レアモンスター
銅蟻を倒してさらに奥へ進んでいくと、横穴から赤黒い影が飛び出した。
「…血兎か」
赤い目を光らせた血兎が、一気に加速して距離を詰めてくる。角兎より速いが、レベルも上がった今の和真には十分追える速度だ。
ただ――
「曲がった!?」
突進してきた血兎が、直前で急角度に軌道を変え、横から狙ってきた。角兎とは違い、予測が難しい。和真はわずかに体をひねってかわし、すれ違いざまにアイアンソードで斬りつける。
ガッ!
斬撃が浅く入る手応え。血兎の皮が分厚い。
「くっ…でも、この程度なら!」
次の突撃も読み、今度は踏み込みながらの斬り。血兎の動きがわずかに止まり、勢いのまま床を滑る。逃すまいと、距離を詰めて一撃。
ドッ―と血霧が舞い、血兎は煙になって消えた
「…ふぅ。速いけど、対応できるな」
身体強化を使うまでもないが、油断したら角に刺されるぐらいの危険度はある。
足元を見ると、魔石(極小)と血兎の角、それから赤黒い毛皮が落ちていた。
「血兎の毛皮はそこそこ値段つくんだよな。ありがたい」
和真はドロップ品を拾いながら、成長した自分を少しだけ実感した。
それから和真は四階層の通路を進んでいると、赤黒い毛並みの血兎が一匹、いるのを発見した。
「血兎…ん? なんか光ってる?」
よく見ると、血兎の額に小さな赤い結晶のようなものが埋まっている。今まで見た個体や攻略サイトには、あんなものは付いていなかったはずだ。
「なんだこれ変異種か..?」
悩んでも仕方ないので、とりあえず狩ってみる
ことにした。和真が足音を消して距離を詰めると、血兎はこちらに気付き、鋭く跳ねて突っ込んできた。だが、速いといっても通常個体と大差はない。和真は一歩横に避け、着地のタイミングでアイアンソードを振り下ろす。勢いのまま血兎が剣に突っ込み、あっさりと真っ二つに切り裂かれた。
「よし!って、あれ?」
血兎の体が淡く光り、額の赤い結晶が砕け散った。代わりに白い球体がころん、と足元に落ちる。和真の心臓が止まりかける。
「えっ…ちょ、これ…まさか...!」
視界に入ってきた球体は、攻略サイトで散々見てきた“あれ”そのものだった。透明感のある白い外殻。ぼんやり光る核。そして、このサイズ。
間違いなく——
「スキルオーブ……!? マジで!? 本物ッ!? うわああああ!!」
思わず小声で叫びながら飛び跳ねる。初心者ダンジョンにスキルオーブなんて、動画でもほとんど見たことがない。都市伝説レベルの超レアドロップだ。しかしすぐ問題に気づく。
「でも、俺、鑑定持ってないから中身わからないんだよな」
スキルオーブは使うまで効果が不明。本当に何が起こるかわからない。喉がゴクリと鳴る。
未知の力を身体に取り込むなんて、普通に考えれば危険だ。だが和真は、オーブを胸の前でぎゅっと握りしめた
「よし。いくぞ!」
深呼吸をして、スキルオーブを手の中で砕く。
光が弾け、霧のように身体へ吸い込まれていった。一瞬、心臓がバクンと震える。
そして――
『【鑑定】を習得しました。』
「えっ…これ、鑑定...?」
頭が真っ白になる。
鑑定といえば、選ばれた探索者しか持っていない、超レアスキル。そんなものが――自分に?
「マジかよ…こんなの…最高じゃん!」
膝が笑いそうになるほどの衝撃。
和真はしばらく、その場でオーブを持っていた手を見つめていた。




