06デュラハン娘2
――すこしむかしのはなし
インターホンが鳴る。
オーソドックスな音なのだな、と思った。
この部屋に引っ越して以来、何故か新聞屋も勧誘も来なかった。
そのため、インターホンの音を聞くのは初めてだったのだ。
この部屋、風呂・トイレ別の2LDKでずいぶん安い物件ではあったが、そういうの気にしないタチなので賃貸を決めた。
だがまさか契約が決まってから大家からこの部屋を借りた者は皆早死にすると聞かされるとは思わないだろう誰も。
調べた限り事実らしく、勧誘は何も来なかったのだ。
とはいえ、引っ越し屋以外では初めての訪問者。
すこしうきうきしながら立ち上がり、自分の服装を見る。
風呂上がりでTシャツとパンツだけだ。
何か着るべきだろうか?
もう一度、インターホンが鳴った。
僕は「はいはーいちょっとまってねー」とドアに向かってちょっと大きめの声で言い、何か着るものを出すことにした。
ダンボールからジーンズを出して履く。
とりあえずコレで良いかと玄関に向かった。
玄関でドアを開けようとしてもう一度インターホンが鳴る。
しつこいなこの訪問者。
「はいはい、どーもなんのご用ですか」
そう言いながら僕はドアを開けた。
この真夏に黒いコートを着てマフラーをし、タライを両手で頭上に抱えながらプルプルしてる女がいた。右足はブーツを脱ぎ、インターホンを押そうと上げているので更に辛そう。
やべぇ変態だ。
「えいっ」
女がタライをこっちに傾けた。
ざばぁという水音と共にタライの中から妙に赤く濁った液体が降り注ぐ。
「うわぁ!」
鉄臭っ、どろっとしてるっ。
なにこれ血っ!?
「ふぅ」
女は一息吐き、タライを降ろした。
周囲に広がる血だまり。
玄関から共用廊下までまんべんなく。
部屋の中は部屋の廊下と土間には一段ステップがあるため土間だけで被害は抑えられているが、靴やサンダルはもう履けまい。
さようなら敷金。
「おまっ、なにするんだあ?!」
僕は混乱と怒りで気の利いたセリフ一つ言えない。
「あっ」
女はそんな僕を見て何をするでもなく、間抜けな音を口から出した。
みるみる内に女の顔が青ざめていく。
「あぁっ」
そんな悲鳴を出しながらこちらに倒れてきた。
割と可愛い顔なので思わず抱き留め支える。
ごろん、と何かが転がる音がした。
何の音だろう。
そしてコート越しにも分かる、僕の胸にあたる柔らかさ。うむ。
僕は彼女の顔を改めて見ようと彼女を肩を押して起たせ用として、彼女に頭がないことに気付いた。
「……っ」
頭、何処行った。
「あたまが、くらくらする……」
僕の後の方から声がした。
何が起きているのか分からず、悲鳴も出ない。
なんだ。
この、状況。
後から聞こえた声の出所をみようと、首のない女の体をそのままに、後をみる。
こちらに血の気のない顔を見せる生首があった。
「いたい……?」
喋った。
その後、気絶しそうになる自分を抑えつつ彼女の話を聞いた。
デュラハンと言うらしい。
そしてタライ一杯の血は自前らしい。
倒れたのは、貧血が原因のようだ。
「で、なんで帰らないの?」
「いごこちいいもんー。
あなたもいるしー」
僕たちはなぜか、恋仲になって同棲している。
人生、何が起こるか分からない。




