4-9. あなたの責務を果たしなさい
薬のおかげで熱は下がったようだが、まだ体に力が入らなかった。ベッドに横になったまま、僕はぼおっとしていた。ずっとトートを椅子で寝さす形になって申し訳なかったが、他にどうしようもなかった。
彼女はベランダで空を眺めていた。この数日、そこで長い時間を過ごしているようだった。風邪が感染らないようにしているのだろう。
窓越しの彼女の後ろ姿を僕は眺めていた。均整のとれたその体。とても美しい。
「わかった」
唐突に彼女は、そう口にした。けど気のせいだったかも。ベランダでの声は発散してしまい、部屋からはよく聞き取れないから。
彼女は振り向いた。そして部屋に戻ってきた。その目はまっすぐに僕を見ていた。とても神秘的な、黒い瞳……。
彼女は僕の枕元にやってきた。ああ、そんなに近づいたら風邪が感染っちゃうよ……。
そんなことを気にとめる様子はなかった。
「やっとわかった。あなたは仕事をしくじったの」
断定的に言われた。なんのことだか全然わからなかった。ぼおっとした頭を頑張って働かそうとしてみたけど、すぐに諦めるしかないと感じた。
「え?」
僕の声は酷くかすれていた。けれど続ける。
「何の話?」
トートはそれには答えず、こう言った。
「私の目を見て」
言われるがままにそうする以外、僕に選択肢はなかった。
彼女の目はまっすぐに僕に向けられていた。強いまなざし。そんな彼女を見るのは初めてだ。そして、その美しい唇から、低く、言葉が放たれた。
「あなたの責務を果たしなさい」
そのまなざしに、僕はただ恐れ慄いた。
彼女の背後に光を感じた。僕は困惑するしかなかった。
その光はどんどんと強くなって、僕はもう眩しさに目を開けていられないと思ったのだけれど、目をつむることもできなかった。
体が浮きあがるような、奇妙な感覚があった。
光の奔流が僕の周りを駆け巡った。
ついには視界が真っ白になって、そのなかに僕は、微かに彼女の不思議なまなざしだけを感じていた――。




