スペル発動
「あはははは。」
葵の笑い声が放課後の生徒会室に轟く。
「ちょっと、葵ちゃんうるさい。」
生徒会一影が薄い会長がビシッと言った。彼は会長の影の薄さに驚いたが、考えてみればそれは今に始まったことではなかった。会長候補が他に居れば十中八九落ちていた。しかしながら、他に対抗馬が居なかったため信任投票になった。過半数を取ればなれる展開であったにもかかわらず、ギリギリだった。影の薄さゆえのことだった。
「いいじゃない。ほとんどの仕事があたしなんだから。少しは感謝しなさいよ。」
葵は笑顔のまま反論した。会長は黙り込む。それを見ていた彼はズッコケた。
「反論できないんですか!?」
「うるさい、新入り。」
彼が言うと、会長は憎々しげな目でにらみつけながら言った。
(女子で「うるさい」一言か…。口下手なんだな…。取りあえず、姉貴みたいに暴れないだけマシか。)
「うん、だってそれが事実だから。ね?」
「……。」
葵の一言に反論できない生徒会長。朱音によると会長のスピーチの原稿を書いているのは葵だという話だ。それに加え、勉強の出来も葵より下だと魅麗が言っていた。
「でさぁ、淳司。あの人に新入りって言われっぱなしでいいの?」
葵は淳司に言った。
「別に構いませんよ。事実ですから。葵さんもそれくらいにしたらどうですか?」
彼の答えを聞いた葵がさらに畳み掛ける。
「憐れみを受けているようですよ?会長さん。」
「ふん。憐れみをどうも。」
会長の怒りの矛先は淳司に向いていた。
「孤立しますよ?」
淳司は短く返した、睨み付きで。彼の言葉の真意を知った会長は慌てて謝った。それを彼は笑って返した。
「あれあれ~。新入りにしっぽ振るの?」
「あなたの言動は目に余ります。」
彼は葵の言葉を遮って葵を睨み付けながら言った。
(この気配…!)
淳司はモンスターの気配を察知した。彼の表情は一変する。
「どうしたの?淳司君。」
朱音が言った。
「みなさん、モンスターです。一階の玄関ロビー。」
彼は気配の方へ精神を集中させる。制服の裾が少し浮く。
「何が起こったの?」
会長が言った。
「会長さんはここに残って。みなさん、行きますよ。」
淳司は生徒会室を飛び出した。
「何があったの?」
葵は呟いた。そのわきを魅麗と遥希がすり抜ける。
「私、行ってくる。」
「あーあ。結局、届かず仕舞いだね。かわいそうに…。」
「間に合ったか。みんな下がって。」
モンスターの群れは人ごみの手前まで来ていた。人ごみの中から淳司はロッドを片手に飛び出した。
「下がって。危ないから!」
彼は叫んだ。人ごみは徐々に後ろに下がっていく。モンスターとの距離は大きくなっていく。
「楢葉ーーー。」
魅麗と遥希が駆け付けた。それでも三人。モンスターは少なく見積もっても十はいた。遥希と魅麗もロッドを構える。
モンスターは一斉に攻撃を仕掛ける。後ろから悲鳴が聞こえる。三人は同時にロッドを地面につけた。青白い光の壁が現れ、モンスターはそこで止まる。モンスターの意識は三人に取られた。
「来るわ。」
遥希が言った。淳司はモンスターに切りかかっていく。
「楢葉、出過ぎよ。下がりなさい。」
魅麗が言ったのに対して、
「水流さんと二宮さんは援護お願いします。注意は俺がひきつけます。早く終わらせたいんで。」
淳司はモンスターの群れの中で踊るようにロッドを振る。モンスターの標的は淳司に確定した。ノーマークとなった魅麗と遥希は援護射撃をする。
彼は大きくロッドを水平に回す。気が付くと足元に赤い円が幾重にも連なっている。彼はその円の中心にロッドを突き立てた。
ドドーーーン
激しい音と紅蓮の光を放った。一面が紅蓮に染まる。遠くから魅麗の声がする。悲鳴か歓声も聞こえる。紅蓮の光が収まるとモンスターの数は格段に減っていた。あと一体。それもダメージを負っているようだ。
しかし、動きはいい。行動パターンも読めない。彼は攻撃をかわしながら魔法を撃っていくがなかなか当たらない。
(今だ。)
モンスターの間断のない攻撃のわずかな隙をついて地面を強く蹴った。あっという間にトップスピード。地面に足がつかない。地面すれすれを飛行している。彼がモンスターとすれ違う瞬間に攻撃が飛び交った。お互い当たった。彼はモンスターの奥三メートルくらいのところに落ちた。
「うぐ…。くっ。」
「楢葉!」
魅麗が心配そうな声を上げる。
「大丈夫です。あと一撃…。」
これで一つ分かったことがある。
(これは勝てる。)
吹き抜けになっている玄関ロビー。彼は飛び上がった。天井に近づくと天井に手をついて突き放した。高速で落ちていく。モンスターは目の前の消えた彼を探してきょろきょろしている。淳司はロッドを思い切りモンスターの頭にロッドを叩き込んだ。モンスターは吹き飛ばされ玄関のガラスを突き破り、彼方へ飛んで行った。
「楢葉ー!やったーーー。」
遥希が飛び跳ねる。魅麗は安堵して崩れ落ちる。淳司は一度ふわりと少し浮き、着地した。群衆は楢葉コールをする。
「楢葉、楢葉、楢葉、な…は、……は………」
それは次第に薄れ、消えていった。