02 あいつが許嫁? 2
次の日の朝、いつものように司令部に出勤した。セシルが廊下を歩いていると、幾人かが振り返ってまで見てくる。
……もう噂が流れたのかな。
角を曲がった時、ばったりとシェールに出会った。ちょうど資料室から出てきたところのようだった。
どきっとして、冷や汗が流れた。
シェールは何も言わず、セシルの隣を歩いた。
「親の決めたことだからね」
「あったりまえだ。ベタベタしてくんなよ」
「なっ……そっちこそ馴れ馴れしい真似しないでよね」
「なんだと?だいたい、なんでついて来るんだよ!」
「仕方ないでしょ、行く場所が一緒なんだから!それに、隣に来たのはあんたの方よ!」
「俺は自分の歩幅で歩いてるだけだ!」
「朝から痴話喧嘩か、二人とも」
振り向くと、テオドリックがいた。
「そんなんじゃない」
二人同時に反論する。
テオドリックはシェールを捕まえ、耳元で囁いた。
「おいシェール、上手くやれよ」
「は?何のことだ」
「とぼけんなよ。セシルと許嫁なんだろお?」
「親の決めたことだ。だいたい、俺はあんな女どうだって……」
ちっちっ、と テオドリックは人差し指を立てた。
「分かってないなー。セシルはお前が言うほどじゃない。いやむしろ、妻にすれば皆が羨むぞ?気が利くし……ほらよく見ろ、なかなか凛とした美人だろ?少将達なんかけっこう狙ってるし、陸軍のヴィッツェン中将なんか、父君に直々に打診したそうだ。ま、断られたらしいがな」
「そんな上玉かあ?」
そしてシェールはふと思った。
「お前今日なんか変だぞ?」
テオドリックはふっと笑った。
「お前とセシルがくっつけば……もはやマリアは我が手に入るも同然。だから一日も早く結婚しろ」
「しねーよ」
二人の後ろを歩いていると、セシルはぐっと腕を掴まれた。
「マリア……」
幼馴染みは人差し指を口に縦に当てて、声を出すなと言った。
「セシル、シェールと許嫁なんですって?」
「うん、まあ……。でも、親の決めたことだし」
「あまり乗り気じゃなさそうですね」
「だって、よりによってあんな男と……」
マリアはにこっと笑った。
「では、テオなんかどうです?」
「テ、テオ?なんで?」
セシルはシェールの隣にいるテオドリックを見た。
「彼、とってもいい人ですよ。教養深くてしっかりしてて、親切で」
「何考えてるの、マリア」
「あなたがテオとくっつけば、私とシェールの間にもはや障壁はありません!早いとこ乗り換えるのをオススメしますよ」
「ちょっと……」
テオはあんたにベタ惚れなのよ、と言おうとして口をつぐんだ。
……私って、誰からも愛されてないんじゃないかしら。