39 尋ね人 4
「でも、兄上……」
「ったく……いつも言ってんだろ?俺の中には野良犬の血が混ざってるんだぜ。民衆が何て言うかな。それに、俺は恨んでなんかいやしねえぜ。お前みたいに行儀よく王座に座ってるなんざ、考えただけで背骨が固まる。俺はこうやって暴れ回ってるのが性に合ってるみたいだ」
一通り早口で喋ると、アルダンは一息ついた。
「お前がそんなんでどうする。シャルトレーズは生き抜いていけねえぞ。……俺は母が卑しいから、災いの子だのいろいろ言われてきたけどな、もうどうだっていいんだ。俺はこれからも海賊として生きていく。後悔はしねえさ。これは俺の問題だ。だからお前は悩むな」
「はい、兄上……」
アルダンは少し気恥ずかしそうにした。
「その『兄上』ってのも、いい加減やめようぜ。お互いもういい歳だ。……アルダンってのは俺の前のキャプテンから継いだ名前だが……俺には父からもらった名前がある」
「父上から?」
スキロスは目を大きくして聞いた。
「泉 雲花。泉は母の姓だ」
「玉蘭国の言葉ですね」
「ああ、俺達ヴローラ文化圏が下等だと見なしてきた国だ」
そう言うと、アルダンは話は済んだと言わんばかりに退出しようとした。
「待ってください!」
その声にアルダンは歩みを止めた。
「私は、やはりあなたのことはユンホワとは呼べない。今まで通り、兄上と呼ばせていただきます」
見えない闇の中、スキロスがにっこりと笑った気がして、アルダンは思わず微笑んだ。
「甘いぜ、弟」
今度こそアルダンは部屋を出た。外には仏頂面のセシルがいた。
扉が閉まる前に、スキロスはセシルを呼んだ。
「セシル、今宵のことは口外するな。全て忘れろ」
セシルは一瞬目を逸らしてからお辞儀をした。
「仰せのままに、国王陛下」
王宮から出て、セシルは困っていた。
この海賊はこれからどうするつもりだろう。下手に動いたら殺されるだろう。けれど、陛下と何か話をしていたらしいし、陛下はアルダンをよく知っているようだった。陛下は恐らく、アルダンを捕らえてしまおうとは思っていないようだが……海軍中将としては海賊など野放しには出来ないし。
ごちゃごちゃと考え事をしていると、アルダンが口を開いた。
「俺とあいつの仲は詮索するな」
「陛下に対してなんて口をきくの」
つっかかっても、アルダンには効き目がない。
「そういう仲なんだ」
二人は辺りに気を配りながらも、無言で馬を進めた。
すると突然、今まで厚く垂れ込めていた雲に隙間ができた。少し欠けた月が顔を出す。白い光が雲の隙間から差した。
闇に浮かんだアルダンの姿に、セシルは思わず見とれた。髪は黒く、とても長い。更にその顔立ち、そして目はシャルトレーズ国王スキロス二世を思わせた。
一方、アルダンもセシルの顔を見た。
蝋燭の光のせいで金髪だと思っていたが、銀の髪。気の強そうな青の瞳は大きく、アルダンを見据えていた。
「そうか、お前か」
「え?」
距離を縮めて、アルダンが耳元で囁いた。
「ラクスに沈めかけられた女将校というのは」
「あれは……」
思い出して、セシルは顔を赤くした。まさかまだ話に上ろうとは。
「覚えておくぜ、お前の顔と名前」
そう言うと、またな、と言ってアルダンは馬を飛び降り、どこかへ行ってしまった。セシルは目でその背中を追ったが、再び雲が月を隠し、行方は分からなくなった。




