表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/152

85 ひび割れ

 港に着いてからも、シェールとセシルの仲はぎくしゃくしていた。代わりにシェールは、よくマリアと一緒に見かけられた。




「セシル……気持ちは分かるけど、シェールと仲直りしなよ。軍務にも支障が出るよ」


 テオドリックが優しく諭す。セシルは小さく頷いた。


「でも……テオには、男には絶対分からないわ」


 未だに思い出すと涙が出る。セシルは瞳を潤ませた。


「ごめん……でもさ、君がシェールを、その、好きなのに変わりはないわけでしょ?」


 曖昧に返事をすると、セシルはため息をついた。その時、シェールがやって来た。彼は先日マリアとともに上官から大目玉をくらったばかりだ。降等処分かと思ったが、今は海軍重役が国王とともに国際会議に出ているため、正式な決定は行われていない。


「セシル……もうやめようぜ、こんなこと」


 セシルは目を逸らした。黙ったままだ。凍りついた空気の中、テオドリックは金縛りにあったように身動きがとれず、部屋を出ようにも出られなくなった。

 シェールがふっと笑った。すごく嫌な笑い方だ。


「そうか。そういう態度とるのか。いいぜ。お前がその気なら……婚約解消してやろうじゃねえか」


 驚いたセシルは、思わずシェールを見上げた。

 彼はそれを見ると、いい気味だと嘲るような笑いをした。


「俺は構やしねえんだぜ?家柄さえ良ければ別にどこの女と結婚したっていいんだからな。ふん、考えてみりゃあお前のために骨折るのも馬鹿らしいや。マリアはお前と違って素直だし、くだらない意地なんて張らないし、女らしいとこあるし、可愛いし……」


 ちらりとシェールはセシルを見た。いつものようにセシルがつっかかってきて、それでなんとか全てを誤魔化せるのを期待して。

 しかし、セシルは俯いたままだ。ふと顔を上げた彼女の頬に濡れた跡があるのを見つけた。そしてセシルは無理をして笑い、震える声で呟いた。


「それ……マリアに言ってあげてよ……」


 シェールは頭が真っ白になった。しかし自分にもくだらない意地があるのを認めざるを得ないだろう。次の瞬間、とんでもないことを口にしていた。


「それが答えか。なら、お望みどおり婚約解消だな。ヴィッツェンとアルダンが泣いて喜ぶだろうぜ」


 言い捨てると、シェールは足音も荒く部屋を出た。あとには取り残されたセシルとテオドリックがいる。


「ごめんね……テオ……」


 ヴィッツェンはともかく、アルダンがというのはなんだか複雑な気持ちだった。テオドリックはセシルに聞きたいことがあったが、彼女はただ優しい笑顔の陰に隠れていた。恐らくマリアをシェールに譲ってごめんと言いたいのだろう。


「いや……俺は……」


 俺は、何なのだろう。

 続きが出てこないまま、テオドリックは口を閉じた。静寂が痛い。




「なにもそこまで早まらなくとも……もう少しだけ我慢することは出来なかったのかね?結婚すれば喧嘩の一つや二つ、避けては通れないのだし……」


 家に帰ってシェールと婚約解消したことを話すと、父のオルトスは青い顔をした。


「はあ……でも……」


 振ったのは向こうなんだし、とは言えない。


「考え直してみなさい。きっとシェール殿も落ち着けば考えは変わるだろうし……そうだ、今度の舞踏会に出席しなさい。公爵家主催の舞踏会だ。シェール殿もいらっしゃるに違いない。私は都合で行けないが……なんとかシェール殿と仲直りするんだよ、ああ、とびきりの装いで行くといい。金はかかっても構わないから」


 一人頷きながらオルトスは部屋に行ってしまった。

 立ち尽くして、セシルはまばたきもせずに涙を流した。

 私は皆を困らせている……。

 そう思うと、目の前の視界が大きく滲んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ