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41 海賊と国王

「ったくよー……なんでこんなことになってんだ」


「知らないわよ。知りたければさっさと捕まえて尋問すればいいでしょ?」


 ぼやくシェールの隣で、セシルがうんざりしたように言った。

 最近、なぜか海賊達の出入りが激しい。特に、アストレーズとカルディリアからだ。セシル達には、海賊の取り締まりと背景を探るという命令が下されていた。


「それもそうだな」


 そう言ってシェールは立ち上がった。そして、ふと立ち止まった。くるりと向きを変え、セシルに向き直る。


「なんか一言ないのか?これから一応戦いにいくんだが」


 内心期待しながら、でもダメでもともとで言ってみた。すると意外にもセシルはすっと近寄ると、耳元で囁いた。


「ご武運を」


 流れるように視線を交わし、短くキスをする。もう一度セシルの顔が見たい―――そう思った時、彼女がぐいっとシェールを押した。


「ほらもう、とっとと行ってよ!」


 力任せに押し出され、船長室の扉がバタンと音を立てて閉まる。

 小さく舌打ちして、しかし嬉しそうにシェールはセシルの船を去った。





 シャルトレーズ王国の首都、エートスにある海軍司令部。


「手間かけさせんなよな」


 そう言うシェールの足元には、縛り上げられた海賊達がいた。相当暴れた後なのか、彼らはかなりぐったりしていた。

 すぐ近くには王宮が見える。ちらりとそちらを見て、シェールは海賊達を引っ張って牢へ連れて行こうとした。

 一旦外へ出なければ地下牢へは行けない。まだ日は高く、光が眩しい。


「おら、とっとと歩け!」


 命令口調の厳しいシェールを、テオドリックとマリアがなだめるようにしている。

 その時、後ろから声がした。


「困るぜ、将軍殿。もう少し丁寧に扱ってくれや」


 海賊も含めて、その場にいた皆が振り返る。


「おっ、お頭!!」


「お前……アルダン=カルヴォ!」


 アルダンがにやりと笑った。その後ろに誰かいる。すっと姿を現したのは、シャルトレーズ国王スキロス二世とセシルだった。


「陛下!」


 条件反射的に三人の中将が跪いた。


「お務めご苦労。……しかし、彼らを放してやれ」


 スキロスの言葉に、シェールは噛みついた。


「陛下、しかしこいつらは海賊です!我々は命令に従い、こいつらの処分を行う予定なのです!」


「だから、その必要はないのだよ」


 諭すように話す姿は、ただ遠くにいる大人のようだった。スキロスはマリアを促し、海賊達の手錠を外させた。自由の身となり、海賊達はアルダンの前に跪いた。


「どういうことです……陛下、なぜアルダン=カルヴォと……」


 途切れ途切れにテオドリックが訊ねた。


「本来は私が直々に話すのが良いのだろうが……あいにく、忙しいのでね。セシル、代わりに頼んだよ」


 振り向いた国王に、セシルが敬礼して応えた。

 スキロスはアルダンを促し、従者をつれて先に進んだ。その中には彼らの上司、パーゼルの姿もあった。海賊達はアルダンについて行こうとしたが、何やらアルダンが耳打ちすると、船に戻って待つことになったらしい。さっさと港へ行ってしまった。シェールは追おうとしたが、パーゼルに制された。

 国王の一行が過ぎたあとには、ぽかんとしたままの三人の中将と、セシルが残された。


「どういうことだ……」


 半ば放心したようにシェールが呟いた。


「全部話すわ」


 セシルが答えた。


「今から?今日中に、一応報告書は作った方がいい……それに、それはシラフで大丈夫な話?」


 横槍を入れたのはテオドリックだ。たしかにまだ仕事の途中ではあるが―――。


「そうね……テオの言う通りかも。先に仕事を終わらせて。夜に話すわ。とてもシラフじゃ話せないわ」


 俺は酒のない方が有難いけどな、とシェールが付け加え、四人は夜に会う約束をした。


「嫌な予感しかしませんね……陛下が何をお考えなのか……」


 四人がばらばらの方向へ歩いて行く前、マリアがぽつりと呟いた。




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