつ僕は言った。

 顔はモニターを見たまま、後は振り向かない。


「えーやだ」


 書き物の邪魔をしてくる彼女は、悪魔のバフォメットという種類らしい。

 種族、ということは伝承のバフォメットみたいなのが沢山いるのかと疑問になる。

 彼女は何も教えてくれない。


 バフォメット、とはいっても、彼女は完全な山羊頭じゃない。

 褐色の肌、人の顔に豊かな黒髪、ねじれた角、といういかにもな悪魔っぽくすぎる気がする。

 山羊のように瞳孔が横に倒れていて、ちょっと怖い。

 下半身は二足歩行できる山羊といった風情で、背の腰辺りには小さくて飛べなさそうな黒い翼がある。


 彼女が僕の耳たぶを舐めてきた。


「やめてください」


「ヤろう」


「やりません」


 彼女の淫乱はファッションだ。


 最初、痛みで鳴いてた。初めてなのにとか言ってすぐに自分の口を押さえてた。

 そのあと顔を赤くしていた。

 ヤった後で責任取って下さいとか言って来やがった。


 後腐れ無いとかやっと童貞すてられるとか喜んだ結果がコレだよ。


「いま忙しいんで離れて下さい」


 彼女は僕の体に回した腕に力を入れて僕を強く抱きしめる。

 背にあたる大きな乳房が形を変え、二つあるはずなのに一つの柔らかな何かを押しつけられているような気がした。


「じゃあこれくらい我慢してよ」


 何故だ。しかしあまり駄々を捏ねられても困る。

 ここいらで妥協するか。


「分かりました。邪魔はしないで下さいよ」


 僕はため息を一つしてからそう言った。


「よかった……」


 その声に、僕は反射的に振り向いて肩越しに彼女を見る。

 口元が緩んで目がふるふると潤んでいた。

 安堵しているようだ。


 マウスを置いて右手で彼女の頭を撫でる。

 角が邪魔だから角を避けて後頭部から撫でる格好になるため、腕をちょっと無理に捻る感じになって痛い。


 僕を抱きしめる力がもう少しだけ強くなる。


「寂しいなら寂しいと言いなさい」


「むー」


 口を閉じて静かに唸る彼女。

 こういう照れ隠しと弱さ隠しは彼女の癖なのだ。


 腕がちょっと痛いので左手で彼女の頭を撫でる。


「無理しない。

 それと服を着なさい」


「やだ」


 子どものように膨れる彼女。

 僕の頭に自分の角が当たらないように彼女も彼女で無理な姿勢をしている。


 僕はもう一度ため息をついた。


「ほら、ここに来なさい」


 胡座を掻いた膝を軽く叩いて僕は彼女に言うと、彼女は拍子抜けするほど素直に立ち上がる。

 そして僕の膝に、僕と顔を合わせるように対面に座った。


「ちょっ」


 違うと言おうとした僕にすぐさま抱きついて、彼女は僕の口を自分の唇で塞ぐ。

 たっぷりと呼吸が苦しくなる寸前まで彼女は僕の口を吸って、ようやく離れた。


「えへへ、あなたがここに来いって言ったんだもん」


 そう言って彼女は僕を抱きしめた。

 角が邪魔にならないように横を向いて。


「さ、これなら出来るでしょ」


 確かにモニターはきちんと見えるが、左腕が動かしにくい。

 が、ここが妥協点か。


 妥協しすぎな気もしないではないが、少しうれしがっている僕がいることを否定は出来ない。


「仕方ないな」


 僕はそう言って、彼女を強く抱きしめてから、作業を再開した。


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