11. 歓迎
「レオナ様。メディクス殿下がいらっしゃいました」
「通せ」
レオナが指示をすると、近衛兵のクストスが扉を開ける。
私は唾をのみ、入ってきた青年を観察した。
年は、17でレオナと1歳違いらしい。
実はレオナが18歳だと知った時は驚いた。
彼は、現女王セレナ・グラディア陛下とアウグスト王配殿下の実子であり、レオナの実の弟だ。
アウグスト様譲りの黒髪をやや長めに伸ばし、横へ流している。
血色の悪い肌に長めの前髪が影を落とし、いかにも研究者といった雰囲気を漂わせていた。
レオナによれば、その顔色の悪さは生まれつきらしい。
濃紺のローブの袖を軽く折っている彼からは、何とも言えない怪しげな気配さえ感じる。
「よく来たな、メディクス」
「お元気そうで何よりです。姉上」
その会話を聞いた途端、私は思わずぎょっとしてしまう。
今まで私か、信頼できる侍女と近衛兵にしか使っていなかった口調を、弟に対して使用している。
とても親しそうだった、騎士の者達とでさえ敬語で話をしていたのというのに。
「リヴィア、非公式だって言っただろ?公式の場だったら私も口調を変えるし、お互いに服もましなものにする。公式じゃないときはこんな感じだ」
レオナは、私の疑問を見透かしたように視線を寄越してくる。
2人は仲がいい、ということなのだろう。
アウグスト様とは、非公式の場であっても敬語で会話していたが、あれはまた別なのだろうか。
王族ってむつかしい。
私はあらためて実感した。
「メディクス。今日はリヴィアに話を聞きたいってことでよかったよな?」
「ええ。是非とも聞いてみたかったので。貴重な資料です」
不穏な言葉と共に、メディクス殿下がこちらを向く。
私は、その深い闇の様な黒い瞳に吸い込まれそうになるのを必死にこらえた。
レオナの澄んだ藍色とはまた違った魅力のある、美しい瞳だ。
私は何とか綺麗な姿勢を保ち、彼が喋り始めるのを待つ。
待つこと1分。
部屋を静寂が支配していた。
「……メディクス。取り敢えず食事にしよう」
「承知いたしました」
話を始めない彼に、レオナが呆れたような表情で椅子をすすめる。
何を考えているのか分からないメディクスに、私は気づかれない程度に顔を引き攣らせた。
「悪いな、リヴィア。こいつは公式の場じゃないと、知らない相手との話し方が分からなくなるんだ」
まさかの、口下手であった。
執務室の広い机に、食事が並べられていく。
普段レオナが仕事をしているのとはまた別の机だ。
部屋が大きいというのは便利なものである。
本日の主食は、グストラの煮込みだ。
グストラはグラディア王国でしか獲ることが出来ない魚で、脂は控えめだが後味に甘みがあり人気の魚だ。
そのため、隣国であるアウレリア帝国への主要な輸出品の1つになっている。
そんなグストラを白ワインでで煮込み、マスタードをつけて食べると絶品らしい。
レオナがナイフとフォークを操り、綺麗に切り取られた身は白い。
ほろりと崩れた身から、温かな湯気が立ち上った。
上品なワインと、最高品質のグストラの優雅な香りが部屋中に漂う。
食欲をそそる匂いに、私は目を瞑った。
「さて、早速ですが、開始しても構いませんか?」
「構わない」
彼女達が食べ始めてからそれほどせずに、メディクス殿下が切り出す。
レオナが頷き、メディクス殿下が再び私の方に向きなおった。
彼は真剣な表情になると、真っ直ぐに私を見詰めてくる。
「まず初めに―——姉上に攫われたとのこと、災難でしたね。……そして、ようこそ。“姉上被害者の会”へ」
「……はい?」
ここで出てくる『グストラ』という魚はこの物語のオリジナルです。
存在しません。
まあ、味は鱈です。




