48 危険な相手 2
数日後、ルキウス=キールがパーゼルの部隊の一員として海軍に入隊した。無事に叙任式も終えて、今は司令部に戻る途中だ。
歳上の官位が下の者は多いとはいえ、なまじ歳が近いため、四人は少々戸惑っていた。
「昼からは閲兵式だ。ルキウスに任せる第一六艦隊は長らく私の下にあったが、これを機に誰かの下へつけようと思うのだが」
おもむろにパーゼルが切り出した。四人が厄介を見るような目でパーゼルとルキウスを見た。
「私はコシュード中将の下が……」
「俺の下でお願いします、大将」
ルキウスの声を遮ってシェールが大声で言った。ルキウスがそれを睨む。
「私の方がセシルよりもより実践的な指導が出来るかと―――」
咳払いをしてシェールが付け加えた。
あんた、それ自分で言う?とセシルが呆れ顔をしている。
「うん、ではシェールの下につけるとするか。他、異論はないな」
三人が頷く。
シェールはパーゼルに見られないよう、ルキウスに勝ち誇った笑みを見せた。ルキウスが苦虫を噛み潰したような表情をする。テオドリックはそれを面白そうに見ていた。
パーゼルがルキウスを連れて部屋へ行くと、四人はセシルの司令官室へ集まった。マリアがセシルに近寄る。
「セシル、放っといていいんですか?」
「いいって、何が」
「ルキウスですよ」
マリアがその名前を出した時、窓の前を歩き回っていたシェールは盛大に転んだ。
何してるんだ、というテオドリックの問いに、シェールは別に、と素っ気なく答えてどこかへ出ていった。
「で、彼がなんなの?」
マリアがセシルをまじまじと見つめる。そして、感心したように言った。
「本当にセシルって鈍いですねえ」
けれど、分からないならこのままルキウスのものになってしまえばいい。そうすればシェールは婚約を解消するだろう。
「テオ、資料庫に用事があるんですけれど……」
マリアはテオドリックを上目遣いで見た。
「重いもの?持ってあげるよ」
テオドリックは全てが頭から吹っ飛んだようにマリアに笑顔を見せた。
彼はどうやらマリアが自分を選んでくれたことに対して喜んでいるようだが、いいように荷物持ちとして使われていることに気づいていないんだろうか……。セシルは一人部屋に残され、考えた。
それから暫く経った日の夜、セシルの司令官室にルキウスがやって来た。
「お噂はかねがね……」
「はあ……どんな噂か、恥ずかしいものね。あまり変なものでないといいんだけれど」
ルキウスはセシルの座るソファの向かい側に座った。セシルはルキウスと自分に紅茶を入れて、引き出しに書類を仕舞いに一度席を立った。ルキウスがきらりと目を光らせる。
セシルがソファに戻るときには、ルキウスは優しそうな笑みを浮かべていた。
「いえ、元帥から伺っておりましたのは、海軍に美しい髪をした、まるで少年のような女性がいるということです。まさしくあなたのことだったようですね」
「まったく、元帥も……」
セシルがそう言い、紅茶を一口含んだ時、ルキウスは席を立った。テーブルを回り、セシルの隣に腰を下ろす。彼女の頬に手を添え、自分の方に向かせた。
驚きのあまり、セシルは口をぱくぱくさせている。
「お慕いしておりました、ずっと……」
「何を……おっしゃっているのか……」
知らないうちに、セシルは敬語を使っていた。
ルキウスと会ったのは、ついこの間のキール元帥の邸宅が初めてのはずだ。
ルキウスはセシルを抱くような格好になり、彼女の首筋に顔を寄せた。まるで金縛りにでもあったかのように動けない。なんだか寒い気がする。
「あなたは知らないでしょうね。以前肖像画を描かせませんでしたか?その時の絵師が私のもとを訪ねた時、あなたの絵を見せてくれたのです」
思い当たる節はあった。二年前だろうか。肖像画を描かせたことがある。その時絵師がセシルをいたく気に入り、代金は全ていらないから、一枚余計に描かせてほしいと言ってきたのだ。たしか二枚描いてもいいから、と代金は払ったはずだ。
なぜそれをルキウスが……。
「私はまだ留学途中でしたから、詳しいことは分からずじまいだった……絵師も詳しいことは話しませんでしたしね。それが、帰国してみると元帥があなたのことを嬉々として話してくださる……神のお導きだと思いました」
ルキウスはそう言うと、セシルの腿に手を置き、ゆっくりとセシルを寝かせ、キスをした。
抵抗できない。体に力が入らない。
焦って怯えた表情を全面にだすセシルを見下ろし、ルキウスは余裕の笑みを浮かべて愛しそうに彼女の頭を撫でた。
「やはり、聞いていた通りだ」




