緑の異形
初心者ダンジョンの1階層に出現するモンスターは2種類、角兎と、低確率でゴブリンだ。
和真の目の前には、普通の兎よりひと回り大きいウサギ――額に小さな角を生やした角兎が姿を現した。初心者でも倒せる弱いモンスターだ。
初心者向けとはいえ、相手はモンスター。
ほんの少しでも気を抜けば死ぬ
和真はショートソードを構え、じりじりと間合いを詰めていく。しかし、その瞬間――
「キュピィ!」
「うぉ!? 危ねぇっ! 」
角兎が弾丸のように突進してきた。
和真は反射的に横に跳び、ギリギリで回避する。
和真は、角兎が通り過ぎた瞬間、振り返りざまにショートソードで角兎の背中を切り裂く。
ザシュッ!
「剣術スキルのおかげか…すげぇ、なんか自然に振れた気がする」
角兎はよろよろと起き上がろうとしてきた、まだよわよわしいが戦意を失っていない。
和真は少しだけ申し訳なさを覚えつつ、剣を振り下ろした。
「見た目は可愛いからちょっと罪悪感があるな」
すると角兎は煙となって消え、その跡には小さな石ころのような魔石が一つ、コロンと転がった。
「これが魔石か。このサイズだと50円くらい?命懸けでこれは割に合わないな」
和真は思わず苦笑いが漏れる。
(でも、最初はこんなもんか)
和真は気持ちを切り替え、ダンジョンの奥へと足を進めた
「流石に一匹だけじゃレベルも上がらないか。
まずは、レベル1アップそれを、今日の目標にしよう」
そこから、角兎を三匹ほど倒した頃、ついにその瞬間が訪れた。
ピコンッ!
「お、レベル上がった!」
目の前にステータスウィンドウが展開する。
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名前 : 東堂 和真
年齢 :18 性別:男
Lv: 1 → 2
称号: なし
HP:120 →130
MP:30 → 35
攻撃力: 6 → 8
防御力: 5 → 6
魔力: 3
俊敏: 5 → 8
知力: 4
スキル: 【剣術Lv1】
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ステータスの伸びには"どれだけ必死だったか"
"どれだけ危険だったか”が反映される。
死にかけたり格上を倒したりすると大きく伸びるが、楽をするとほとんど伸びない。
魔力が伸びていないのは、魔法を使っていないためだ。
「よし!今日の目的は達成したし、そろそろ帰るか」
和真は、今日は探索をこれで終わることにした。
角兎三匹の成果は魔石二つ。ドロップしないこともあるので、まあ仕方がない。
「ここに来たのが3時くらいだし…今は夕方か。まぁ、初日にしては十分かな」
そう思って入口へ戻ろうとしたそのとき――
ドタドタドタ!
こちらに向かってくる足音が響いた。
(この足音角兎じゃない?)
目を凝らすと、暗がりの奥から現れたのは、
身長130cmほどの緑色の人型、ギラついた瞳
右手に棍棒を持ったゴブリンが走ってきていた。
「ゴブリンか...!」
角兎より数倍危険なモンスター
距離はすでに近い。和真は覚悟を決め、ショートソードを構え直す。
ゴブリンが勢いよく棍棒を振り下ろす。
ブンッ!
ガキィンッ!
和真は剣で受け止め、力いっぱい弾き返す。
よろけたゴブリンの胴へ横薙ぎの一撃を与えるが――浅い。
次の瞬間、棍棒が和真の左肩へ叩きつけられた。
ゴッ!
「あぐっ…クソッ....! はぁぁぁぁっ!」
痛みに顔を歪めながら、渾身の力で剣を振り下ろす。その一撃は、ゴブリンの首元に深く入り、
これが決定打となり、ゴブリンは煙となって消えた。
「…はぁ…はぁ…やれたと思って…油断した」
HP 110/130
(痛みのわりに思ったよりHPが減ってないな)
左肩を見ると赤くなっているが、問題なく腕は普通に動かせので大丈夫そうだ。
「初日でこれか…次は、油断しない」
そう気持ちを改めて、和真はダンジョンの出口へと歩き始めた。




