4. 把握
「おーい、リヴィアー?」
体を揺すぶられる感覚と、呼びかけてくる声で私は目を開いた。
至近距離でのぞき込んでくる藍色の瞳と目が合う。
そうか、私は気を失っていたのか、と自分のことながら驚く。
「悪いな。そんなに高いところが無理だって知らなかったんだ」
「いえ、こちらこそすみません……」
謝罪しつつ、私は身を起こす。
と言っても、まだ横抱きにされた状態のままなので、軽く体勢を整えるだけに終わったが。
「無事、城の中に入れたぞ。私が言うのもなんだが、もう少し城の警備を厚くさせた方がよさそうだな」
城に不法侵入できたのは貴方の身体能力が異常だからです、と言いたくなったのをぐっとこらえる。
途中までは確かに、地道に木を登ればいいかもしれない。
しかし、記憶が正しければ、城壁は木の先端よりも遥かに高かったはずである。
どうやって登ったのか聞きたいところではあったが、心臓に悪そうなのでやめておく。
「んじゃ、私の部屋まで行くぞ」
「ど、どうやってですか?」
「こうやってだ」
そう言うが早いか、レオナは私を抱えたまま走り出した。
なんでこうも唐突に動き始めるのか。
彼女が第一王女でなければ、文句の一つでも言いたいところだった。
しかし、レオナは本当に足が速い。
音を立てずに走るさまは、さながら荒野を走る狼のようであった。
ビシビシと容赦なく顔に当たる風が痛い。
耳など、とうに感覚がなくなっている。
ついでに、風に煽られる髪が邪魔で邪魔で仕方が無い。
枝毛だらけの髪の汚れが、勢いで取れていく。
しかし、衛兵の目を潜り抜け、時には獣のように壁に飛び移る彼女はいっそ美しくさえ見える。
見惚れている場合ではないのだが、ずっと色のない世界で生きてきた私にとって、彼女はあまりにも鮮やかだったのだ。
それにしても、どうしてこんなに衛兵がいないのだろう。
レオナが衛兵の少ない場所を、把握はしているのだろうが、それにしても少な過ぎる。
王城とはこのようなものなのだろうか?
私は逆に怖くなった。
走り続けてからしばらくすると、今までと少し雰囲気の違う場所に出る。
穏やかな雰囲気を醸し出すここは、公式に使われる場所ではなさそうだった。
物凄い速度で、ぐんぐんと建物に近づいていく。
レオナは建物が迫っても全く速度を下げず、寧ろ加速させて壁に向かって突っ込んでいった。
無論、彼女に抱きかかえられている私は気が気ではない。
眼前まで壁が迫り、私は歯を食いしばる。
激突する寸前、レオナは私を両手で胸の中に抱いていた形から、片腕で脇に挟むような形に変えた。
そして、走った勢いのまま飛び上がり、自由になった片手で壁の僅かなでっぱりに指をかけ尋常ではない速さでよじ登り始める。
これは最早狼ではなく、ヤモリか鼠のようである。
あまりにも、原始的な登り方であった。
そして図らずも、先ほどの私の疑問は解消されたのである。
――この人、絶対第一王女やってていい人間じゃない。
そして当たり前のように、私は再び意識を失った。
クマネズミという種類のネズミは、とても登るのが上手いそうです。
普通に二階や屋根裏に侵入していたとか。




