13. 情報
「王族に気を使おうなどと考える必要はありません。正直に答えて頂けると幸いです」
「分かりました」
メディクス殿下の目は、質問を始める前よりも大きく開いている。
まるで全ての情報を漏らさず手に入れようとしているようで、彼の本気が垣間見えた。
「では率直に伺いましょう。貧民街での食事は足りていましたか?」
「いいえ、まったく。施療院から毎日粥を与えられていましたが、到底満足できる量ではありませんでした」
「そうですか……改善するべきですね」
さらさらと、特徴のある文字が紙に書かれていく。
記録を取るのに慣れているらしく、彼は必要なことを簡潔に纏めていた。
「次の質問です。貧民街で伝染病が流行ることが多いようですが、その理由として考えられることはありますか?」
「衛生環境が悪いので……。大通りに面していない場所では遺体が片付けられていなかったり、捨てられた排せつ物などが溜まっていることがあります」
「なるほど。排せつ物は川か、道に捨てられますからね」
「他に困ったことなどはありますか?」
「……瓦礫ですね。ただでさえ整備されていない道が、さらに歩きにくくなってしまうんです」
「13年前の戦争の片付けが追い付いていませんか……。隣国からの難民の受け入れなどがある大規模な戦争でしたから、後回しにされている部分があるのでしょう」
城に来てからの短い時間で知った語彙を駆使し、何とか答えていく。
先ほどよりも明らかに饒舌になった彼との会話についていくのは至難の業だ。
というか、何故私に対して彼は敬語を使っているんだろう。
生来からの癖だったりするんだろうか。
「問題は山積みですね。こちらが把握していたこともありますが、やはり生の声を聴くのが一番です」
その後も幾つかの質問を受け、暫くしたところで彼は羽ペンを置いた。
そして、大事そうに紙を侍女に渡す。
少しでも役に立てたのならばいいが。
「気は済んだか?メディクス」
「ええ。貴重な機会を恵んでくださり、ありがとうございました」
メディクス殿下は満足げな表情でレオナの質問に答える。
特に明るい話でもなかったはずだが、研究者からしたら興味深い話だったのかもしれない。
「それは良かった。なら、食事に戻れ」
「はい。途中で抜けてしまい、申し訳ありませんでした」
かなり冷めてしまっただろうが、メディクス殿下は気にせず食事に戻る。
レオナが言い出したとはいえ、食事中に別のことをするのはマナー違反ではないのだろうか。
でもまあ、この緩さが姉弟の仲を表しているようでもあった。
「また来るか?」
「ええ」
レオナが問うと、メディクス殿下が短く頷いた。
貧民街の話をまた聞きたいとは、相当な物好きなのだろう。
「国民の健康を守る。それが私の役目であり、願いですから」
仄かに気だるげな彼の顔には、確かな決意が宿っている。
流石は、研究者となる為に様々なものを蹴った男だ。
レオナに聞いたのだが、この国に生まれた王子は外交を担当したり、軍や政府での役職に就くことが多いらしい。
基本的に王位を継ぐことはないが、それなりの地位に就くのが常だ。
しかし、メディクス殿下はそれらの地位を拒否し、研究者となる道を選んだ。
この国は北から西にかけて山脈が連なっており、東側には海が広がっている。
13年前まで戦争をしていた隣国、アウレリア帝国との仲は良好らしく、政略結婚も必要なかった。
その為、彼は国内で研究を続けることが出来たそうだ。
13年前の戦争は、なんでもアウレリア帝国の王位争いに巻き込まれたらしい。
主な貿易相手となっている帝国で内乱が起こったのだから、王国も混乱状態になるだろうと簡単に予想できる。
そう考えると、今の王国の状態はましな方なのかもしれない。
「ご協力お願いしますね、リヴィア」
「……はい」
救われた身だ。
もとより断ることなど出来はしないのだが、積極的に力になろうと思った。
この時代に水洗トイレは無かったので、城や修道院では堀や川に直接捨てられることがほとんどでした。
道に捨てる文化もあり、「気を付けろ!」と声を掛けてから捨てたとか。
気を付けろというのも無茶な気がしますね。
本格的な水洗トイレが登場したのは、19世紀以降です。
まあ中世ヨーロッパ風の世界なのであってもいいんですが、一応、無しの設定です。




