買い物
これだけの人数がいるのだから全員で出かけるのは不便だ。
だけども、生活物資は必要なわけで……。
「着るものに文句を言わなさそうなのは……アラストルくらいだな……」
玻璃も言わないだろうが、不満そうな顔はするだろう。
まったく、クレッシェンテ人は文句が多くて嫌になる。
かといって、スペードとジルを一緒につれて歩くわけには行かない。
「買い物要員は四人まで、さて、誰を連れて行くか……」
とりあえず男手は必要だ。それなりに金銭感覚がある奴が良い。
「セシリオと、瑠璃は決定かな?」
「おや? てっきり真っ先に玻璃を指名するかと思いました」
「そう? けど、玻璃はまだ服くらいしか文句言わないだろうし、何より買い物に行って余計なものを買いそうだから」
クレッシェンテでウラーノと玻璃は浪費家で有名だったはずだ。玻璃にいたっては「カモ」とまで言われていた。
「で、朔夜も。けどねぇ、三人じゃ荷物もちが足りないよ。ってことでさ、荷物もち、誰か……メディシナ! あんた、まだマシな格好してる! ちょっと趣味悪いけど」
「趣味悪いは余計だ」
「メディシナ同行決定! ってワケで行くわよ?」
イトーヨーカドーへ。
近いって素敵。
「ほら、セシリオ、早く行くよ」
「……こんな昼間に出かけるんですか?」
「……あのね、夜はどの店も閉まってるの!」
「だったら奪えば良いじゃないですか。買い物なんてめんどくさい」
「いや、あんたねぇ……ここはクレッシェンテじゃないの! 日本よ! 日本! 素晴らしき北の大地北海道! あんたのお国事情と一緒にしないで」
ああ、私は愛する函館にこんなにも犯罪者を連れてきてしまったのだろうか……。
特にセシリオとスペードは思考がぶっ飛んでるから危険だ。
歩きながら説教をし、結局朔夜がセシリオを宥める。
これだから朔夜がいなかったら何も行動できない。
つれてきて正解だ。
「まずは紳士服から見ようか、ねぇ? 朔夜」
「ええ。そうね。あら、あれなんてアラストル・マングスタに似合いそうじゃない?」
楽しそうに朔夜が指差す先にあるのは赤いジャージ。
某お笑い芸人が着ていても違和感がないそれを朔夜は本当に楽しそうに眺めている。
「見たことのない素材ね。一体何で出来ているのかしら?」
「確かにこりゃ珍しいな。国に持ち帰れば高値で売れるかもしれねぇ」
4980円のジャージが高値で取引されるって、やっぱりクレッシェンテは妙な国だ。
「……じゃあ、アラストルにはジャージでいっか」
ちょっと高いけど。
警備の仕事は制服支給だし。
あー、予算五万円なのに……。
「ユニクロにすればよかっただろうか……」
全員色違いでフリースとか揃えたりしたら楽しそうだなぁ。
なんて現実逃避。
「瑠璃、アクセは買えないから」
「え? お前、金ないんだな」
「うるさい。これでもお年玉全額下してきたんだけど?」
世界の宗教全集買おうと思ってたのに。
「私が貴重な本を、それこそ書店で「取扱注意」の表示が出るほど貴重な本を買うために貯めていたお金をあんたたちの服を買うために下してきたんだけど?」
「まぁ……薫……」
朔夜がじっと、私を見る。
「あなたって子は……いいわ。髪を売ってくる」
「いや、そういう問題じゃないから」
なんでそいう言う発想になるんだろう。
「いつの時代だって女は髪を売るものよ。私だってセシリオに会う前は髪を売っていたもの」
この色はあんまり高値にはならないけどと朔夜は言う。
「いや、こっちじゃあんまり髪買う人居ないから売れないと思うなぁ……」
人工で作っちゃえるからね。
セシリオが必死になって何か言って止めようとしてるけど、最早電波で何を言っているか聞き取れない。
いや、理解できない。
「売れないの?」
「うん。だからやめてね」
朔夜がここで髪を切ったらセシリオに殺されそうだ。
「さぁて、次。女の子の服買おうか。玻璃は私の貸しても良いけど、ってか今も私の着せてるんだけど、パジャマくらい買ってあげなきゃ可哀想だと思うし、朔夜は母さんの服で良いって言うけどやっぱり年齢的に可哀想だから買おうか。でも、瑠璃とミカエラ重視だよ? 特にミカエラ……羨ましいくらいスタイル良いからなぁ……」
母さんのブラウス、Mサイズなのにボタン飛んだのみた時には泣きたくなった。
「玻璃を見て安心したよ」
「なんだそりゃ」
「あー、下着のサイズ訊くの忘れてた」
「は?」
「ミカエラ、絶対普通の売り場に売ってないって」
絶対通販でダサいのしか買えないランクのサイズだって。
「瑠璃も結構あるよね……玻璃や朔夜はフリーサイズのあれでいいと思うけど」
一枚980円のやつ。
「うーん、フリーサイズって書いてるしな……買ってみる?」
瑠璃を見上げれば溜息を吐かれる。
「私はいらん。それよりあれ着てみたいんだが」
「あれ?」
瑠璃が指したのはなんだかキャラクターの書かれたTシャツだ。
どうやら私があちらに行っている間に発表された新キャラクターらしく知らないキャラクターだが、なんだか不細工なリスだ。
「あんなの好きなの?」
「なんかずっと見てると可愛く見えてくるだろ?」
「そう?」
「なんだか見つめられてる気がしてな」
「可愛いじゃない」
朔夜まで……。
「いいよ。じゃあ、あれ四枚サイズ違いで買ってこう?」
一枚500円だし。
「玻璃はSで良いだろうし、朔夜も瑠璃もMかな? ミカエラは……L?」
あの人背も高いからなぁ。ウェスト細いくせに。
「セシリオもいる?」
婦人物だけど着ても違和感ないであろうセシリオに訊ねる。
「僕は結構です」
「そう?」
なんだ。つまらない。
「790円のジーパンとか買っていこうかな。あ、でもミカエラほんっとサイズわかんないや。やっぱ後で本人連れて来なきゃダメかな?」
ミカエラもジャージだろうか。
いや、あの人は……意外と似合うかもしれない。
でも、ジャージで外出して欲しくない。妙なジレンマが生まれた。
「ミカエラだったらあれ、似合うんじゃないか?」
瑠璃が指したのはスーツだ。それも就活する学生が着るような。
「就活戦士かよ」
「なぁに? それ」
「んー、誰もが一度は戦わなきゃいけない大きな敵と戦うための装備だよ」
「それでは貴方も戦うのですか?」
戦いと言う言葉に反応したらしいセシリオに訊かれる。
「まぁね」
いいなぁ。クレッシェンテのみんなは難なくこなしたんだろうな。面接とか試験とかまったく無いだろうし。
「どんな敵なんだ?」
「そうだね、面接官とライバルと戦わなきゃいけない、かな? あと、社会」
「は?」
「うん、社会って敵が一番大きいかもしれない。就職して働くと税金持って行かれるし、ハタチなったら選挙権って言うものも使わなきゃだし。選挙ってわかる?」
「なにそれ?」
瑠璃ははじめて聞いたといわんばかりに私を見た。
「民主主義ってわかる?」
「知らん」
「んー、後で社会の教科書かしてあげる」
嘘教えたら後が怖い。
「まぁ、どの国に居たって税金は持ってかれるだろ?」
「そうだけどね」
そういえばこの人たち全員社会人だ
「瑠璃ってどのくらい税金払ってるの?」
「知らない。マスターがまとめて、報酬から引いて払ってるから」
意外。
真面目だ。セシリオ。
「メディシナは?」
「……まぁ、それなりにな」
誤魔化した。
絶対この人なんかやってる!
「まぁ、良いじゃない。私は二割よ。あと三割は寄付だから、手元に残るのは五割かしら?」
具体的だった。朔夜。
「それって、どうなの?」
「別に使わないから貯まる一方で関心もなくなるわ」
朔夜は本当に興味なさそうに言う。
「僕は稼ぐのは大好きですけどね」
「仕事が好き過ぎて趣味が仕事ですってやつか?」
「僕の趣味が仕事だったら人口は減る一方ですよ?」
「玻璃は趣味が仕事っていうか、仕事が遊びみたいだけどな」
げっそりと瑠璃が言う。
「あの子は特殊です。それでも報酬にならない殺しはしないから偉いでしょう?」
「まぁ、そうかもしれないけど……」
殺しが普通の時点で異常だって気付いてよ。
なんて、この人たちに言っても無駄なことを私は忘れていた。