第3話 捨てる神あれば拾う神あり――となる
工房に戻ったボクは、売れなかった盾を荷車から下ろし、工房へ運んだ。
一週間かけて作った盾、二十五個を工房の棚に積み上げると、机の上を見る。そこには材料屋から届いた請求書が置かれていた。請求額は大銀貨三枚に銀貨七枚、それと銅貨五枚。これを明日までに支払わないとボクは破産。
しかし、実のところ支払いどころか、食料を買うおカネもなかった。
「支払いを来週まで待ってもらうように、頼むしかないよな……」
とはいっても、来週になったからってお金が入る保証はない。
「チクショー。女神のヤツ、ダマしやがって……」
なにが盾職人は競合相手が少ない――だ。ぜんぜん話が違うじゃないか……
まあ、話を信じた自分も悪い。あの頭の足りなそうな女神のせいばかりにはできないのだけど……
その時、オナカが「ぐうっ」となる。どんな時でも、食欲は出てくるものだ。
とにかく、食料を買わなければ――そう思い、何かおカネになるモノはないかと倉庫の中を探していた時、工房の入り口から男性の声が聞こえてきた。
「よう! ヒロト、ひさしぶり!」
「アーノルドさん!」
アーノルド・バーンさんは、ボクのお得意様。身長百九十センチ。ボクより二歳上の二十七歳。ハリウッド映画に出演するアクションスターばりの筋肉ムキムキ剣士である。何の装飾もない白銀の甲冑は、その勇ましさを際立たせる。彼も召喚人で出身はオーストラリアだとか。現在、『王国の双璧』と呼ばれるトップランク冒険者パーティ『ブルズ』のタンク役を担っていた。
「さっそくだけど、コレの修理を頼むな」
そう言って、軽々と担いでいた超合金製の大盾を隅にある盾置きに立てかけた。
これはボクが作った自慢の盾。初めてレベル七十クラスの盾を作った思い出の品なんだよな。材料はアーノルドさんが用意してくれて、わざわざボクに作成を頼んでくれたんだ。
「いやあ、やっぱりヒロトの盾は最高だよ! 他の職人が作った盾はダメだ」
そう言ってくれるは大変うれしい。とても励みになる。
「ありがとうございます。修理、わかりました」
「とりあえずこれだけ渡しておくな」
そう言って、ボクの前に大銀貨を五枚置いた。
「受け取りに来るとき、不足分を支払うでイイかな?」
「ハイ! ありがとうございます!」
「お、おい……何、泣いているんだよ」
いつの間にか、自分の頬を涙が流れていた。大銀貨一枚で銀貨十枚分、銅貨百枚分になる。
つまり、材料屋に代金を支払っても、まだ大銀貨一枚、銀貨二枚、銅貨五枚が残る計算だ。これで数日分の食費がなんとかなると思うと、うれしくて仕方なかった。
武具屋で、同じ召喚人の防具職人、マサヒコからバカにされても言い返せない自分がくやしかったのだが、こうして、助けてくれる人もいる!
それをアーノルドさんに話すと……
「そうだったのか――マサヒコがな」
アーノルドさんも召喚人としては先行組なので、マサヒコのことを良く知っているそうだ。
「最初のころは、マサヒコ以外に魔法銀の防具を作れる職人がいなくてな。アイツから買っていたのだけど、公爵お抱えになってから、価格を倍に上げてきたんだよ」
さすがに高すぎると、今は、別の職人から防具を買っている――そう彼は言う。
「よし! わかった!」
そう声にすると、彼は追加で大銀貨五枚を置いた。
「えっ? これって?」
「いつもお世話になっているからな、修理代に上乗せするよ」
「そ、そんな、さすがにもらえませんよ」
「もらっておいてくれ! 正直、ヒロトに廃業されたらオレが困るんだ。これからも、困ったことがあったら、オレに相談しろよ。なんとかするから」
それを聞いてボクのムネは熱くなった。こんな人がお得意さんにいて、本当によかった!
「ありがとうございます。この五枚はおカネの工面ができたら、必ず返しますので……」
「ダマってもらっておけばイイのに――まあ、そこがヒロトだよな。わかった、いつでもいいぞ」
アーノルドさんはボクの背中をたたく。本人は軽いノリのつもりだったのだろうけど、結構痛かった。「それじゃ一週間後、受け取りに来るから」と言って、彼は工房をあとにする。
とにかく、これで数日はおカネの心配をしなくて済む。そう思うと急激にハラが減ってきた。
「よし! まずは食料を買いに行くか」
早速、外に出る。市場までの途中、人通りの少ない場所で、フラフラと左右によろけながら歩いている女の子を見かけた。
なんか、体調が悪るそうだけど……大丈夫か?
そう思った矢先、いきなりそのコが転倒するではないか!
「お、おい! キミ! どうしたんだぁ⁉」




