アブダクションツアー
失われたモノの正体は何だ――
八生井純一郎は、その知らせを聞いた瞬間、胸の奥があつくなった。
UFOに連れ去られるツアー。
彼は半生を、夜空の光に捧げてきた。無数の写真を撮り、証言を集め、深夜のラジオに耳を澄ませ、誰も信じない話をノートに綴り続けた。
だが、どれほど姿を捉えても、どれほど近づいたつもりでも、本当の接触は一度もなかった。
常に、向こう側のガラスを隔てて眺めているだけだった。参加費は百万円。彼にとっては安いものだった。
待ち合わせは歌舞伎町の雑踏の奥。参加者は六人。誰もが同じような、どこか熱を帯びた目をしていた。
案内人に連れられ、古いビルの屋上へ上がる。
そこには、一人用の卵形のカプセルが並んでいた。滑らかな白い表面。内部は狭いが、横たわるには十分なスペースがある。
「横になってください。あとは、あちらにお任せを」
カプセルの蓋がゆっくりと閉まる。暗闇。微かな振動。そして、意識が遠のいていく。気付けば、彼は白いベッドに横たわっていた。
周囲には、細長い四肢と大きな黒い目を持つ存在が、無言で佇んでいる。
冷たい光が降り注ぎ、皮膚に触れる感触がある。何かが、腹部の奥へと沈んでいくような、奇妙な圧力。痛みはほとんどなかった。
ただ、異物が静かに定着していく感覚だけがあった。目が覚めると、彼は屋上のカプセルの中にいた。
蓋が開かれ、夜風が顔を撫でる。他の参加者も、ぼんやりと起き上がっている。誰もが、同じような虚ろな表情を浮かべていた。
家に帰り、鏡の前に立つ。左の脇腹に、縫い跡があった。細い、丁寧な線。皮膚がわずかに引きつれ、触れると鈍い痛みが走る。
これが証拠だ。宇宙人が、何かを埋め込んだのだ。彼は胸を高鳴らせた。ついに、接触が成就したのだ。
未知の物質が、今、自分の体内で静かに息づいている。その事実だけで、これまでの空虚な日々が報われた気がした。
だが、すぐに違和感が訪れた。埋め込んだはずなのに、何かが失われたような、大きな虚無感が、腹の奥から広がってくる。
重みが足りない。何か、大切なものが引き抜かれたあとのような、冷たい空洞が残っている気がする。
縫い跡を見るたび、彼は思う。俺の体の中には、未知のものが埋まっている。それなのに、なぜこんなに軽いのか。
なぜ、こんなに欠落しているような気がするのか。彼はもう一度、ツアーに参加しようとした。
だが、案内は二度と来なかった。一生に一度きりのものらしい。
今も、左の脇腹の縫い跡を指でなぞりながら、八生井は夜空を見上げる。埋め込まれたものが、いつか目覚めるのを待ちながら。
その一方で、腹の奥の空洞は、日に日に深く、静かに広がっていくばかりだった。
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