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遅れてしまいスミマセン
「……おはよう」
朝、高校生になってから、久しく聞いていない挨拶をした。
「おはよう、ございます」
少しぎこちない返しを聞いて、僕は欠伸をしながら振り返る。言うまでもなく声の主は麻耶。昨日と変わらない無表情がそこにいた。
昨日はなんだかんだで布団に入るのが遅くなってしまった。あのやりとりでの緊張からくる疲れもあってか、僕の頭は睡眠不足でいまいちまわらない…………のだが麻耶のほうはそのような感覚はないのか、変わらず平常運転。まあ、知り合ってから一日もたっていないのに「平常」なんていうのも変な表現だが。
「ところで、さ」
おもむろに、僕は麻耶に声をかけた。一人分の食事を用意しおわり、座り込むと、麻耶は自然な流れで僕の 正面にやってきた。
「昨日の話なんだけど……」
どうしようもなく気まずくて、僕は麻耶を直視せず言った。……仕方がないと言えばそれまでだが、麻耶はものを食べられない。それなのに、僕だけが朝食をとるのは、なんだか気が引けたのだ。
「閃は、物語をたおしてくれればいい」
麻耶は、相変わらず僕をまっすぐ見つめていた。感情のない彼女の瞳は少し怖い。
「はじめは、そう……起田」
「起田?」
彼女は静かに首肯した。
「起田は――」
麻耶の説明はとても簡素だ。
「……なるほど」
そして、それは、昨日のそれよりも随分わかりやすかったけど、大切なことが、一つ抜けていた。
「でも、そいつはどこにいるわけ?」
そもそも、会えない人間に、戦いを 挑むのは不可能。
だが、実態のない人間に、相手の場所を把握することなど、できるのだろうか。
「…………」
麻耶は、しばらく黙っていたが、不意に自分のポケットから、携帯電話をとりだした。そして少し操作したあと、こちらに画面をむけてくる。
「起田……って、起田ぁ!?」
麻耶の差し出したそれにははっきり、「起田」「呼び出し中」とあった。
「今から、聞く」
麻耶は無表情で呟いた。
「……っちょ、出た、出てる!!」
そんな間にも携帯電話は起田のそれと接続。僕だけ焦って、なんだか馬鹿みたいだ。
「もしもし……」
やはり、落ち着き払った態度の麻耶は、なんだかもう、頼りになるといってもいい気がした。もちろん、感情が無い所為だと分かってはい るのだが。
「ああ、うん、……わかった」
いつの間にか話がついたようで、麻耶は、携帯電話を閉じていた。
「携帯、使えるんだ……」
取り残されたような感覚を覚えて、僕はどこか呆然とした。
電話料金、どうなってんだろ。なんて、どうでもいいことが頭をよぎった。
「閃、場所はーーーー」
そんな、僕にお構いなく、麻耶は静かに話し出す。全く手をつけられなかった朝食は、すでに冷めていた。




