魅麗の魔法
それから数日後。彼は生徒会室の雰囲気にも慣れて、居心地の悪い場所ではなくなった。むしろ、教室の方が居心地が悪い。彼が生徒会室に来た理由の一つだった。
彼はのんびりとティータイムを楽しんでいた。他に居たのは葵と魅麗だった。遥希と朱音は授業に行っている。ちなみに彼は前の時間、授業を受けていた。
大きな丸いテーブルに置かれたソーサーからティーカップを持ち上げ、紅茶を口にする。高い香りのダージリンティー。立ち上る湯気。それらが彼の心を安らがせた。葵と魅麗は喋りこんでいたが、彼は一人優雅なひと時を過ごしていた。
「ふー。」
「ふーじゃないでしょ。この紅茶、渋いじゃない。」
彼が息をつくと瑠唯が後ろから話しかける。
「あんたのが甘すぎるんだよ。砂糖5杯も入れてさ。」
(あれ?前、瑠唯にあんたなんて呼んだっけ?まあいいや。)
「あんたなんて無糖じゃない!よく飲めるよ。」
彼と瑠唯の口論が始まった。
「誰かいるの?」
魅麗が怪訝な表情で口をはさむ。
「小柳瑠唯。」
彼が答えると葵が激怒した。
「ちょっと!瑠唯先輩を呼び捨てにするなんてありえないでしょ!」
「あ、葵ちゃん…。あたしは気にしてないから…。」
しかし、瑠唯の声は葵には届いていない。
「瑠唯先輩に謝りなさい。」
「あの…うぐっ。」
彼が反論しようとした瞬間に体が奪われた。
「葵ちゃん、あたしは気にしてないから。」
「る、瑠唯先輩!?あ、あーーーーーーーーっ…!」
葵は後ろに椅子ごと倒れた。その刹那テーブルが葵の足に引っ掛り、テーブルはまっすぐ彼の頭を直撃した。
「ぐわっ。」
「危なかったぁ。でもちょっと痛い…。」
衝突する前に瑠唯は体を彼に素早く戻したため、被害を被ったのは彼だった。だがダメージの一部は瑠唯にもあった。彼は額を走る液体を拭った。ワイシャツが赤く染まった。汗だと思って拭ったが血だった。
「楢葉。大丈夫か?」
魅麗が彼に駆け寄った。彼はテーブルをどかして、魅麗の方を向いた。
「切れてる…。少し動かないでいて。」
魅麗は彼の傷口に容赦なく触れた。激痛が走った。漏れる声を必死に抑えた。魅麗はそのまま目を閉ざした。すると、彼の痛みは少しずつ消えていき10秒ほどたつと完全に消えていた。
(今のって回復魔法?)
「あ、ありがとうございます…。」
「気にしないで。」
葵はすでに起き上がっていたが、あちこち痛がっているだけだった。
(あの、俺の方が痛かったはずですが…。どうして先輩が痛がるんですか?)
彼はこれ見よがしにブレザーの袖をまくった。その下のワイシャツの血がまだ赤々としている。
「あ…。ゴメン。」
葵が驚いた表情で言った。
「別にいいですよ。もう治してもらいましたし。」
「そう…。」
葵の表情が曇った。魅麗は何か慌てた様子で教科書を抱えて生徒会室を出た。時計は4時限目の始まりの時間を刺していた。